グリーフケア×葬祭業

一条真也です。
まさかの首都封鎖(ロックダウン)が実現しそうな流れになってきましたね。そんな場所で7月からオリンピックを開催しようとしていた事実には驚くばかりです。しばらくは東京に行けないかもしれませんので、23日に全互協のグリーフケアPT会議を開催しておいて良かったです。

f:id:shins2m:20200326154959j:plain「フューネラルビジネス」2020年4月号の表紙

 

ブログ「『フューネラルビジネス』取材」で紹介したように、2月17日に総合ユニコムが発行している「月刊フューネラルビジネス」4月号のインタビュー取材を受けました。本日、その掲載誌が送られてきました。表紙に大きく「グリーフケア×葬祭業」と書かれています。

f:id:shins2m:20200326103216j:plain「フューネラルビジネス」2020年4月号

 

特集「グリーフケア×葬祭業」として、フロントページには以下のように書かれています。「‟売上げに直結しないアフターサポート”と称されてきたグリーフケアが、いま注目を浴びている。その背景には、グリーフケアが『生前からアフターまで』、求められるサービスであると気づいた多くの葬祭事業者が、グリーフケアの基礎を習得するようになったことがある。今号では、グリーフケア関連3団体へのヒアリングのほか、全互協内に創設されたグリーフケアプロジェクトチームの座長でもあるサンレー 佐久間庸和社長へのインタビューを実施。グリーフケアと葬祭業との関わりについて考察する」

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f:id:shins2m:20200326103229j:plain「フューネラルビジネス」2020年4月号

 

記事ですが、顔写真の横に以下のリード文があります。
一般社団法人 全日本冠婚葬祭互助協会で昨年立ち上がった『グリーフケア・プロジェクトチーム』で座長を務める、サンレー代表取締役社長の佐久間庸和氏。2010年に遺族会として『月あかりの会』を発足させ、上智大学グリーフケア研究所では客員教授を務める佐久間社長に、グリーフケアの意義や重要性、これからの互助会が進むべき方向性などについて伺った」

葬儀が必要である最大の理由
それが「グリーフケア

――御社では2010年に、ご遺族の会「月あかりの会」を発足され、今年で10年になります。当時としては、かなり先進的な取組みだったのではないかと思います。

佐久間 私は葬儀でのご遺族の姿を見るたびに「なんとか、この方々の悲しみを少しでも軽くするお手伝いができないか」と常々思っていました。配偶者を亡くした方は立ち直るのに3年はかかる、幼い子どもさんを亡くした方は10年かかるといわれています。大切な人を亡くすという悲嘆は、それだけ深く、長い時間が必要なのです。悲しみの極限で苦しむ方の心が少しでも軽くなるようお手伝いをすることは、われわれの使命だと考えており、グリーフケア・サポートを行なうことは20年来の悲願でした。「月あかりの会」は10年に開始して以来、心理カウンセリング、アロマテラピーなどの「癒し」、月例会や合同慰霊祭などの「集い」、カルチャー教室やセミナー、講演会などの「学び」、旅行、レクリエーションの「遊び」の4つのテーマで活動してきました。試行錯誤しながら続けてきましたが、10年経ってやっと形になってきたというのが実感です。

――長年グリーフケアと向き合ってこられて、どのようなことを感じておられますか。

佐久間 グリーフケアは非常に大切ですが、同時にとてもむずかしいということを日々痛感しています。一方で経営の観点では、ビジネス優先で考えざるを得ない状況もあり、「グリーフケアがどうビジネスに結びつくのか、売上げにつながるのか」というご質問もよくいただきます。しかし、これからの時代は、互助会という枠組みを超えて、日本社会全体で取り組んでいかなければいけないテーマだと考えています。

――なぜいま、グリーフケアに取り組むべきなのでしょうか。

佐久間 われわれの業界に携わっている方は「葬儀は必要だ」と考えているでしょう。しかし、一方で葬儀は必要ないという方もおられます。そういう方々に、葬儀が必要である理由をどのように説明できるでしょうか。伝統や縁・絆の大切さ、感謝の想い、故人を思う時間・・・・・・、すべて正しいですが、それだけでは通用しないのではないでしょうか。葬儀は不要という方に納得いただくには、そこにサイエンスの光を当てなければならない。そこで浮かび上がるのが、「こころの科学」であるグリーフケアです。私は著書のなかでも何度か言及してきましたが、葬儀というものを発明しなかったら、人類はとうの昔に滅んでいたと思います。

