『「鬼滅の刃」の折れない心をつくる言葉』

「鬼滅の刃」の折れない心をつくる言葉

 

一条真也です。
『「鬼滅の刃」の折れない心をつくる言葉』藤寺郁光著(あさ出版)を紹介します。2020年8月13日に刊行された本です。著者はcart代表。漫画、アニメ、アイドルの分野と、ビジネスとのかかわりについてWeb媒体を中心に執筆。同時に、企業向けの漫画の編集、コンテンツ関連のコンサルティング、プランニングも行っているそうです。 

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本書の帯

 

本書の帯には、「頑張れ!! 人は心が原動力だから 心はどこまでも強くなれる!!(竈門炭治郎)」「自信・覚悟・絆・人生で大事なことはすべて『鬼滅の刃』が教えてくれた」「累計発行部数8000万部超 人気漫画の名言を1冊に!」と書かれています。また、帯の裏には「あなたの中の『強い自分』を呼び覚ますヒント」と書かれています。

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本書の帯の裏

 

アマゾンの「内容紹介」には、こう書かれています。
「いま大ヒット中のマンガ、『鬼滅の刃』。なぜこれほどまでに、多くの人が心を揺さぶられるのか。それは、誰しも抱えている弱さに寄り添い、『強くなりたい』という欲求に応えているからだ。本書は、●感情を動かす●自分を信じる●あきらめない●強くなる●仲間を守るの、5つの軸をもとに、キャラクターたちの名言を1冊にまとめた。鬼滅の刃のキャラクターたちのように、自分の感情を動かし、自分を信じることができれば、誰かを守れるくらい強くなれるはずだ。原作ファンだけではなく、自分の生き方に悩むすべての人に役立つ1冊」


また、以下のようにも紹介されています。
「頑張れ!! 人は心が原動力だから心はどこまでも強くなれる!!(竈門炭治郎)
目標や生きがいがない君への言葉 
『全部どうでもいいから』と言い、コインで何もかも決めていたカナヲを変えた、竈門炭治郎の言葉。自分の心の動きに気づき、一歩前に踏み出すヒントを、炭治郎の言葉から紹介します」



生殺与奪の権を他人に握らせるな!!(富岡義勇)
他人任せにしてしまう君への言葉
守るべき家族がいるのに、命乞いしかできなかった炭治郎を変えた、冨岡義勇の言葉。追い込まれて諦めそうになったとき、最後まで自分の人生に責任をもつヒントを、義勇の言葉から紹介します」



「お前は自分ではない誰かのために無限の力を出せる選ばれた人間なんだ(時任有一郎)
誰かのために頑張って疲れた君への言葉
過去の記憶を封印していた時透無一郎を変えた、兄・時透有一郎の言葉。自信をなくしたとき、確固たる自分を取り戻すヒントを、有一郎の言葉から紹介します」

 

本書の「目次」は、以下の構成になっています。
「はじめに」
第一章 感情を動かす
第二章 自分を信じる
第三章 あきらめない
第四章 強くなる
第五章 仲間を想う

 

「はじめに」では、著者は「なぜ、『鬼滅の刃』は、これほどまでに多くの人を魅了するのでしょうか。個性豊かなキャラクター、涙を誘う名シーン、ハッとさせられる一言、キャラクターたちの友情と絆と想いと涙・・・・・・。いろいろと理由があげられるでしょう。しかし、なかでも最大の理由は、キャラクターたちが持つ自分の弱さと向き合い、葛藤し、それでも立ち上がろうとする“折れない心”にあるのではないでしょうか」と述べています。


第一章「感情を動かす」では、「悔しいなあ 何か一つできるようになっても またすぐ目の前に 分厚い壁があるんだ すごい人はもっとずっと先の所で戦っているのに 俺はまだそこに行けない」(竈門炭治郎/第66話「黎明に散る!」)を選びました。

 

この言葉について、著者は「弱い自分が許せない君への言葉」として、「もし、いまのあなたの実力で、憧れの人と同じ場所に立つことができたら、あなたはその人とまともに戦うことができるでしょうか。その人が戦っている場所で、活躍することができるでしょうか。『分相応』という言葉がありますが、自分の才能・性質・身分がふさわしくなければ、期待されるような結果をのこすことはできません」と述べています。

 

続けて、著者は「あなたの理想とする将来像と現在のあなたにはまだまだ差があり、挫折しそうになるかもしれません。でも、あきらめたらそこで終わりです。悔しいという気持ちが強いのは、それだけあなたが本気だからです。その気持ちを前に進むエネルギーに変えましょう。『悔しいなぁ』という想いを胸に抱きながら、少しずつ前進するのです。前へ進みつづけることが、憧れの人へ近づく最短距離なのです」と述べます。

 

第二章「自分を信じる」では、「胸を張って生きろ」(煉獄杏寿郎/第66話「黎明に散る」)を選びました。この言葉について、著者は「あと一歩踏みだす力がほしい君への言葉」として、「『胸を張って生きる』ために必要なものはなんでしょうか。それは、『自己肯定感』です。『自己肯定感』とは、自分のあり方を評価できる感情、自らの価値や存在意義を肯定できる感情です。すなわち、自らの行動や考え方、在り方や存在意義を肯定して生きることこそが、『胸を張って生きる』ということなのです」と述べています。

 

