コロナからココロへ

 一条真也です。
18日に東京都が確認した新型コロナウイルスの新たな感染者は290人でした。16日は286人、17日は293人で、3日連続で200人を超えています。このようなコロナ禍の中、19日に「産経新聞」から「コロナ『自粛』で祈り、供養の機会『増えた』 日本香堂調査『大切な故人、心の拠りどころに』」というネット記事が配信されました。

f:id:shins2m:20200719122320j:plainヤフー・ニュースより  

 

記事には、「新型コロナウイルスの感染拡大防止で続いた自粛期間中、親族など身近な故人への祈り、願いごとをする人が増えていることが『日本香堂」の調査で明らかになった。同社は『「社会的距離」を埋め合わすかのように、「心の距離」が緊密化しているのではないか』とみている』と書かれています。わたしの最新刊『心ゆたかな社会』(現代書林)では、「コロナからココロへ」として、「新型コロナが終息した社会は、人と人が温もりを感じる世界」であると訴えましたが、すでにコロナ禍の中で「ココロへ」が進行しているというのです!

f:id:shins2m:20200516165530j:plain心ゆたかな社会』(現代書林)

 

調査は自粛による意識や行動の変化を問うもので、6月23、24日に実施。全国の成人男女1036人に回答を得たそうですが、「3密」や「ステイホーム」などに関する質問への回答の他、「供養に関しても、「自分の帰省や、帰省する親族の受け入れを自粛した」(66%)、「法事、法要、葬儀への参列やお墓参りを控えた」(58・1%)と、新型コロナによる影響が鮮明となりました。

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ヤフー・ニュースより 

 

しかし、ここからが重要で、「コロナ前」と比べて、祈り、供養の習慣に変化があったかについては、「前と変わらない」が7割強を占めましたが、24・3%が「ゆかりの深い故人への祈りや願いなど心の中で語りかける機会が増えた」と回答しました。約15%が仏壇、位牌、遺影に手を合わせたり、花や線香を供えたりする機会が「増えた」とし、いずれも「減った」を大きく上回ったといいます。最後に、記事は「祈りや供養の機会が増えたと答えた人の約8割は『今後も維持・継続したい』としており、コロナ禍で先祖との『絆』を求める指向が高まっていることも明らかになった。日本香堂は『未曽有の経験に揺れ動いた心の拠りどころとして、大切な故人に見守られているような、安らぎのひとときという実感を強めているのではないか』と分析している」と結んでいます。


唯葬論』(サンガ文庫)

 

 拙著『唯葬論』(サンガ文庫)で、わたしは、「なぜ人間は死者を想うのか」という問いを立て、人間に「礼欲」という本能がある可能性を指摘しました。人間を「社会的動物」と呼んだのはアリストテレスで、「儀式的存在」と呼んだのはウィトゲンシュタインですが、儀式とは人類の行為の中で最古のもの。ネアンデルタール人も、現生人類(ホモ・サピエンス)も埋葬をはじめとした葬送儀礼を行っていました。わたしは、祈りや供養や儀式を行うことは人類の本能だと考えています。この本能がなければ、人類は膨大なストレスを抱えて「こころ」を壊し、自死の連鎖によって、とうの昔に滅亡していたのではないでしょうか。


隣人の時代』(三五館)

 

また、冠婚葬祭とは「祈り」や「供養」の場であるとともに、「集い」や「交流」の場でもあります。人間には集って他人とコミュニケーションしたいという欲求があり、これも「礼欲」の表れだと言えるでしょう。冠婚葬祭などに参加しずらいコロナ禍の現状下で、人々は多大なストレスを感じていることを確認できました。拙著『隣人の時代』(三五館)では、チャールズ・ダーウィンが『種の起源』に続いて発表した『人間の由来』において、互いに助け合うという「相互扶助」が人間の本能であると主張しました。「社会的存在」である人間は常に「隣人」を必要とします。そして、キリスト教も、進化論も、ともに人類の「隣人性」を肯定しているのです。冠婚葬祭は「死者への想い」と「隣人性」によって支えられていますが、それらは「礼欲」の両輪と言えます。

香をたのしむ』(現代書林)  

 

それにしても、こんな時期に意義のある調査を実施された日本香堂さんに敬意を表します。わたしは、2009年に同社の小仲正克社長(当時)と対談しましたが、香りが「こころ」と「たましい」に与える効果について語り合い、「お線香という商品には、“日本人の想い”が託されている」ことを確認しました。この対談の内容は、2010年1月に刊行された『香をたのしむ』(現代書林)  に収録されています。

 

2020年7月19日 一条真也