『140字でつぶやく哲学』  

一条真也です。
49冊目の「一条真也による一条本」は、『140字でつぶやく哲学』(中経の文庫)です。2010年10月に上梓した監修書です。 

f:id:shins2m:20210125161617j:plain140字でつぶやく哲学
(2010年11月3日刊行)


表紙カバーには、「学くん」が「実存主義って、『ナンバー1よりオンリー1』ってこと??」と問いかけ、プラトンみたいな顔をした「哲さん」が「ぶっちゃけて言うと、そういうこと」と答えています。また、下部には「世界中の哲学者たちのつぶやきが聞こえてくる」「37人の哲学者から、19人の宗教家、日本の近代思想家まで!」と書かれています。

f:id:shins2m:20210321225811j:plain本書のカバー前そで

 

カバー前そでには、LINEトークのようなスタイルで、哲さんが「哲学を知ることで、より人生が生きやすくなります」と語れば、学くんが「本当かな? 僕の人生の役にたつのかな?」と問いかければ、哲さんが「哲学の思想は、人間関係にも、仕事にも、そして人生にも、大きな実りをもたらす要素を持っていますよ」と答えるのでした。 

 

本書の「目次」(Contents)は、以下の通り。
「まえがき」
「本書の使い方」
【第1章】世界も、みんな悩んでいる
1-1-1 現代哲学 実存主義
キルケゴール
ニーチェ
ヤスパース
ハイデッガー
サルトル
1-2-1 現代哲学 現象学ほか
ショーペンハウアー
ベルクソン
フッサール
メルロ=ポンティ
ドゥルーズ
1-3-1 現代哲学 構造主義
レヴィ=ストロース
フロイト
フーコー
ジャック・デリダ
1-4-1 現代哲学 社会主義思想
マルクス主義
プラグマティズム
マルクス
パース
ジェームズ
デューイ
【第2章】中世の西洋人が悩んだこと
2-1-1 西洋近代思想 ルネサンス
モンテーニュ
2-2-1 西洋近代思想 宗教改革
ルター
カルヴァン
2-3-1 西洋近代思想 経験論と合理主義
ベーコン
デカルト
パスカル
スピノザ
ライプニッツ
2-4-1 西洋近代思想 社会契約
ホッブズ
ロック
ルソー
2-5-1 西洋近代思想 啓蒙思想
モンテスキュー
2-6-1 西洋近代思想 思想主義
カント
ヘーゲル
2-7-1 西洋近代思想 イギリス功利主義
ベンサム
ミル
コラム●哲学者の人間観
【第3章】昔の人も悩んでいた
3-1-1 古代ギリシャ哲学 自然哲学
ソクラテス
プラトン
アリストテレス
コラム●自然観の変化
【第4章】宗教って哲学なの?
4-1-1 古代宗教 バラモン教(古代インド思想)
4-2-1 古代宗教 仏教
ブッダ
4-3-1 古代宗教 キリスト教
エス
アウグスティヌス
アクィナス
ユダヤ教
4-4-1 古代宗教 イスラム
ムハンマド
4-5-1 古代中国の哲学 儒家の思想
孔子
孟子
荀子
朱子
王陽明
4-6-1 古代中国の哲学 道家の思想
老子
荘子
コラム●正しい知識の求め方
【第5章】 日本人だって悩んできた
5-1-1 日本の宗教 日本仏教
天台宗
真言宗
5-2-1 日本仏教 末法思想
法然
親鸞
日蓮
道元
5-3-1 日本近代の思想 近代哲学
福沢諭吉
中江兆民
内村鑑三
西田幾多郎
三宅雪嶺
田辺元
和辻哲郎

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本書の使い方

 

本書は、なかなかPOPな装丁に仕上がりました。これなら、多くの読者が哲学に興味を持ってくれるのではないかと大いに期待しました。まさに、念願だった「世界一やさしい哲学の本」が誕生した思いでした。140字とは、もちろんツイッターを意識していますが、じつは哲学を知るのに最適の字数だと思います。ずばり、読みやすいし、語りやすいからです。それから、哲学に必要な対話にも向いています。「つぶやき」という行為そのものが、哲学の本質に関わっていると言えるでしょう。


哲さん、学くんの2人がつぶやきます

 

