「Lemon」

一条真也です。
米津玄師の「Lemon」が、3月22日発表の最新3/25付「オリコン週間カラオケランキング」で、52週連続の1位を獲得。これは、2013年8月に「連続1位獲得週数」を51週として歴代1位となったゴールデンボンバーの「女々しくて」を上回る歴代1位の新記録です。 

 

今回の記録更新について、米津玄師は「とんでもないことが起こっているな、という不思議な気持ちでいます。自分自身ですべてをコントロールしようとすることのあっけなさを改めて認識しました。この曲を作る機会を与えてくれたドラマ『アンナチュラル』や、それに関わる人たちすべてのおかげだと思います。真っ当に生きてちゃそうそう訪れないであろう体験が出来たのはラッキーだったと噛み締めて、これからも引き続き粛々と音楽を作っていこうと思います」とコメントしています。

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「アンナチュラル」のDVD-BOX

 

そう、「Lemon」はブログ「アンナチュラル」で紹介したドラマの主題歌です。「アンナチュラル」は、2018年1月12日から3月16日までTBS系で放送された石原さとみ主演のドラマです。不自然な死を解明する司法解剖医たちの物語でした。TBS公式サイトの番組イントロダクションには、「不自然な死は許さない!」「亡くなった人だけでなく、今を生きる人々を救い、未来への希望を見出すために・・・彼らは死因を究明し、未来の誰かを救命する!」と書かれています。「Lemon」は、大切な人を亡くした人の悲しみに寄り添うナンバーとして大きな話題となりました。

f:id:shins2m:20190322233645j:plainNHK「第69回紅白歌合戦」より

f:id:shins2m:20190322233730j:plainNHK「第69回紅白歌合戦」より

 

わたしが「Lemon」を初めて聴いたのは、昨年のNHK「第69回紅白歌合戦」においてでしたが、まずは題名が良いと思いました。梶井基次郎の名作「檸檬」を連想させるスタイリッシュな印象があります。それから、歌詞が絵画的で素晴らしいと思いました。そして「Lemon」はまさに「グリーフケア・ソング」だと思ったのでした。この歌は、「愛する人を亡くした人」のための歌です。

愛する人を亡くした人へ』(現代書林)

 
愛する人を亡くした人は誰でも、「Lemon」の冒頭の歌詞のように、「夢ならば、どれほどよかったでしょう」と思うはずです。また、「未だに、あなたのことを夢に見る」はずです。「戻らない幸せがあることを、最後にあなたが教えてくれた」とも思うでしょう。「今でも、あなたはわたしの光」という言葉も出てきますが、闇の中で光を見つける営みこそ「グリーフケア」ではないでしょうか。
この曲のメッセージは、拙著『愛する人を亡くした人へ』(現代書林)の内容とも重なります。愛する人を亡くしたとき、人はその悲しみ、喪失感にどう立ち向かっていけばいいのか。死に直面した人の心に、愛という水を注ぎ込みたいと考えて、わたしは同書を書きました。



「Lemon」という曲は謎に満ちています。
まず、「ウェッ!」という合いの手が謎です。
あのブラックデビルのような奇声は何なのか?
まず、あの音は人の声のサンプリングだそうですが、なぜ、あのような奇妙な音を楽曲の中で流すのかという理由について、米津玄師は「アンナチュラル」の脚本家である野木亜紀子氏との対談の中で、「これはホントに自分の中で重要な音であって、あるのとないのとでは全然こう…意味合いが変わってくる感じがあって自分の頭の中で。それが何故なのかって言われたら正直自分でもわかんないんですけど。ホントに重要な音だと俺は思ってますね」と語っています。なかなか興味深いですね。

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彼女はこの世の者ではない!(「Lemon」MVより)

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ハイヒールを履く理由は?(「Lemon」MVより)

 

「Lemon」のMVも、満ちています。
無表情で踊る女性ダンサーも謎めいていますが、周囲の人々が彼女の存在に気づいていない様子であることから、彼女はすでにこの世の者ではない存在、すなわち霊であることがわかります。教会の椅子に腰かけ歌を捧げる米津も、目の前まで女性ダンサーが近づいているのに無反応です。そして、彼はなんとハイヒールを履いています。明らかに異様な光景ですが、音楽ライターの蜂須賀ちなみ氏は「切り分けた果実を分け合うように、米津は、その女性と同じハイヒールを履いていた。諸説あるが、ハイヒールは中世のヨーロッパで汚物を踏まずに歩くために生み出された靴であり、そうではなくとも、現代では、毅然とした姿勢で歩いていく女性を表すモチーフとして様々な作品内で用いられている。ゆえに米津の履くあのハイヒールは、『あなた』のことを忘れられない気持ちと悲しみに塗れた道の上でも『歩いていかなければ』というまっすぐな意思、両者の間における葛藤の象徴なのではないだろうか」と述べています。非常に鋭い考察だと思います。

 

「Lemon」は、今や知らない人がいないくらい有名になりました。MVがYouTubeで3億回以上再生されており、これは物凄いことです。しかし、この歌、はっきり言って、カラオケで歌うのは難しい歌です。リズムや音程など非常に難易度の高い楽曲であると言えます。しかし、それにも関わらず、発売直後よりカラオケでも高い人気となりました。何よりも、昨年末の紅白歌合戦に米津本人が出演し、徳島の美術館から生歌を披露したことが大きな話題となり、現在も高い人気を誇っています。じつは、わたしもカラオケで「Lemon」をよく歌います。YouTubeのカラオケ・レッスン動画で練習を重ねてきました。カラオケでは「ウェッ!」という合いの手は入っていません。

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まさにグリーフケアのテーマソングです!

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夢ならばどれほどよかったでしょう♪

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あの日の悲しみさえ あの日の苦しみさえ♪

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今でもあなたはわたしの光♪

 

東京、金沢、小倉、那覇のカラオケ店でもう10回くらいは熱唱したでしょうか。自分で言うのも何ですが、評判は上々です。全国で1位にもなりましたし、精密採点でも信じられないような高得点が出ました。サビで高音を出すところなどが自分に合っているのかもしれません。しかし何よりも、わたしが、この歌のテーマである「グリーフケア」について考え続けてきたのが最大の原因ではないかなどとも考えてしまいます。

f:id:shins2m:20190323104318j:plainこれからも「Lemon」を歌い続けます♪

 

いずれにしても、このような「愛する人を亡くした人」のために作られた歌のMVが3億回以上も再生されたという事実に、わたしはグリーフケアの時代の到来を実感してしまいます。そして、「Lemon」をグリーフケアのテーマソングとして歌っているのです。今では、北島三郎「まつり」、矢沢永吉「I LOVE YOU,OK」、サザンオールスターズ「TSUNAMI」に続くわがカラオケの十八番になる予感がしてなりません。これからも、わたしは「Lemon」を歌い続けることでしょう。
改元まで、あと39日です。

 

2019年3月23日 一条真也