「敬老」から「老福」へ

一条真也です。
21日は「敬老の日」です。
ちょうど、お彼岸で娘たちが帰省していたので、一緒に実家の両親に会いに行ってきました。成長した孫娘たちを見て、両親はとても嬉しそうでした。

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ヤフー・ニュースより

 

敬老の日」に合わせて総務省が推計したデータによれば、65歳以上の高齢者の人口は、前年より30万人増えて3617万人と過去最多となりました。人口に占める高齢者の割合(高齢化率)は28.7%で、過去最高を更新しました。70歳以上の割合は22・2%。女性に限ると25.1%となり、史上初めて「4人に1人」に達しました。高齢者の女性は2044万人(女性人口の31・6%)、男性は1573万人(男性人口の25.7%)です。

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ヤフー・ニュースより 

 

また、厚生労働省は15日、全国の100歳以上の高齢者が同日時点で8万450人に上り、初めて8万人を超えたと発表しました。「敬老の日」を控え、住民基本台帳に基づく集計で、昨年より9176人多く、50年連続で過去最多を更新。女性が7万975人(88.2%)を占めました。

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ヤフー・ニュースより 

 

総務省の推計データに戻りますが、第1次ベビーブーム(1947~49年)に生まれた「団塊の世代」が全員70代となり、70歳以上は78万人の大幅増で2791万人となり、高齢化社会に拍車が掛かっています。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、第2次ベビーブーム(71~74年)生まれが65歳以上となる2040年には、高齢者の割合が35.3%にまで上昇する見込みです。

 

団塊の世代 〈新版〉 (文春文庫)

団塊の世代 〈新版〉 (文春文庫)

  • 作者:堺屋 太一
  • 発売日: 2005/04/08
  • メディア: 文庫
 

 

団塊の世代」というのは、作家で経済評論家の堺屋太一命名しました。約700万人(広くは1000万人超)と人口も多く、消費文化や、都市化などを経験した戦後を象徴する世代です。この世代の人口は、文字通り大きな塊を形成しています。団塊の世代は、ベビーブーマーともいわれ世界的な現象です。というのも、先の第二次大戦も、太平洋戦争も世界的な規模だったからです。ただ日本においては特殊な側面があります。それは戦前と戦後では社会規範が大きく変化したからです。



こうした「団塊の世代」をわたしは「唯物論の世代」だと思っています。彼らがどのような葬儀やお墓を希望するのか、わたしはずっと注目してきました。なぜなら、団塊の世代の大きな特徴が「宗教嫌い」だからです。言うまでもなく、葬儀とは宗教儀礼にほかなりません。日本国民は海外から無神論者のようにいわれますが、神を信じていないわけではないとわたしは思います。ただ一神教世界宗教に比べ、多神教の日本人がいい加減に映るだけだからです。でも、団塊の世代の多くは、明らかに宗教を嫌っている気がします。これは戦前・戦中の国家神道に対するアレルギーだと思います。親たちが信じすぎた国家神道によって、日本は世界戦争を起こし、敗北してしまった、悪いのは宗教である、という図式です。実際、核家族化が進む中で、団塊の世代は日本的な伝統の継承が薄らぐという環境の中にもいました。

f:id:shins2m:20200919120641j:plain週刊現代」2020年9月26日号 

 

 団塊世代は、古い共同体が生んだ最後の世代です。戦争に負けて帰ってきた男たちによって、彼らは生を受けました。ゆえに彼らの精神には、否が応にも古い日本が刻印されているわけですが、それを否定することで、自分たちの存在理由を高めてきたといえます。だからこそ、彼らは、古い日本を否定し、大都市に集まり、新天地である郊外にマイホームを求めました。郊外には、面倒な人間関係も古くさいしきたりも必要なかったわけです。


団塊世代にとっては、ただ自分たちだけの家族がいて、自分たちだけの幸せがあれば良かったのです。そこに宗教が入り込む隙間はありませんでした。墓参り、村祭り、年忌法要などは、すべて仕事を理由にして参加しない。ある意味で、団塊世代は宗教的な一連の行為を無意味だと思ったわけです。その結果、血縁も地縁も希薄化し、「無縁社会」が到来しました。



国家神道へのアレルギーは、団塊の世代が有する「反抗心」の表れでしょう。団塊世代は戦争を知らない世代ではありますが、その親は青春時代に終戦を迎えています。戦後、占領政策によって価値観の強制的な転換政策があったにせよ、戦地から引き揚げてきた父親や空襲などを体験している母親は「教育勅語」によって教育されてきた世代なのです。「教育勅語」が戦前の学校教育の柱であったことを考えれば、団塊の世代の両親は、一応に「人の道」に外れることを厳に戒める教育をしていたのではと想像できないでしょうか。