――それはどういうことでしょうか。

佐久間 葬儀には2つの大きな目的があります。1つは故人を供養すること、もう1つは遺された方の心をケアすること、つまりグリーフケアです。
一緒に生活していた家族や配偶者、子どもが亡くなってこの世から消えてしまったら、何事もなかったように、それまでと同じ生活していくことは到底できません。心に空いた大きな穴をそのままにしていたら、精神的に病んでしまいます。実際、うつ病は古代からあり、そのせいで自死する人もいたといわれています。そうならないように、いったんけじめをつける知恵、あるいは文化装置が葬儀だったのです。その重要性がわかっていたからこそ、日本だけでなく、世界中でそれぞれの葬儀が脈々と受け継がれてきたのでしょう。
葬儀という知恵がなければ、悲嘆が深くなり、精神的に病んで自殺に至る。自死の連鎖が起こり、人類は滅亡していた・・・・・・、と私は思っています。
最近は「葬式は、要らない」という人たちが現われ、その考えに賛同する人たちも少なくないという現状は、危機的な状況です。家族が亡くなったことを近所にも職場にも知らせない方もおられますが、健全とはいえないでしょう。
その背景には、ご自宅で亡くなる方が減り、子どもたちが祖父母の亡くなる場面を見ることもなくなり、葬儀の意味がわかりにくくなっているということがあると思います。葬儀にはグリーフケアとしての役割があり、それが遺された方にとっていかに重要か。それこそ、葬儀が必要である最大の理由だと思います。

――あえて伺いますが、グリーフケアはビジネスにどうつながるのでしょうか。

佐久間 一般に葬祭ビジネスにとって優秀なスタッフとは、これまでは単価の高い葬儀を受注する人だったと思います。当社もそうでした。しかし、現在の消費者はどのように故人を見送るかより、なるべく費用をかけないことに関心があります。こうした多くの消費者の考えと裏腹に、単に単価を上げようとしていては、生き残ることはできません。
いま葬祭業界がやるべきことは、葬儀にはどんな意味があるのか、どういう重要性があるのか、また故人をしっかり見送ることが悲しみを癒せる最大の力であることをきちんと理解し、お客様にお伝えすることです。
言い換えれば、これからはグリーフケアをしっかりサポートすることが、葬儀という仕事を続けていくうえでの前提になる。ひいては、「グリーフケアがどうビジネスに結びつくのか」という問いに対する答えにもなると思います。そして私は、グリーフケアの普及が、日本人の「こころの未来」にとっての最重要課題と位置づけています。

互助会にとってグリーフケアは社会的責任 新たな縁としての「悲縁」が生まれている

――昨年、全日本冠婚葬祭互助協会(以下、全互協)に「グリーフケア・プロジェクトチーム」(以下、グリーフケアPT)が発足し、その座長を務められています。

佐久間 グリーフケアPT発足のきっかけは、昨年亡くなられたラックの柴山文夫社長が、グリーフケアの重要性を熱心に説いておられたことです。柴山社長は、「互助会こそグリーフケアに取り組むべき」と強く訴えておられました。私もおっしゃるとおりだと思いますし、そのご遺志をしっかりと受け継いでいきたいと思って座長をお引き受けしました。
現在グリーフケアPTでは、私が客員教授を務めている上智大学グリーフケア研究所と全互協のコラボにより、互助会業界にグリーフケアを普及させる活動をしています。「グリーフケア資格認定制度」(仮称)も、来年秋に開始する予定で準備を進めているところです。

――なぜ互助会こそグリーフケアに取り組むべきなのでしょう。

佐久間 グリーフケアは、互助会にとってCSR(社会的責任)の1つではないかと思います。
かつて冠婚葬祭は、地縁、血縁の手助けによって行なわれていました。家族の形の変化や時代の流れのなかで、冠婚葬祭互助会という便利なものが生まれ、結婚式場や葬祭会館ができ、多くの方にご利用いただくようになりました。図らずも互助会は、無縁社会を進行させた要因の一部を担ってきたといえるのかもしれません。
同様に死別の悲しみも、近所の方、近親者の方によって支えられてきましたが、地縁、血縁が薄くなるなかで、グリーフケアの担い手がいなくなっています。生まれてから「死」を迎えるまで人生の通過儀礼に関わり、葬儀やその後の法事法要までご家族に寄り添い続ける互助会が、グリーフケアに取り組むことは当然の使命だと思うのです。
また、グリーフケアには死別の悲嘆を癒すということだけでなく、死の不安を軽減するというもう1つの目的があります。超高齢社会の現在、多くのお年寄りが「死ぬのが怖い」と感じていたら、こんな不幸なことはありません。死生観をもち、死を受け入れる心構えをもっていることが、心の豊かさではないでしょうか。
人間は死の恐怖を乗り越えるために、哲学・芸術・宗教といったものを発明し、育ててきました。グリーフケアには、この哲学・芸術・宗教が「死別の悲嘆を癒す」「死の不安を乗り越える」ということにおいて統合され、再編成されていると思います。特にご高齢の会員を多く抱えている互助会は、2つ目の目的においても使命を果たせると思っています。

