東京五輪は中止すべき

一条真也です。
新型コロナウイルスの感染者が世界で約290万人になり、死者はついに20万人を超えました。そして、日本全国が緊急事態宣言下にあります。こんな中、来年7月に延期された東京五輪の開催の是非が問われています。

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産経新聞」2020年4月27日朝刊 

 

産経新聞」4月27日朝刊には「五輪 5団体でスポンサー離れ 代表選考方法見直しは半数以上 本紙アンケート」の見出しで、以下のように書かれています。
新型コロナウイルスの感染拡大によって1年の延期が決まった東京五輪について、国内の競技団体の多くが『スポンサー離れ』や『強化費の減額』に不安を抱えていることが26日、産経新聞が実施競技を統括する国内の競技団体(NF)を対象に行ったアンケートで分かった。代表選考方法の見直しについても『一部で必要』『検討中』とする競技団体が半数以上で、五輪延期の影響が多方面に及んでいる実情が明らかになった。(東京五輪取材班)」

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ヤフー・ニュースより

昨日、インターハイが史上初の中止が決定しました。
全国高校体育連盟(全国高体連)は26日にウェブ会議による臨時理事会を開き、新型コロナウイルスの感染拡大で今夏の全国高校総合体育大会(インターハイ)を中止すると決めました。全国高校総体は30競技の高校日本一を決める大会で1963年から毎年行われており、中止は史上初めてです。インターハイ中止の決定を受けて、全国高校野球連盟(高野連)も夏の甲子園大会を中止する可能性が高くなってきました。インターハイにしろ、甲子園にしろ、出場予定だった高校生たちは心に大きなグリーフを抱えたわけで、指導者らには心のケアが求められます。

f:id:shins2m:20200427124412j:plainダイヤモンド・オンラインより 

 

インターハイの中止決定の報を受けて、東京五輪の中止を連想した人も多かったのではないでしょうか。というより、コロナ疲れをしている多くの日本人は「もう五輪どころじゃないよ」と思っているのではないかと推測します。ダイヤモンド・オンラインが配信した「東京五輪の1年後開催は無理、中止を直ちに決めるべき理由」という記事で、作家・スポーツライターの小林信也氏は「いまでも東京オリンピックを歓迎しますか?」と東京都民、日本の国民にそれを問いかけたら、「一体、どれほどの人が『歓迎する』『ぜひ開催するべきだ』と、手放しで賛成するだろうか?」と述べています。

 

また、小林氏は以下のようにも述べています。
「IOC(国際オリンピック委員会)のトーマス・バッハ会長が公式ホームページで、『日本の安倍首相が、1年延期で必要な追加費用(約3000億円)の負担を了解している』旨の発信をし、日本で問題視された。日本の東京2020組織委員会の要請でこれは削除されたと報じられているが、バッハ会長がありもしない事実を公式ホームページででっちあげるだろうか? 急転直下、1年延期が決まり、日程まですぐに決まった経緯からしても、日本側から何らかの提示があったことは想像に難くない。いずれにせよ、『3000億円の追加費用』を出すだけの予算があったら、『やってほしいことはほかにある』というのが、新型コロナウイルスの感染拡大がいまだに止まらず、緊急事態宣言の下、感染と生命の危険に怯え、生活を大幅に規制されている多くの人たちの実感ではないだろうか」

f:id:shins2m:20200427124628j:plainヤフー・ニュースより

 

小林氏は、これだけ大変な状況が続くいま、「1年後の開催は無理だろう」「早く中止を決めるべきだ」と感じているそうで、以下のように述べています。
「1年後のオリンピックの準備より、いまは『命と健康を守ること』『社会の平和を取り戻すこと』が何より緊急のテーマだ。そのために、いまあるものはすべて新型コロナウイルス対策に注力すべきだ。例えば、オリンピックのために建設・整備した施設は、感染者や感染防止、仮設の医療施設として使えるだろう。オリンピック村だけでなく、新国立競技場や他の競技場も転用すれば大いに役立つはずだ」
その通りだと思います。何よりも、3000億円もあったら、新型コロナで崩壊しかかっている医療に回すか、休業のために収入がなくて困っている方々に回すべきでしょう。



さらに、小林氏は以下のように述べます。
「『復興五輪』だとか『新型コロナウイルスを乗り越えた祝祭として』とか、さまざまな詭弁を弄してオリンピック開催を正当化してきたが、政府・財界の思惑が『経済効果』であることは衆目の一致するところだ。安倍首相は、東京オリンピックを推進の旗頭として『インバウンド増加による観光立国の実現』『日本が誇るアニメやITなどの先端技術の輸出拡大』などを目論んでいた。その思惑は自らマリオに扮したリオ五輪閉会式の演出でも明らかになった。つい先日まで、その意図どおり進展しているかに見えた。インバウンドは想定を上回る数で上昇し、日本中が中国をはじめアジア各国からの来訪者であふれた。しかし、新型コロナウイルスですべては変わった。いま改めて、安倍首相が提唱した『インバウンドで日本を活性化する』という政策を支持する国民がどれほどいるか? 去年までのように、自分たちの平穏な生活や文化・習慣までがアジアの人たちに踏みつぶされるような風景を取り戻したいか?」
わたしは、この小林氏の意見に全面的に賛成です。

