心ゆたかな話

一条真也です。
ネットで、心ゆたかな話を見つけました。19日に西日本新聞が配信した「電車内で『電話、かけた方がいいですよ』 思いやり感じた忘れられない出来事」という記事です。

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ヤフー・ニュースより 

 

それによれば、看護の心温まる思い出や物語を表彰するコンクール「忘れられない看護エピソード」(厚生労働省日本看護協会主催)の看護職部門で、佐賀県鳥栖市の看護師斎藤泰臣さん(43)の作品が最優秀賞に選ばれたそうです。コンクールは5月12日の「看護の日」に合わせて2011年から毎年実施。「看護職」「一般」「Nursing Now」の3部門で800字以内のエピソードを募集し、日本看護協会関係者らが審査します。今年は2701作品の応募がありました。西日本新聞社の梅本邦明記者が書かれた記事には、以下のように書かれています。
「斎藤さんは、数年前の冬、JR長崎線の電車内でのエピソードを紹介した。夫婦と思われる男女が『病院まで遠いよ。最期の会話になるかもしれない』『そんなことない。間に合う』と小声ながらも切羽詰まった様子で言い争っていた。会話を聞いた斎藤さんは、息を引き取ろうとする父親の臨終の場に、男性が間に合わない状況だと理解した。斎藤さんは久留米大病院(福岡県久留米市)に勤務し、当時は末期がん患者を診る緩和ケア病棟を担当。患者の家族には、後悔しないように最期の声かけや気持ちを伝えるように促してきた。その経験から男女を静観できず、近づこうとしたとき、ある女性が『電話、かけた方がいいですよ』と声をかけ、他の乗客もうなずいた。背中を押された男性は電話をかけ『おやじが一生懸命働いてくれたから俺たちは少しもひもじい思いをしなかったよ。心配しないでいいから。本当にありがとう』とおえつを抑えながら感謝を述べた。斎藤さんは胸が温かくなり、電車内にいたみんなが『看護』をしていたと感じたという。最優秀賞を受け『評価してもらい、うれしかった』と語った」

 

わたしは、このエピソードに非常に感動しました。わたしは「礼」を何よりも重んじている人間ですので、車内のルールやマナーなどには敏感な方ですが、このときの乗客の方々は車内ルールやマナーなどよりももっと大切なものがあるということに気づかれました。わたしは「礼」には二種類あり、マナーというのは「小礼」であると思っています。では、「大礼」は何かというとモラルです。それは思いやりを表現することであり、いわば「人の道」とも呼ぶべきものです。このご夫婦がもし電話ができずに、お父さんに感謝の言葉を伝えられなかったら、大きな悲嘆を感じていたことでしょう。それをケアしてあげたことは「人の道」だったと思います。「電車内にいたみんなが『看護』をしていたと感じた」というくだりにも感動しました。これこそ、グリーフケアの理想ではないでしょうか?

 

また、「おやじが一生懸命働いてくれたから俺たちは少しもひもじい思いをしなかったよ」という言葉には泣けました。プロの物書きの端くれとして言わせてもらうなら、このエピソードが感動的であるのは、ある女性の「電話、かけた方がいいですよ」と、声をかけられた男性の「おやじが一生懸命働いてくれたから俺たちは少しもひもじい思いをしなかったよ」という2つの言葉が共振するように読む者の心を震わせるからではないでしょうか。わたしは、そう思います。

 

わたしは、昔、たしかサンレー創立30周年記念式典で、故 重岡専務が社員一同を代表して「会社があったから私たちは生活することができ、家族を食べさせることができ、子供たちを学校にもやることができました」と挨拶され、それを聞いていた松柏園の大塚支配人が男泣きしていたことを思い出しました。そのとき、わたしは大塚支配人の横にいたのですが、サンレーに入社したばかりでした。重岡専務の言葉を聴きながら、「会社というのは社員の生活のベースなのだ」ということを改めて学びました。現在、コロナで会社も大変ではありますが、絶対に社員のみなさんとそのご家族が困らないように、不安な思いをしないように、「サンレーで良かった」と言っていただけるように、社長として頑張ります!!

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西日本新聞」2020年6月18日朝刊 

 

ところで、表彰状を手にする斎藤さんの写真を見て、同じ「西日本新聞」の18日朝刊に掲載されたわたしの写真とダブりました。わたしは100冊目の一条本である『心ゆたかな社会』(現代書林)を手に持っていますが、記事には「人と人との縁が希薄になる『ハートレス社会』を憂い、縁ある者同士が心でつながる社会の復活を訴えている」などと紹介されました。「西日本新聞」さんといえば、先々月まで「令和こころ通信 北九州から」を連載させていただき、本名の佐久間庸和として、「天下布礼」のためのコラムを24回にわたってお届けしてきました。心ゆたかな社会を支える「西日本新聞」さんには感謝するばかりです。最後に、斎藤さんは電車内で父親の臨終の場に向かう男性と、乗客の思いやりを描かれましたが、このような思いやりのある行動が「心ゆたかな社会」への扉を開いていくように思います。

 

心ゆたかな社会 「ハートフル・ソサエティ」とは何か
 

 

2020年6月20日 一条真也