――悲嘆や不安の受け皿の役割は、これまで地域の寺院も担ってきたと思います。

佐久間 そうですね。宗教離れが進み、人口も減少していくなか、互助会は冠婚葬祭だけでなく、寺院に代わるグリーフケアの受け皿ともなり得ると思っています。月あかりの会を運営して気づいたのは、地縁でも血縁でもない、新しい「縁」が生まれていることです。会のメンバーは、高齢の方が多いので、亡くなられる方もいらっしゃいますが、その際、ほかのメンバーは必ずその方の葬儀に参列なさいます。楽しいだけの趣味の会ではなく、悲しみを共有し、語り合ってきた方たちの絆はそれだけ強いのです。この月あかりの会によってできた新しい縁を、私は「悲縁」と呼んでいます。寺院との関係が希薄になっているいま、地域に葬祭会館を構える互助会は、コミュニティセンターの機能を担うことができるし、担っていかなければいけないと思います。

資格によって葬祭業の社会的地位を高め 誇りをもって働けるように 

――グリーフケアPTで進めているグリーフケア資格認定制度についてお伺いします。グリーフケアには、やはり人材の育成が重要ということでしょうか。

佐久間 グリーフケアは、何よりも人材が命です。
実際は、互助会や葬儀社の第一線で活躍しているスタッフは、悲嘆にくれている方との接し方をすでに身に付けていると思います。しかし、ご遺族は悲しみのあまり辻褄の合わないことを話されることもありますし、やり場のない怒りをスタッフにぶつけることもあります。
受け止められる準備のないまま相談などを受けていると、聞いているスタッフ側が病んでしまいかねません。資格認定制度によって宗教・医療・心理など、グリーフケアについて体系立てた知識を身につけることは、スタッフが自分の苦悩を軽減するためにも必要なことです。
また葬祭業は非常に重要な仕事ですが、まだまだ偏見もあり、辛い思いをしているスタッフも少なくありません。資格認定制度創設のいちばんの願いは、葬祭業の社会的地位を高め、そこで働くスタッフが自分の仕事に誇りをもてるようにすることなのです。グリーフケアは非常に将来性のある分野だと思っていますし、業界いちばんの花形の職種にしたいと考えています。

――しかし、カリキュラムの内容や試験の方法もむずかしいのではないかと思います。

佐久間 はい。基本的には葬祭ディレクター技能審査がモデルになると思いますが、グリーフケアは心の問題に関するスキルなので、とてもむずかしいですね。たとえばグリーフケアにおける傾聴は、悲嘆の極みにある方のすべてを受け止めなければなりません。そういうスキルをどう高め、どう試験をするのかなど、現在、制度設計をしているところです。
現時点の構想では資格は1級から3級までとし、互助会スタッフのみならず、専門葬儀社、JA葬祭スタッフの受験も可能とする予定です。3級はすでに一部グリーフケアについても学んでいる葬祭ディレクター1級の取得者ならば、問題なく合格できるレベルを想定しています。最上位のグリーフケア1級では、大規模災害時に資格保持者を派遣することも視野に、葬祭業界のスタッフに限らず悲嘆に苦しんでいる方に対処できるスキルをもつ人材を育成したいと考えています。
葬祭に関する技術的な資格である葬祭ディレクターと、心のケアに重点を置いたグリーフケア資格の両方を取得すると1人前……、という時代も来ると思います。あるいは、互助会を退社してグリーフケアの専門家になるという人も出てくるかもしれません(笑)。

――今年2月末からは、上智大学とのコラボによる、公開講座も開催しておられます。

佐久間 上智大学大学院実践宗教学研究科主催、上智大学グリーフケア研究所共催、全互協、冠婚葬祭文化振興財団等の後援で、6つの講座を開催しています。
一般の方も参加できる公開講座としては、キリスト教上智大学以外にも、神道國學院大學とも開催してきましたし、仏教については、今後、全日本仏教青年会と連携して開催していこうと計画しています。
儀式の重要性や意義を啓発するには、インフラをつくっていかなければなりません。特に元号が変わるタイミングで、人々が新しいものばかりに目を向けるせいか、古くからの風習や慣習、儀式などが失われる傾向があります。最大の人生儀礼である葬儀の必要性について、広く啓発していかなければならないと思っています。

――佐久間社長は、常々「無縁社会を克服して、有縁社会を再生する」と言っておられます。

佐久間 私の使命は、葬儀に参列する方をふやすことだと思っています。なぜなら、葬儀は血縁や地縁、その他の縁を結びつけるチャンスであり、その方が亡くなったときに葬儀に参列する方こそ、本当の縁者だと思うからです。
価値観が多様化し、地縁、血縁が希薄化する一方で、悲しみを共有することで悲縁も生まれている。悲しんでいる方に寄り添うグリーフケア遺族会自助グループなど悲縁を育む場は、互助会が提供し、サポートしていくべきだと思います。それが社会的責任を果たすことにつながり、互助会が地域に認められる存在であるためにも重要なことだと考えています。そのために、柴山社長の遺志を継ぎ、必ずや互助会業界にグリーフケアを浸透させてまいります。

f:id:shins2m:20200124133148j:plain柴山社長の遺志を継ぎます!

 

2020年3月26日 一条真也