本書には、哲学者37人と、世界の宗教、日本の近代思想家など19人が登場します。また、従来の哲学ガイドのように、古代ギリシャからスタートするのではなく、逆に現代の哲学者から始まって、古代の哲学者にさかのぼってゆくという「逆さま」スタイルを採用しました。このため、現代の身近な問題から哲学に触れて、そのうち自然に根源的なテーマについて学ぶことができます。古今東西の哲学者のつぶやきに触れるのは、とても刺激的だと思います。世界中の思想に触れて、あなたも、哲学対話を楽しんでいただきたいと思います。


ニーチェのページ

 

「なぜ、一条さんが哲学の本を監修するの?」と何人かの方から質問されましたわたしは「哲学ほどおもしろいものはない」と思っているのですが、大多数の人は本気にしません。それほど、哲学は難解で無用の長物と見なす考え方が世の中では一般化しています。しかし他方で、哲学を求める人々が後を絶たないのも、また事実です。特に、経営者の多くは「哲学」とか「フィロソフィー」という言葉を語りはじめています。

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キルケゴールのページ

 

哲学者キルケゴールの影響を受けたドラッカーなどが、21世紀の社会は知識集約型社会であり、そこでは知識産業が主役になると主張しています。知識集約型社会において、企業が「売るもの」は、知識ワーカーとしての社員に体現された組織の知識や能力、製品やサービスに埋め込まれた知識、顧客の問題を解決するための体系的知識だとされています。顧客は、提供された知識とサービスの価値に対して評価し、支払うことになるのです。

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ヘーゲルのページ

 

一方、企業が質の高い知を創造するのは、事業を高い次元から眺めること、知とは何かを問うこと、つまり哲学が求められます。それは「志の高さ」にもつながるもので、当然トップの課題でもあります。マーケットはそこまでみて企業を評価するようになるといわれています。ビジョンやミッションはもちろん、フィロソフィーまで求められるのが21世紀の企業像なのです。

f:id:shins2m:20210325082641j:plainソクラテスのページ

 

さて、哲学の祖は古代ギリシャソクラテスだとされています。ソクラテスは「哲学とは死の学び」と語り、その弟子であるプラトンは「死」についての哲学的思考を大著『国家』のなかの「エルの物語」にまとめています。なぜ、「哲学」と「死」の問題が分かちがたく結びついているのでしょうか。現代日本を代表する哲学者の中村雄二郎氏によれば、哲学をする上にまずもって大事なことは、経験上でも書物のうえでも、積極的に色々なことと出会って、未知なものやそれまで気づかなかったことを新鮮に受け取り驚くという、好奇心を持ちつづけることであるといいます。したがって「哲学は好奇心である」と言えます。

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プラトンのページ

 

哲学は好奇心であり、知ることへの情熱でもあるならば、そのまなざしは当然ながら「謎」や「不思議」というものに向かいます。アニメ映画「千と千尋の神隠し」の主題歌にも出てくるように、生きている不思議、死んでいく不思議・・・・・この世は不思議に満ちています。まったく赤の他人の男女が知り合って、恋をして、結婚するというのも、考えてみれば実に不思議な話です。でも、人類にとって最大の謎はやはり「死」であるといえます。なぜなら、宇宙と自然の中における人間の位置、人生の意味を考える哲学的思考にとって「死」だけはどうしてもうまくはまらないパズルの最後の一片、トランプのジョーカーのような存在だからです。

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ブッダのページ

 

メメント・モリ(死を想え)」という言葉がありますが、葬儀の時間こそは死を想う時間であるといえるでしょう。セレモニーホールとは死を想う場所なのです。ここにきて、ようやく「哲学とは死の学び」という言葉の意味がわかってきます。哲学とは、牢獄としての肉体を超えて精神を純化させること。哲学の道とは意識的に死ぬ道であり、そこで人々は「死想家」となる。ならば葬祭業者とは葬儀参列のお客様に対して、哲学的な空間と時間を提供しているのかもしれません。

 

140字でつぶやく哲学 (中経の文庫)

140字でつぶやく哲学 (中経の文庫)

  • 発売日: 2013/08/29
  • メディア: Kindle
 

 

 

2021年3月25日 一条真也