東京五輪延期と無観客

一条真也です。
東京に来ています。
これから北九州に戻ります。ホテルの客室の窓から新国立競技場が見えますが、どことなく寂寥感が漂っています。

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今朝の新国立競技場 

 

各国から延期を求める声が上がっている東京オリンピックについて、IOC(国際オリンピック委員会)の最古参でカナダ人のディック・パウンド氏が「IOCが今、持ち合わせる情報をもとに東京オリンピックの延期はすでに決定された」と語りました。また、「開催時期は決まっていないものの、7月24日からは開かれない」とし、決定はIOCから「段階的に発表されるだろう」とコメントしています。



ついに日本政府も、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、東京オリンピックを最大1年以内の範囲で延期する方向で調整するとの見通しを明らかにしました。23日、安倍総理、東京都の小池知事、大会組織委員会の森会長が相次いで東京五輪の延期の可能性を認めました。国内での聖火リレーがスタートする前に延期を決定するべきなので、ぎりぎりセーフといったところです。

 

本当は延期よりも中止のほうが現実的だと思うのですが、まずは良しとしましょう。何よりも「アスリート・ファースト」で行くべきです。利権・金権・政権の「三権」はどうでもよろしい。東京五輪に関しては延期・中止の他に無観客という選択肢もありますが、わたしはこれには反対です。オリンピックはもともと祭典という儀式であり、主体としての観客なしにスポーツ競技だけを行っても意味がありません。

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日刊ゲンダイ」DIGITALより

 

それは神事という儀式である相撲の場合も同じです。現在、大相撲をはじめ、プロ野球、サッカー、ゴルフなどが無観客で行われています。22日配信の「日刊ゲンダイ」DIGITALの「大相撲は無観客では成り立たない・・・プロ野球との決定的な違い」というコラムで、コラムニストの海原かみな氏は、「新型コロナウイルス騒動で、スポーツ競技は、開催されても、軒並み無観客になっている。で、テレビを見ていて、それほど違和感がないのは野球だ。プロ野球でもかつてパ・リーグは、いつもスタンドはガラガラだったし、今でも大学野球は、早慶戦を除けば、学ラン応援団とチアリーダーと暇そうな学生だけという試合は少なくない」と書いています。

 

サッカーは制裁処分でしばしば無観客ゲームが行われますし、ゴルフは荒天でギャラリーを入れないことがありました。海原氏は「グリーン回りがすっきりして、かえってコースがきれいに見える。ラグビーや陸上、水泳も、観客がいなくてもテレビ観戦にとくに問題はなさそうだ」と述べた上で、「客がいないと、『催し』そのものが成り立たないことがはっきり分かったのは、大相撲である」として、こう述べます。
「炎鵬がはじき飛ばされそうになった時の悲鳴のような声援、白鵬が圧倒的強さで勝った時の少しがっかりしたような客席のため息などがないこともあるが、大相撲の観客は単に取組を見物に来た人たちではない。天下太平を祈念する神事でもある相撲を奉納する側の、いわば主役だ。主役がいないのだから、祭りとして成り立っていない。がらんとした観客席の寒々しさは、それだったのだ」

 

日本の祭 (角川ソフィア文庫)

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  • 作者:柳田 国男
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そう、相撲は神事ですが、神事というのは「祭」でもあります。ブログ『日本の祭』で紹介した日本民俗学の到達点というべき名著で、著者の柳田国男は日本の祭の大きな変化について、 「日本の祭の最も重要な1つの変わり目は何だったか。一言でいうと見物と称する群の発生、すなわち祭の参加者の中に、信仰を共にせざる人々、言わばただ審美的の立場から、この行事を観望する者の現れたことであろう。それが都会の生活を花やかにもすれば、我々の幼い日の記念を楽しくもしたと共に、神社を中核とした信仰の統一はやや毀れ、しまいには村に住みながらも祭はただながめるものと、考えるような気風をも養ったのである」と述べています。

一見、神と宗教者さえいれば「祭」という儀式は成立するのではないかと考えがちですが、現在の「祭」には「見物」する者たち、すなわち観客の存在が欠かせないのです。12日、オリンピック発祥の地、ギリシャオリンピアで聖火の採火式が厳かに行われました。澄み切った青空の下、古代の衣装に身を包んだ女性が鏡で太陽の光を集めて火を取り、第1走者が持つ東京オリンピックのトーチに引き継ぎました。

 

儀式論

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しかしながら、この神聖かつ荘厳なセレモニーは史上初めてとなる無観客での採火式でした。この瞬間、わたしは、東京五輪の通常開催の可能性が消えたと考えています。儀式とはそういうものです。アスリートはもちろん一番重要ですが、観客も大切です。アスリート・ファースト、ギャラリー・セカンドとでもいいましょうか。繰り返しますが、利権・金権・政権の「三権」はどうでもよろしい! 最後に小池都知事が首都封鎖の可能性を示しましたが、本当にロックダウンされたら、しばらく東京に来れないなあ・・・・・・。

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スターフライヤーの機内で

 

2020年3月24日 一条真也