「プロミシング・ヤング・ウーマン」

一条真也です。
4回目の緊急事態宣言が発令された東京で、13日にブログ「東京リベンジャーズ」で紹介した日本映画を観た後、TOHOシネマズ日比谷でアメリカのスリラー映画「プロミシング・ヤング・ウーマン」を観ました。16日公開の作品ですが、この日は先行上映となります。アカデミー賞に作品賞を含む5部門ノミネートされ、脚本賞を受賞した話題作です。社会派の視点があり、大変面白かったです。やはり、脚本が素晴らしい!


ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「ドラマシリーズ『ザ・クラウン』などで知られる女優、エメラルド・フェネルが監督と脚本を務めたサスペンスドラマ。輝かしい未来を歩もうとしていた女性が、ある出来事を契機に思わぬ事態に直面する。『ワイルドライフ』などのキャリー・マリガン、『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』などのボー・バーナムのほか、ラヴァーン・コックス、アリソン・ブリーらが出演する」

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ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「明るい未来が約束されていると思われていたものの、理解しがたい事件によってその道を絶たれてしまったキャシー(キャリー・マリガン)。以来、平凡な生活を送っているように思えた彼女だったが、夜になるといつもどこかへと出かけていた。彼女の謎めいた行動の裏側には、外見からは想像のできない別の顔が見え隠れしていた」


この映画が復讐をテーマにしたサスペンスドラマというのは知っていたのですが、いわゆるバイオレンス系かと思ったら、そんな単純なストーリーではありませんでした。男性上位社会、医学部生に代表されるエリート偏重社会などへの問題提起に溢れており、約2時間、まったく飽きることがありませんでした。最後のオチとなるLINEメッセージの予約投稿は、ブログ「ある天文学者の恋文」で紹介した映画で使われたアイデアと同じでしたね。もっとも、「ある天文学者の恋文」では携帯メールでしたが、「プロミシング・ヤング・ウーマン」の場合はLINEでした。


主人公のキャシーの行動は謎に満ちています。冒頭のシーンでバーで酔い潰れている姿はお世辞にも美しいとは言えませんでしたが、彼女がリベンジの想いを胸にさまざまな人物と会って交渉していく場面では、どんどん綺麗になっていくので驚きました。「うーん、女は怖いなあ」と思いましたが、キャシーを怖い女にしたのは男たちのせいなので、複雑な気分になりました。わたしには2人の娘がいるので、基本的に女の味方なのです。はい。

 

主演のキャシー・マリガンの演技は素晴らしかったです。彼女は1985年イングランド・ロンドン市内のウェストミンスター出身の36歳。2004年に舞台でデビュー。翌年公開のキーラ・ナイトレイ主演作「プライドと偏見」で映画デビュー。また、同年放送の「ブリーク・ハウス」に出演し、注目を集めました。2008年にアントン・チェーホフ「かもめ」でブロードウェイデビューを果たし、ドラマ・デスク・アワードにノミネートされました。2009年には第59回ベルリン国際映画祭でシューティング・スター賞を受賞。同年公開の「17歳の肖像」で英国アカデミー賞 主演女優賞を受賞し、アカデミー主演女優賞に初ノミネートた。さらに2020年には「プロミシング・ヤング・ウーマン」で2度目のアカデミー主演女優賞ノミネートを果たしました。

 

「プロミシング・ヤング・ウーマン」の冒頭シーンを観て、1977年のアメリカ映画「ミスター・グッドバーを探して」を連想した人は多いでしょう。美しい女教師が麻薬とセックスに溺れ、やがて身を滅ぼしていく様を描くジュディス・ロスナーの小説の映画化で、幸薄い女教師のテレサ・ダンををダイアン・キートンが体当たりの演技で見せました。バーで男漁りするテレサの身には、ドラッグやポルノフィルム、激しい男関係などで暗雲がたちこめ、彼女が転落していくという物語です。非常にやりきれないというか、観ていて暗澹たる気分になる映画でした。


監督・脚本を「弾丸を噛め」のリチャード・ブルックスが担当した「ミスター・グッドバーを探して」の原作は、1973年に起こったロズアン・クイン殺人事件をもとにして書かれました。これは、ニューヨークで聾唖学校の28歳の女性教師がバーで知り合った男に殺害された事件です。教師が行きずりの男と一夜を共にする生活をしていたことで話題になり、のちに『ミスター・グッドバーを探して』のタイトルで小説化、映画化されたのです。


「プロミシング・ヤング・ウーマン」のテーマは復讐です。復讐といえば、1971年のアメリカ映画「わらの犬」を連想しました。物騒な都会生活から逃れるため、妻の故郷でもあるイギリスの片田舎に引っ越してきた数学者のデイヴィッド・サムナー(ダスティン・ホフマン)が、無法三昧の村の若者たちに復讐する物語です。監督は「ワイルドバンチ」などの西部劇で知られるサム・ペキンパー。日本では1972年4月公開。ペキンパーはイギリスの劇作家ハロルド・ピンター(2005年度ノーベル文学賞受賞者)に脚本執筆を打診しましたが、過激な内容に嫌悪感を覚えたピンターは断ったといいます。



1970年代には、被害者が加害者に対して過激な暴力で復讐する映画が多数製作されました。映画評論家のS・S・ブラウラーはその状況を「わらの犬症候群」と呼んでいます。「プロミシング・ヤング・ウーマン」を観ながら、「ミスター・グッドバーを探して」と「わらの犬」を思い出したわたしは、この2本を久々に観直してみたくなりました。このように旧作を連想するというのも、映画を観る楽しみの1つではないでしょうか?

 

2021年7月15日 一条真也