第三章「自分にできなくても 必ず他の誰かが 引き継いでくれる 次に繋ぐための努力をしなきゃならない」(竈門炭治郎/第103話「縁壱零式」)を選びました。この言葉について、著者は「大きな失敗をしてしまった君への言葉」として、「日本では、伝統や文化の衰退や消滅が進んでいるといわれます。あなたの周りでも見聞きすることがあったり、当事者として問題に直面し、何かを断念したり挫折した経験があるかもしれません」と述べています。

 

また、著者は「鬼殺隊の当主・産屋敷耀哉のように、生まれたときからその一家の継承を運命づけられ、本人に意思はあったけれども、道半ばで思いを成就できぬまま、その道から離脱を余儀なくされることもあると思います。しかし、『断念』『挫折』という言葉だけを聞くと、否定的な印象がありますが、決してそうではありません。なぜなら、最後までやりきることができれば、束縛や重圧から解放されたようなすがすがしい気持ちものこるからです」と述べます。

 

第四章「強くなる」では、「泣くな 絶望するな そんなのは今することじゃない」(冨岡義勇/第1話「残酷」)という言葉を選びました。この言葉について、著者は「落ち込んで前を向けない君への言葉」として、「まずは、気持ちを奮い立たせて『いまできる行動』をとることです。絶望するということは、とてつもなく想定外のことがおき、緊急事態に直面しているわけです。そのまま絶望の闇に巻き込まれてしまっては、どこへ進めばいいかわからなくなります。だから、希望の光を求めて、とにかく動いてください。もがいてください。そして、もう1つ大切なのは、誰かにそのつらい思いを伝えることです。冷静な意見をくれる人、寄り添ってくれる人、あなたの周りにはそのような人はいないでしょうか」と述べています。

 

第五章「仲間を想う」では、「あまりにもたくさんのものを失った それでも俺たちは生きていかなければならない この体に明日が来る限り」(竈門炭治郎/第204話「鬼のいない世界」)という言葉を選びました。この言葉について、著者は「悲しみを乗り越えると決めた君への言葉」として、「鬼舞辻無惨との激闘から3ヶ月がたったものの、腕をうまく動かせず病院で療養する炭治郎。鬼殺隊の柱は不死川実弥と冨岡義勇のみが残り、鬼殺隊は解散することになります。その後炭治郎は、死んだ隊員たちの墓に花を手向け、生家に戻って禰豆子、善逸、伊之助の4人で暮らし始めるのでした。これは、多くの仲間を失ったことを受け入れ、前へ進もうとする炭治郎の心の声です」と述べています。

 

まさに大切な人を亡くしたグリーフケアの言葉であると言えますが、著者は大切な人の死を経験すると、のこされた者は『亡くなった人は天から見ていてくれるだろう』『魂は傍にあるだろう』と自分に言い聞かせます。『ただ離れ離れになっているだけだ』と思いたくても、その人のことを思い出すと悲しくなる。その人のことをつい考えてしまう・・・・・・。そういう気持ちになってしまうときもあるでしょう。大切な人を亡くした現実を自分の頭で理解していく過程は、とても苦しいものです」と述べます。

 

では、そのような大切な人との別れを乗り越えるにはどうすればよいのでしょうか。著者は、「それは、そのつらい気持ちを大切な仲間と共有し、託された思いを見つけることです。日本には古くから『喪に服す』という習慣があります。これは、近しい人が亡くなった際に亡くなった人の死を悼み、一定期間、世間との交わりを避けてつつましく暮らすことです。亡くなった人を知る人々が集まって、思い出を語り合い、悲しみを共有することで、少しずつ悲しみが癒されていくのです」

 

まるで、わたしが書いたような文章なので驚きました。『鬼滅の刃』のコミックを一読して、物語のメインテーマは、わたしが研究・実践している「グリーフケア」であると思いました。鬼というのは人を殺す存在であり、悲嘆(グリーフ)の源です。そもそも冒頭から、主人公の竈門炭治郎が家族を鬼に惨殺されるという巨大なグリーフから物語が始まります。また、大切な人を鬼によって亡き者にされる「愛する人を亡くした人」が次から次に登場します。それを鬼殺隊に入って鬼狩りをする人々は、復讐という(負の)グリーフケアを行います。

 

しかし、鬼狩りなどできない人々がほとんどであり、彼らに対して炭治郎は「失っても、失っても、生きていくしかない」と言うのでした。強引のようではあっても、これこそグリーフケアの言葉でしょう。わたしは、大いに感銘を受けました。本書の著書である藤寺氏も『鬼滅の刃』のメインテーマが「グリーフケア」であることに気づいているようですね。本書は、自己啓発の書としても、コンパクトながらも内容が充実していると思いました。

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近刊『「鬼滅の刃」に学ぶ』(現代書林)

 

最後に、わたしは新年早々に『「鬼滅の刃」に学ぶ』(現代書林)を上梓します。経済効果という視点からでは見えてこない、社会現象にまでなった大ヒットの本質を明らかにしました。今回のブームには、漫画の神様の存在や、現代日本人が意識していない、神道儒教や仏教の影響を見ることができます。わたしは、今回の現象は単なる経済的な効果を論じるだけではない、大きな転換点を感じています。新型コロナウイルスの感染におびえる現代人にとって「こころのワクチン」とでもいうべき存在が『鬼滅の刃』であると断言できます。多くの『鬼滅の刃』関連本では語られてこなかった(作者自身も気が付いていないかもしれない)大ヒットの秘密を開陳したいと思います。

 

「鬼滅の刃」の折れない心をつくる言葉

「鬼滅の刃」の折れない心をつくる言葉

  • 作者:藤寺郁光
  • 発売日: 2020/08/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

2020年12月26日 一条真也