 

永遠葬

永遠葬

  • 作者:一条 真也
  • 発売日: 2015/07/22
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

団塊の世代は小中学校で「個人主義」、「平和主義」に基づいた教育を教員から受けていますが、家庭では、「愛国心」や「公」の精神を持った祖父母や両親から躾けられた世代でもあったはずです。戦前と戦後の価値観が大きく転換していくことに悩むことはなかったにしても、総じて貧しかった時代でもあり、子供心に、日本に勝ったアメリカの物質的な豊かさ、民主的な夫婦や家庭などに憧れない方が不自然というものです。身を粉にして働く両親に育てられながらも、新しい時代の理想的な生活とのギャップが時に反抗心となって現れることもあったことでしょう。このような「団塊の世代」について、わたしは『永遠葬』(現代書林)の中で詳しく書きました。


それにしても、超高齢社会となった日本ですが、新型コロナウイルスの感染対策においては、スウェーデンのような集団免疫策を取らず、高齢者の生命を守ったことの背景には敬老思想があるように思います。よく知られているように、新型コロナは若者は無症状あるいは軽症の者が多く、高齢者ほど重症になると言われています。本来、「若者が死にやすい」よりも「高齢者が死にやすい」というのは自然の摂理であり、ある程度の高齢者の死亡増加を見据えた上での集団免疫策というのは、政策としては「あり」でしょう。


しかし、日本社会は集団免疫を選択せず、高齢者を守ったのです。その理由について、政治家たちの票欲しさの「シルバー・デモクラシー」などと揶揄する人々もいます。しかし、わたしはやはり儒教に基づく「敬老」の思想が日本には根づいていたからだと思います。そして、超高齢社会の道を邁進する日本では、高齢者が肩身の狭い思いをして生きる「嫌老」ではなく、老いを肯定する「好老」、さらには老いを幸いとする「老福」の思想が求められます。

 

 

ブログ「老福」でも紹介しましたが、「老福」という言葉は、『老福論』(成甲書房)で初めて提唱しました。わたしたちは何よりもまず、「人は老いるほど豊かになる」ということを知らなければなりません。現代の日本は、工業社会の名残りで「老い」を嫌う「嫌老社会」です。でも、かつての古代エジプトや古代中国や江戸などは「老い」を好む「好老社会」でした。前代未聞の超高齢化社会を迎えるわたしたちに今、もっとも必要なのは「老い」に価値を置く好老社会の思想であることは言うまでもありません。そして、それは具体的な政策として実現されなければなりません。

 

人生の修め方

人生の修め方

  • 作者:一条 真也
  • 発売日: 2017/03/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

世界に先駆けて超高齢化社会に突入する現代の日本こそ、世界のどこよりも好老社会であることが求められます。日本が嫌老社会で老人を嫌っていたら、何千万人もいる高齢者がそのまま不幸な人々になってしまい、日本はそのまま世界一不幸な国になります。逆に好老社会になれば、世界一幸福な国になれるのです。まさに「天国か地獄か」であり、私たちは天国の道、すなわち人間が老いるほど幸福になるという思想を待たなければならないのです。そして、その思想を「人生を修める」ことのベースにすることが大切です。わが社では、「ともいき倶楽部」の活動を通じて、老いるほど豊かになる「老福」の提供、人生を修めるための「修活」のサポートに努めています。

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「ともいき倶楽部」の発会式のようす

 

日本の神道は、「老い」というものを神に近づく状態としてとらえています。神への最短距離にいる人間のことを「翁」と呼びます。また七歳以下の子どもは「童」と呼ばれ、神の子とされます。つまり、人生の両端にたる高齢者と子どもが神に近く、それゆえに神に近づく「老い」は価値を持っているのです。だから、高齢者はいつでも尊敬される存在なのです。

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「笑い」で心ゆたかな老後を

 

アイヌの人々は、高齢者の言うことがだんだんとわかりにくくなっても、老人ぼけとか痴呆症などとは決して言いません。高齢者が神の世界に近づいていくので、「神言葉」を話すようになり、そのために一般の人間にはわからなくなるのだと考えるそうです。
これほど、「老い」をめでたい祝いととらえるポジティブな考え方があるでしょうか。人は老いるほど、神に近づいていく、つまり幸福になれるのです!

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2020年9月21日 一条真也拝