即位の礼

一条真也です。
令和元年10月22日、「即位の礼」が無事に執り行われました。日本の天皇践祚後、皇位を継承したことを国の内外に示す一連の国事行為たる儀式で、最高の皇室儀礼とされています。中心儀式の「即位礼正殿の儀」は、諸外国における戴冠式即位式にあたります。国内外の代表が参列する中、天皇陛下が即位を公に宣言され、その場は、皇室の長い歴史を伝える装束や調度品で華やかに彩られました。

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日本最大の儀式「即位礼正殿の儀」(NHKより)

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高御座で姿を現される天皇陛下(NHKより)

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御帳台の皇后さま(NHKより)

f:id:shins2m:20191022131637j:plain「即位礼正殿の儀」のようす(NHKより)

 

「即位礼正殿の儀」は、以下の手順で行われました。
天皇陛下 高御座に
②皇后さま 御帳台に
③高御座・御帳台 とばり開く
天皇陛下おことば
内閣総理大臣 お祝いの言葉
⑥参列者 万歳三唱

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「おことば」を述べられる天皇陛下(NHKより)

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お祝いの言葉を述べる安倍首相(NHKより)

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万歳三唱(NHKより)

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「松の間」を退出される天皇陛下(NHKより)

 

即位の礼大嘗祭と一連の儀式を合わせ、「御大礼」とも称されます。皇嗣が新たに皇位に就くことを「即位」といいますが、古代では神へ寿詞を奏上し、神璽を献納する事を中心とした、簡素なものでした。平安時代に「皇位の継承」である「践祚」と「即位」が別の儀式として行われるようになり、唐風の儀式が江戸時代まで続きました。即位にかかる儀式全般を即位儀礼といいますが、これは皇嗣が即位する「践祚の儀」と、即位したことを内外に宣下する「即位の礼」に分かれます。即位の礼は「剣璽等承継の儀」、「即位後朝見の儀」、「即位礼正殿の儀」、「祝賀御列の儀」、「饗宴の儀」の5つの儀式から構成され、これらは全て国事行為です。


儀式論』(弘文堂)

 

儀式論』(弘文堂)にも書きましたが、「わたしたちは、いつから人間になったのか。そして、いつまで人間でいられるのか」という根源的な問いの答えは、すべて儀式という営みの中にあります。わたしは、人間は神話と儀式を必要としていると考えています。社会と人生が合理性のみになったら、人間の心は悲鳴を上げてしまうでしょう。そして、天皇陛下ほど「神話」と「儀式」をその存在で体現されている方はおられません。



天皇陛下は神話的存在です。なんといっても日本人のアイデンティティの根拠は、神話と歴史がつながっていることです。神話により日本人は、現在の天皇家の祖先が天照大神につながることを知っています。『日本書紀』の一書によれば、天照大神は天を支配し、月読尊は海を支配し、須佐之男命は地を支配したとされています。天照大神はいまも伊勢神宮に祀られており、その子孫が皇室です。

 

また、天皇陛下は儀式的存在です。代々の天皇陛下は、自ら稲を栽培され、収穫が終わると新嘗祭神嘗祭で、今年の収穫のご報告をされます。新嘗は、新しくできた米を嘗(な)めるお祭。神嘗は、神々が新穀を嘗(な)めるお祭りです。天皇陛下が即位後初めて行う新嘗祭だけは、「大嘗祭(だいじょうさい)」と呼び、その儀式は遠く神代の昔から毎年続いています。



ちなみに、伊勢神宮の20年に1度の式年遷宮は、20年に1度の周期で行う大神嘗(かんなめ)祭でもあるのです。改めて考えてみれば、天皇陛下ほど儀式と切っても切れない深い関係にある方もおられないでしょう。天皇陛下の行事の中には「祭祀」がありますが、これは「皇室祭祀」とも呼ばれるものです。これには新嘗祭など重要な「大祭」と、それよりも重要度が落ちる「小祭」があり、大祭の場合には、天皇陛下が神主の役割を果たされます。

f:id:shins2m:20191022132425j:plain「儀式を行ふこと」 は天皇陛下の務め(NHKより)

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日本にとって最重要な儀式でした(NHKより)

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歴代の首相も参列(NHKより)

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世界各国の国賓も参列(NHKより)

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「即位礼正殿の儀」の参列者たち(NHKより)

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世界最強の儀式的存在(NHKより)

 

日本国憲法では、天皇の国事行事として「儀式を行ふこと」が定められています。1952年の閣議決定によれば、それに相当する唯一の儀式が「新年祝賀の儀」です。儀式には、宗教的なものと世俗的なものがありますが、政教分離の原則がある以上、国事行為として天皇陛下が行われる儀式は後者に限られます。天皇陛下が実際に行われる儀式としては、首相や最高裁長官の「親任式」、大綬章や文化勲章の「親授式」、「信任状捧呈式」など。信任状捧呈式とは、着任した海外の大使(特命全権大使)や公使(特命全権公使)が、派遣元の元首からの信任状を提出する儀式で、これだけでも1年間に30回から40回くらいあるそうです。日本の天皇は世界最古の王朝ですが、まさに天皇陛下こそは世界最強の儀式的存在であると言えるでしょう。

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まさに平安絵巻でした(NHKより)

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儀式は文化そのものです!(NHKより)

 

「即位礼正殿の儀」のTV中継を見ながら、わたしはオリンピックやワールドカップ以上の巨大な感動をおぼえました。そして、平安絵巻さながらの歴史と伝統の重みを噛みしめながら、「ああ、日本人として生まれて良かった!」「儀式とは文化そのものだ!」と心の底から思いました。このたびの「即位の礼」が無事に執り行われたことを心からお祝いし、千代に八千代に日の本の繁栄を祈りたいと思います。

 

新しき君の生まれし儀を見れば 
  千代に八千代に栄え祈らむ 庸軒

 

2019年10月22日 一条真也