福岡・インド・人の道

一条真也です。
12日の夜、レクストの金森社長、ベルコの齋藤社長と銀座で会食しました。もちろんノンアルコールですが、ケーキまで用意してわたしの誕生日を祝って下さり、感激しました。翌13日の朝、紀尾井町のホテルで「出版寅さん」こと内海準二さんと朝食ミーティング。次回作『心ゆたかな読書』(現代書林)の最終打ち合わせをしました。

 

孝経 全訳注 (講談社学術文庫)

孝経 全訳注 (講談社学術文庫)

  • 作者:加地 伸行
  • 発売日: 2007/06/08
  • メディア: 文庫
 

 

その後、6月末に開始予定のグリーフケア資格認定制度のテキストや問題案のチェックなどをしてから、羽田空港へ。14時05分発のスターフライヤー81便で、北九州に飛びました。機内では、『孝経 全訳註』加地伸行著(講談社学術文庫)を読み返しました。『論語』と並ぶ儒教の最重要古典である同書には、「人の道」としての葬儀の重要性が徹底的に説かれています。

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北九州空港にて 

 

北九州空港には、15時45分に到着しました。福岡県は前日12日から3回目の緊急事態宣言が発出されています。そして、歴史上初めてオリンピックの聖火リレーを中止するという快挙を成し遂げました。その福岡県に関する気になる記事が今日の「朝日新聞DIGITAL」に気になる記事がありました。

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朝日新聞DIGITAL」より

 

家賃は倍、払えぬ香典・・・生活保護費減に『何かおかしい』」という見出しの記事ですが、生活保護基準額の引き下げは違法だとして福岡県内の受給者らが引き下げの取り消しを求めた訴訟(福岡市や北九州市などに暮らす約80人が参加)で、福岡地裁が原告の請求を退ける判決を出したことが紹介されています。憲法で「健康で文化的な最低限度の生活」が保障されながら、戦後最大の生活保護の引き下げで困窮する原告の受給者たちは、知り合いが亡くなっても葬儀で香典すら払うことができないと訴えていました。この記事を読んで、わたしは心が痛みました。

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朝日新聞DIGITAL」より

 

また、「朝日新聞DIGITAL」には「ガンジス川に遺体が多数漂着 地方や隣国へ広がる変異株」という記事もありました。新型コロナウイルスの変異株が猛威をふるっているインドのガンジス川河畔で10日、71体の遺体が漂着しているのが見つかったことが紹介されています。ウッタルプラデシュ州のガンジス河畔でも25体の遺体が発見されたそうです。詳細は調査中ですが、新型コロナによる死者の可能性があります。報道によると、火葬用の木材が不足していたり、葬儀の費用が高騰していたりして、遺体を直接川に流すしかない家族がいるといいます。この記事を読んだときも、わたしは非常に心が痛みました。


インドといえば、ブログ「ザ・ホワイトタイガー」で「人の道」としての葬儀について書きました。超格差社会であるインドには、現在もカースト制度の影響が強く残っています。カースト制度があるからです。バラモン教によってつくられ、ヒンズー教に受け継がれた身分制度です。大きくは、バラモン(司祭階級)、クシャトリア(王侯・武士階級)、バイシャ(庶民階級)、シュードラ(隷属民)の4つに分けられます。しかし、シュードラの下には、カーストにも組み込まれないアウトカースト(不可触民)が存在します。カースト制度はさらに数百の身分、職業などに分けられています。現在は憲法で禁じられていますが、その風習は根強く残っています。

図解でわかる!ブッダの考え方』(中経の文庫)

 

そのカースト制度を廃止しようとした人こそ、仏教の開祖であるゴータマ・ブッダです。わたしは、2016年2月に生まれて初めてインドに行きましたが、そのとき、聖なるガンジス川をはじめ、サルナート、ブッダガヤ、ラージギルなどの仏教聖地を回りました。言うまでもなく、世界宗教である仏教の布教ルートを追いながら、偉大なるブッダの教えを振り返りました。その一方で、毎日膨大な数の物乞いの人々と接し、まざまざと思い知ったことがあります。それはブッダがあれほど絶滅させようとしたカースト制度が今も根強く残っていることでした。ブッダはこのカースト制度に反対して、あらゆるものの「平等」をめざし、仏教を開いたのです。しかし、残念ながらブッダの志は現在も果たされていません。


