歌に託さんわが志  

一条真也です。
4日、「西日本新聞」に「令和こころ通信 北九州から」の第19回目が掲載されました。月に2回、本名の佐久間庸和として、「天下布礼」のためのコラムをお届けしています。今回のタイトルは「歌に託さんわが志」です。

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西日本新聞」2020年2月4日朝刊

 

昨年最も活躍した「令和元年の顔」といえば、なんといっても、ラグビー日本代表の面々です。ワールドカップで初のベスト8入りした奮闘ぶりは、日本中に感動を与えました。じつは、彼らが心の支えにしていたのが、わたしが詠んだ歌であることを最近知って大変驚きました。

 

某全国紙の元旦の朝刊に、わたしが15年前に詠んだ歌が紹介されたのです。ラグビー日本代表強化委員長の藤井雄一郎氏の心に響いたといいます。「おそれずに 死を受け容れて 美に生きる そこに開けりサムライの道」という歌ですが、2005年に公開されたトム・クルーズ主演の映画「ラスト・サムライ」にちなんだものです。

 

日本代表は、サムライの美しさを意識したチーム作りをしました。その中心にいた藤井氏は、インターネットで検索し、この歌にたどり着きました。記事には「かつての武士が身につけていた潔さや謙虚さを教わる気持ちになった」と書かれていました。

 

これを知ったわたしは非常に驚くとともに、とてもうれしく感じました。歌を詠み続けてきて本当に良かったとも思いました。わたしは2001年の社長就任のときから「庸軒」の雅号で、短歌を詠んでいます。総合朝礼や社長訓示の際はもちろん、各種の全国責任者会議、竣工記念神事、入社式から創立記念式典に新年祝賀式典まで、とにかくありとあらゆる機会に歌を詠み、社員のみなさんに披露します。

 

詩歌といっても、なにぶん商売人の身であり、なかなか花鳥風月を詠んで風雅の世界に遊ぶわけにはいきません。また、現場で頑張っているみなさんの苦労を思うと、そんな心境にもなれず、もっぱら会社や仕事に関する話題で詠んでいます。ただし、そこには当社の「志」を詠み込きます。「志」と「詩」と、さらに「死」は本来分かちがたく結びついていました。古来、日本でも中国でも詩歌とは志を語るものとされました。

 

日本人は辞世の歌や句を詠むことによって、死と詩を結びつけました。死に際して詩歌を詠むとは、おのれの死を単なる生物学上の死、つまり形而下の死に終わらせず、形而上の死に高めようというロマンティシズムの表われだと言えるでしょう。

 

そして、死と志も深く結びついていました。死を意識し覚悟して、はじめて人はおのれの生きる意味を知る。有名な坂本龍馬の「世に生を得るは事を成すにあり」という言葉こそは、死と志の不可分の関係を解き明かしたものにほかなりません。わたしは、これからも多くの歌を詠み続けていき、生涯に1万首は詠みたいと願っています。最後に、「天高く 手を伸ばせども 届かねば 歌に託さん わが志」という歌を披露したいと思います。

 

2020年2月4日 一条真也