「ゴーストマスター」  

一条真也です。
日本映画「ゴーストマスター」を観ました。国産ホラー映画であることと、公開前のネットの評価が5点と以上に高かったので、少し期待したのですが、まったく面白くなかったです。やはり、公開前のネットの評価は当てになりません。



ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「プロジェクト『TSUTAYA CREATOR'S PROGRAM』で準グランプリ作品企画Fillmarks賞を受賞した、『嘘を愛する女』『ルームロンダリング』に続く映像化作品。映画の助監督が撮影現場に変化をもたらす。監督を務めるのは、ドラマ『バックハグ~アフィリエイトがつなぐ恋~』などのヤング・ポール。脚本を『天空の蜂』『東京喰種 トーキョーグール』などの楠野一郎が手掛ける」

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ヤフー映画の「あらすじ」は以下の通りです。
「低予算の壁ドン青春映画の撮影が行われている廃校。助監督の黒沢は監督やスタッフに言いたいように言われ、人格まで否定され続けているが、自分で書いた『ゴーストマスター』という脚本を唯一の心の支えとして持ち歩いていた。黒沢の映画への愛と信念が詰まったその脚本は、撮影現場を変えていく」



「ゴーストマスターズ」の冒頭には劇中映画が登場します。「僕に、今日、天使の君が舞い降りた」(ボクキョー)という壁ドン映画ですが、パロディということはわかるのですが、あまりにも下らない。一応、「ゴーストマスター」はホラー映画なわけです。ホラー映画を観に来る客というのは、怖がるために映画館を訪れているわけです。それが映画の最初から、いきなりチープな壁ドン映画のパロディを見せられても困ります。ホラー・モードに入っていた気持ちが一気に冷めてしまいます。この冒頭シーンを見ただけで、「ああ、この映画はダメだな」と思いました。



さて、壁ドン映画の撮影現場は、ひょんなことからどんどんシュールな世界に入っていきます。そこからホラー映画に変容していくのですが、低予算映画の撮影現場が悪夢と化していく様はブログ「カメラを止めるな!」で紹介した日本映画の真逆であると思いました。「ゴーストマスター」がトビー・フーパ―の映画などよりずっと「カメラを止めるな!」の影響を受けていることは明らかですが、「カメ止め」ほどのクオリティはありませんし、映画愛も感じませんでした。



たしかに、「ゴーストマスター」には映画愛が溢れているように一見思えます。しかし、それがセリフの中で好きな映画監督の名前を何人も連呼したり、監督の顔がカメラと一体化したり、とにかく安易でチープな発想です。映画愛というものは、こんなストレートな表現を使わずに表現しなければなりません。こんな幼稚な演出で映画愛を表現しようなどという不届きな考えに、わたしはだんだん腹が立ってきました。この映画、とにかくまったく怖くなくて、ホラー度は低いのですが、イライラするというストレス度は高かったです。助監督の「黒沢明」という名前も調子に乗り過ぎです。



そもそも、普通の低予算映画の撮影現場がどうして惨事の現場と化したのか、そのあたりを説明するストーリーの流れがあまりにも雑です。助監督の強い映画愛が、突如として現実を変えるといった強引な展開になっており、観ていたわたしは引きました。これは脚本が良くないです。ホラー・SF・ファンタジーなどの非日常世界を描く映画こそ、細部のリアリティが求められるというのはわが持論ですが、この点が「ゴーストマスター」には完全に欠けていました。



「ゴーストマスター」で実名の出ていたトビー・フーパ―はわたしも好きな監督です。代表作は「悪魔のいけにえ」(1974年)です。米国テキサス州に帰郷した5人の男女が、「レザーフェイス」に襲われ殺害されていくホラー映画です。レザーフェイスとは、近隣に住む人々を殺害して得た人皮によって創られた仮面を被った大男で、その外見はものすごいインパクトがありました。真に迫った殺人の描写やそのプロットは後に数多くのフォロワーを生み、ホラー映画の金字塔とされています。なんと、殺人描写の芸術性のために、マスターフィルムがニューヨーク近代美術館に永久保存されています。



「ゴーストマスター」に登場する助監督・黒沢明の愛してやまない映画が、トビー・フーパ―の「スペースバンパイア」です。1985年のSFホラー映画で、原作はコリン・ウィルソンの小説『宇宙ヴァンパイアー』です。物語は、行方不明になっていた宇宙船チャーチルが、突如出現して地球に接近する場面から始まります。すぐさま調査に赴いた捜索隊は、無残に焼けた船室のカプセル内で死んでいる全裸の美女を発見します。その美女は、地球に回収させるように仕組まれたエイリアンの罠だったのでした。



スペースバンパイア」のラストシーンはラブロマンスもどきなのですが、「ゴーストマスター」にもしっかり引用されていました。しかし、全体的に「ゴーストマスター」はトビー・フーパーの作品というより、デヴィッド・クローネンバーグの「ヴィデオドローム」(1982年)やジョン・カーペンターの「ゼイリブ」(1988年)といったSFホラー映画を連想しました。「スペースバンパイア」も含めた1980年代のホラー映画のパロディ、それが「ゴーストマスター」の正体だと思います。
パロディならば、怖くないのは当然ですね。

 

2019年12月7日 一条真也