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近刊 『心ゆたかな社会』(現代書林)

 

そして、小林氏は「経済だけを優先させる価値観は、見直されるだろう。オリンピックのビジネスモデルも、今回の事態ではっきりと終焉を迎えた。それを認識すれば、もはや、3000億円をさらに投入する価値はない。新型コロナウイルスが収束できたとしても、その先にあるのは、これまでと同じ日本社会ではないはずだ。新型コロナウイルスを乗り越えて、新たに気づいた価値観を共有する社会だろうし、そうあってほしい。そこでスポーツがどんな役割を果たすのか。おそらく、勝利至上主義と商業主義が結びついたエリート優遇のスポーツからの脱却も進むだろう」と述べます。この考えは、もうすぐ上梓する拙著『心ゆたかな社会』(現代書林)のメッセージと大きく重なります。



とはいえ、純粋にスポーツを愛するアマチュアの選手たちが活躍の機会を奪われることは、わたしも心苦しく思います。小林氏も「選手たちに輝く舞台、躍動する機会を与えてあげたい。それはスポーツを愛する者の当たり前の思いだ。しかし、これまでと同じように、一部のスポーツ選手だけが優遇され、一攫千金を果たし、メディアや企業がヒーローに群がって商売する構造も空しいものだと多くの人たちが心のどこかで感じるのではないだろうか。スポーツ界はそこからの脱却と転換を次の道筋とすべきだ。その意味でも、従来と同じ、商業主義、勝利至上主義的なオリンピックを拙速に強行する必然性はない」と述べています。まったく同感です。



商業主義のスポーツといえば、プロスポーツが最たるものですが、現在、大相撲やプロ野球やJリーグをはじめとしてすべてのプロスポーツは通常の興行を開催できていません。それらのファンだった人々は意気消沈しているかというと、どうもそうではない印象です。「確かに物足りないけど、今はそれどころじゃないよな」といったところでしょう。スポーツはもともと「余暇」を意味する「レジャー」の1つですが、「生活」の方が優先されるのは当然です。わたしはプロレスや総合格闘技の熱心なファンでしたから、それらの人気が衰退し、テレビのゴールデンタイムから消えた喪失感を記憶しています。ですから、これから大相撲やプロ野球がテレビから消えたとしても驚きません。



一部の人々は「大相撲やプロ野球やJリーグは単なるスポーツではない。それは現代の祭りなのだ」と言うかもしれません。確かに、プロスポーツの興行は現代の祭りであると思います。わたしも、かつて新日本プロレスやUWFやPRIDEやK-1の東京ドーム大会に祭りの参加者として足を運びました。そして、わたしの祭りは終わりました。
昨年5月に「平成」から「令和」に改元されました。文化が大きく変化し、あるいは衰退するのは、日本の場合は元号が変わった時であると言われます。明治から大正、大正から昭和、昭和から平成へと変わった時、多くの年中行事、祭り、しきたり、慣習などが消えていきました。プロスポーツの興行が「祭り」であるなら、令和の時代になって消えていくことも大いにあり得ることだと思います。



人類にとっての最大の「祭り」といえば、オリンピックであり、万国博覧会ではないでしょうか。2020年の東京五輪と並んで、2025年には大阪万博が予定されています。2018年11月23日にパリで開かれた博覧会国際事務局(BIE)の総会で、加盟国による投票の結果、大阪誘致を掲げた日本がロシア(エカテリンブルク)、アゼルバイジャン(バクー)を破り、開催地に選ばれたのです。日本での大規模万博は1970年の大阪、2005年の愛知以来、3度目。大阪万博は55年ぶり2度目となります。しかし、「今更、万博の時代ではないだろう」と思っている人は多いはず。わたしも、広告代理店に勤務していた頃には多くの博覧会の仕事に関わらせていただきましたが、万博はすでに歴史的使命を終えていると考えています。

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ヤフー・ニュースより 

 

「スポーツ報知」が26日に配信した「ビートたけし、災害が多発する日本のマスク不足に持論・・・『備蓄がないのはおかしい。五輪とか万博をやめて、まず非常事態に対して何を備蓄したらいいか考えて、まずそれから始めるべき』」という記事では、ビートたけし氏が「日本は阪神淡路(大震災)からずっと災害や地震とかがいっぱいあるのに、いざそういう時に備蓄も何もないのはおかしいんだ。そんなことやるんだったら五輪とか万博なんかやめて、まず非常事態に対して何を備蓄したらいいかって考えて、まずそれからいろんなことを始めるべき」と提言したことが報じられていますが、これもまったく同感です。たけし氏は「マスクなんかが今頃いろんな違うメーカーが作っているけど、もともと外国の安い労賃で経済優先でやっているからこんなことになっているんだよね。だからダメなんだ」とも指摘していました。わたしも経営者の端くれではありますが、もう経済優先はウンザリです! そもそも、マスクすら国民にまともに提供できない国家に、有事の中での五輪開催など不可能でしょう。

 

2020年4月17日 一条真也