「21ブリッジ」

一条真也です。
新型コロナウイルスによる死者が世界全体で300万人を超えました。すべての故人の御冥福をお祈りいたします。わたしは、ファスティングで3日間の断食をしていたのですが、ようやく終わって17日の朝から回復食のお粥を食べました。すると元気が出てきたので、夜はシネコンに行きました。最近は観たい映画が少ないのですが、公開中の洋画の中では最も高評価の「21ブリッジ」を観ました。2019年に製作された作品ですが、かなり面白かったです。いやあ、映画って、本当にイイものですね!

 

ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「完全封鎖されたニューヨークのマンハッタン島を舞台に描くクライムアクション。強盗殺人事件の犯人逮捕のため、刑事がその背後に隠された真相に迫る。『ブラックパンサー』などのチャドウィック・ボーズマンが刑事にふんし、『アベンジャーズ』シリーズなどのアンソニー・ルッソジョー・ルッソ兄弟が製作を手掛け、『ファクトリー・ガール』などのシエナ・ミラーや『ジョン・カーター』などのテイラー・キッチュらが共演している」

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ヤフー映画の「あらすじ」は、「マンハッタン島で、8人の警察官が殺害される事件が発生する。かつて警察官だった父親を殺害されたデイビス刑事(チャドウィック・ボーズマン)は、全面封鎖されたマンハッタンで調べを進めていくうちに、思いがけない事件の真実にぶち当たる。窮地に立たされた彼は、たった1人で事件の背後に隠されたニューヨークの闇と向き合うことになる」です。



最近、不思議なことがあります。何の映画を観ても、テーマがグリーフケアであることに気づくのです。この映画もそうでした。この現象は、小説やマンガを読んだときにも起こります。すべてはグリーフケアの物語なのです。「21ブリッジ」が遺作となったチャドウィック・ボーズマンが演じる主人公のディビズ刑事は、13歳のときに父を亡くします。警察官だった父は3人の犯人を追跡し、2人を射殺するのですが、最後の1人に殴り殺されます。その父を殺した犯人が麻薬中毒でした。ディビズが麻薬事件の背後を暴くことによって、父を喪った自身の悲嘆をケアする物語でした。まさに、グリーフケアです。


どんな映画を観てもグリーフケアの映画にしか見えないというのは、ここ最近、特に顕著です。たとえば、 ブログ「劇場版「鬼滅の刃」無限列車編」ブログ「シン・エヴァンゲリオン劇場版」ブログ「ノマドランド」ブログ「テスラ エジソンが恐れた天才」などが代表でしょうか。この不思議な現象の理由としては3つの可能性が考えられます。1つは、わたしの思い込み。2つめは、神話をはじめ、小説にしろ、マンガにしろ、映画にしろ、物語というのは基本的にグリーフケアの構造を持っているということ。3つめは、実際にグリーフケアをテーマとした作品が増えているということ。わたしとしては、3つとも当たっているような気がしています。


「21ブリッジ」は、とにかく銃撃戦がド迫力でした。ノースタントというから驚きです。激しいアクションを演じたボーズマンですが、大腸がんで4年間も闘病していた中でのパフォーマンスというのが信じられません。強いプロ根性を感じてしまいます。カメラをいろんな方向から撮影しており、アクションシーンを見ていると眩暈のような感覚がありました。あと、ニューヨークが舞台というので、コロナ禍で行けない代わりにNY観光ができるかと思ったら、深夜の物語だったので、暗い中での追跡劇に終始し、わたしの好きなサックス・フィフス・アベニューをはじめ、マンハッタンの名所は一切登場しませんでした。摩天楼のシーンさえラストで少しだけ出てきただけです。その点だけは、ちょっと残念でしたね。


しばらく行っていませんが、ニューヨークは大好きな街です。「映画を愛する美女」こと映画ブロガーのアキさんがもうすぐニューヨークを舞台にした映画中心のYouTube動画を立ち上げられるそうで、とても楽しみにしています。ニューヨークを舞台にした映画で、わたしの好きな作品はいろいろありますが、特に好きなのがウッディ・アレン監督作品の「マンハッタン」(1979年)です。アレン扮するテレビ・ライターのアイザック恋愛模様を描いたロマンティック・コメディですが、ジョージ・ガーシュインの音楽が素晴らしく、マンハッタンの摩天楼が最高に美しく描かれていました。

 

「21ブリッジ」はサスペンス映画ですので、ストーリーに言及するとネタバレの地雷を踏む恐れがあります。ただ、警察官という職業について考えさせられました。ニューヨーク市警といえば、昔から汚職が多いので有名ですが、この映画では、ある重要な登場人物から、ニューヨークに必要な存在であるはずの警察官がないがしろにされているというセリフが登場します。マンハッタンを担当する85分署の警察官たちは給料が安いためにマンハッタンから遠く離れた場所にしか住めず、毎日、通勤の4時間かかるそうです。また、彼らの7割が収入が低いために離婚しているとか。

 

 

ちょうど、いま、『ブルシット・ジョブ――クソどうでもいい仕事の理論』デヴィッド・グレーバー著、酒井隆史・芳賀達彦・森田和樹訳(岩波書店)という本を読んでいるところです。やりがいを感じないまま働く。ムダで無意味な仕事が増えていく。人の役に立つ仕事だけど給料が低い。それはすべてブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)のせいだと指摘した本です。職場にひそむ精神的暴力や封建制・労働信仰を分析し、ブルシット・ジョブ蔓延のメカニズムを解明し、仕事の「価値」を再考した内容となっています。警察官という職業はもちろん社会に必要なエッセンシャルワークの代表ですが、そこに汚職や不正が入り込むと最悪のブルシット・ジョブになりうるということを、この映画を観て感じました。あれ、やっぱりネタバレになったかな?

 

2021年4月17日 一条真也