かつて、インドにおいて仏教はヒンドゥー教に弾圧されました。それは、仏教がカースト制度に反対していたからです。事実、仏教がインドから追い出された後、一時的にかなりアバウトになっていたカースト制度は再び厳密になったという歴史があります。では、ヒンドゥー教というのは人間を差別する悪い宗教かというと、一概にそうもいえません。ヒンドゥー教は、日本の神道にも通じる、民衆の生活に密着した多神教です。ちなみに、「ザ・ホワイトタイガー」の冒頭には、中国の首相へのメールで、インドの宗教は主にイスラム教、キリスト教ヒンドゥー教であり、それぞれ1人、3人、3600万人の神様がいて、インド人は「どの神様にしよう」と選んでいるなどと説明されています。また、ヒンドゥー教を信仰する金持ち一家の運転手がムスリムイスラム教徒)であることを偽っていたことがバレてクビになるシーンも出てきます。 

f:id:shins2m:20210509170249j:plainカースト制度の残るインドで最大の平等を知る」より 

 

日経電子版のライフコラム「一条真也の人生の修め方」に書いた「カースト制度の残るインドで最大の平等を知る」でも紹介していますが、インドに到着して3日目の早朝、わたしは「ベナレス」とも呼ばれるバラナシを視察しました。ヒンドゥー教の一大聖地です。まず、ガンジス川で小舟に乗りました。夜明け前で暗かったものの、次第に薄暗かった空が赤く染まっていく美しい光景が見られました。早朝からヒンドゥー教徒たちが沐浴をしている光景も見られました。ガンジス川で沐浴すると全ての罪が洗い流されると言われているのです。

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早朝のガンジスにて

 

しばらくすると、舟から火葬場の火が見えたので、わたしは思わず合掌しました。バラナシの別名は「大いなる火葬場」ですが、国際的に有名なマニカルニカー・ガートという大規模な火葬場があります。そこは、24時間火葬の煙が途絶えることがありません。そこに運ばれてきた死者は、まずはガンジス川の水に浸されます。それから、火葬の薪の上に乗せられて、喪主が火を付けます。

f:id:shins2m:20160215095212j:plainバラナシでの火葬のようす

 

荼毘に付された後の遺骨は火葬場の仕事をするカーストの人々によって聖なるガンジスに流されます。ただし、子どもと出家遊行者は荼毘に付されません。彼らは、石の重しをつけられて川底に沈められます。その理由は、子どもはまだ十分に人生を経験していないからで、出家遊行者はすでに人生を超越しているからだそうです。インドでは、最下層のアウトカーストが火葬に携わるとされています。

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火葬場から見たガンジスのSUNRAY 

 

火葬場からガンジス川に昇った朝日がよく見えました。その荘厳な光景を眺めながら、わたしは「ああ太陽の光は平等だ!」と思いました。太陽の光はすべての者を等しく照らします。そして、わたしは「死は最大の平等である」という言葉を口にしました。これはわが持論であり、わが社のスローガンでもあります。箴言家のラ・ロシュフーコーは「太陽と死は直視することができない」と言いましたが、太陽と死には「不可視性」という共通点があります。わたしは、それに加えて「平等性」という共通点があると思っています。太陽はあらゆる地上の存在に対して平等です。中村天風の言葉を借りれば、太陽光線は美人の顔にも降り注げば、犬の糞をも照らすのです。

 

深い河 (講談社文庫)

深い河 (講談社文庫)

 

 

わが社の社名は、「サンレー」ですが、万人に対して平等に冠婚葬祭を提供させていただきたいという願いを込めて、「太陽光線(SUNRAY )」という意味を持っています。「死」も平等です。生まれつき健康な人、ハンディキャップを持つ人、裕福な人、貧しい人・・・・・・「生」は差別に満ち満ちています。しかし、王様でも富豪でも庶民でもホームレスでも、「死」だけは平等に訪れるのです。遠藤周作の名作『深い河』の舞台にもなったマニカルニカー・ガートで働く人々はアウトカーストだそうですが、わたしには人間の魂を彼岸に送る最高の聖職者に見えました。太陽と死だけは、万人に対して平等なのです!

 

2021年5月13日 一条真也