一条真也です。
7月7日の七夕の午後、わたしは、わが国における儒教研究の第一人者である加地伸行先生と対談させていただきました。ブログ「儒教講演」で紹介した2012年7月13日の初対面から9年後に、ついに長年の夢が叶いました。
朝に道を聞かば夕に死すとも可なり!
加地伸行先生と
対談会場は、コートヤード・バイ・マリオット新大阪ステーションの一室です。新大阪駅から徒歩1分の立地の良いホテルです。コーディネーターである「出版寅さん」こと内海準二さんでした。七夕の牽牛と織姫のように再会を喜び合ったわたしたちは、夢中で語り合い、途中で昼食の幕の内弁当を食べながら対談しました。
冒頭、わたしは加地先生に「このたびは、対談をお引き受けいただき、誠にありがとうございます。現代日本の最高の儒者である加地先生とお話しさせていただくことは光栄の至りです。いつもお電話でいろんなお話をお聴きしていますが、本当に素晴らしい内容ですので、冠婚葬祭に関わるすべての方々にも知っていただきたいと思い、不遜ながら先生との対談を企画いたしました。今日は、心して学ばせていただきたいと存じます。どうぞ、よろしくお願い申し上げます」と御挨拶をさせていただきました。
わが最新刊をお渡ししました
『心ゆたかな読書』(現代書林)
それから、わたしは「誠に不遜ではございますが・・・」と言ってから、ブログ『心ゆたかな読書』で紹介したわが最新作の見本を贈らせていただきました。ブックガイドである同書の100ページには、ブログ『祖父が語る「こころざしの物語」』で紹介した加地先生の名著が紹介されています。加地先生はとても喜んで下さいました。そして、「あなたの本はすごく良いですね。まず、とてもよく勉強されている。それから、多くの本を書かれても軸がまったくブレていない。これは、なかなかできることではありません。大変素晴らしいことです」と言って下さいました。わたしが非常に感激したことは言うまでもありません。
儒教について語る加地先生
心して拝聴しました
今回の対談は、『儒教と日本人~冠婚葬祭はなぜ必要か』(現代書林)という本を作るために行います。内海さんが書かれた出版企画書のコピーには、「『礼』とは何か――時代を超えて読み継がれる『論語』に込められた儒教のこころをその第一人者と『論語』を愛読し続ける作家が熱く語り合う」とあります。
対談のようす
対談は、以下のようなテーマを中心に行われました。
●「鬼滅の刃」を読み解く
社会現象となった大ヒット作に込められたメッセージ
●『論語』のこころ
『論語』に込められた、仁・礼・孝などの精神
●「礼」を読み解く
「冠婚葬祭」の中で儀式として受け継がれた世界
●「孝」を読み解く
「葬儀」「人生儀礼」などに受け継がれた世界
●「年中行事」を読み解く
生活の中で生き続ける孔子の思想を語り合う
●「家族」を読み解く
家族の本質・血縁の意味・現代日本の家族葬について
●日本人と『論語』
『論語』から最も影響を受けた人物は誰か?
●天皇家と儒教
孟子、吉田松陰・明治維新に続く孔子の教え
●『論語』で見える世界と現代社会
『論語』の世界観が導き出す答えを語り合う
対談のようす
最初は、加地先生に献本させていただいた拙著『「鬼滅の刃」に学ぶ』(現代書林)の内容が話題となりました。同書で、わたしは、「神道・儒教・仏教」「先祖」「祭り」などをキーワードに「鬼滅の刃」と日本人の精神性との関連を解き明かしましたが、加地先生から儒教から見た「鬼」や「鬼滅」やさらには「鬼誅」についての興味深いお話を伺いました。
拱手礼の実践
それから、孔子、『論語』、『孝経』、儒教、三礼、拱手礼、祖先祭祀、葬送儀礼、天皇儀礼、孟子、吉田松陰、西郷隆盛、北一輝、三島由紀夫などのテーマを語り合い、「日本人で最も論語を理解した人物は誰か?」というテーマで聖徳太子、徳川家康、渋沢栄一、安岡正篤といった人々についても意見を交換させていただきました。そして、現代日本の家族葬に代表される「薄葬」を話題に葬儀の意義について語り合い、最後は「家族」の本質というものを考察しながら、無縁社会を乗り越える方策などを求めました。加地先生との会話の中から、「儒教と日本人」の全貌を知ることができ、「冠婚葬祭はなぜ必要か」という問いの答えも見つかりました。
対談のようす
この日の対談は5時間にも及びましたが、わたしにとっては夢のような時間でした。加地先生は本当に対談の名手というか、慈愛に満ちたお方で、浅学のわたしを相手に優しく問いかけて下さいました。おかげで、最初は尊敬する大先生を前にして緊張していたわたしも次第にリラックスし、自分の考えを述べることができました。
加地先生は、めったに対談されないそうです。平成28年1月18日、iPS細胞の発見者でありノーベル生理学・医学賞の受賞者である山中伸弥・京大教授と対談され、その内容はBSフジで放送されました。そのテーマとは、細胞の本質と儒教の根源とが、〈生命の連続〉を求めるという点で一致する不思議さについてが中心でした。細胞には、遺伝子を中心として、分化し展開してゆく設計図がすでに存在しています。それは、生き続けるという生命の本質であり、細胞から成り立つ身体が老いてゆくと、次の新しい身体に乗りかえ乗りかえして連続して生きてゆきます。その本質は儒教の「孝」に集約される〈生命の連続〉ということです。加地先生は、「すなわち、細胞研究とは〈生命の連続〉の研究なのである」と喝破されました。
5時間の対談を終えて
多くのことを学ばせていただきました
ノーベル賞科学者と堂々と対談される加地先生と対談させていただくとは、本当に「光栄の至り」としか言葉が見つかりません。加地先生との対談では、今後の冠婚葬祭の在り方についてのヒントがたくさんありました。必ずや、わが業界の発展につながるものと信じます。大収穫です!
加地先生が訳された『論語』と『孝経』
加地先生は御高著『論語 全訳注』(講談社学術文庫)で、孔子のことを「老先生」と訳されています。わたしにとって目の前の加地先生は、「老先生」としての孔子そのもののように見えました。加地先生は「小人」のことを知識人、「君子」のことを教養人ととらえておられますが、加地先生こそは教養人としての君子です。わたしも、加地先生のような君子になりたいと心から思いました。そして、その願いを七夕の星にかけました。
七夕の星に願いを
2021年7月7日 一条真也拝