アップデートする冠婚葬祭

一条真也です。
ブログ「秋季例大祭」で紹介した神事と朝粥会の後は、恒例の「天道塾」を開催しました。最初にサンレーグループ佐久間進会長が登壇し、訓話をしました。会長は、地元の百貨店が撤退する話題に始まって、田川の赤村で見つかった「卑弥呼の墓」と騒がれている古墳のような地形、聖徳太子の偉業、そして日本における「カタチ」の文化などについて述べました。


天道塾のようす

訓話する佐久間会長



続いて、わたしが登壇し、講話を行いました。
わたしは、まず、ブログ「小倉高校同窓会」で紹介したように、わが母校である小倉高校の34期同窓会が開催が松柏園ホテルの新館「VILLA LUCE(ヴィラルーチェ)」で開催されたことを報告しました。同窓会の冒頭でわたしが挨拶をしましたが、そこで血縁も地縁も希薄化する「無縁社会」において、同じ学び舎で時間を共にした「学縁」の大切さを述べました。


わたしが登壇しました

闘う商人 中内功――ダイエーは何を目指したのか

闘う商人 中内功――ダイエーは何を目指したのか

それから、わたしは最近読んだ3冊の本について話しました。
『闘う商人 中内㓛』小榑雅章著(岩波書店)、『田原俊彦論』岡野誠著(青弓社)、『天河大辨財天社の宇宙』柿坂神酒之祐&鎌田東二著(春秋社)の3冊ですが、いずれも時代の変化に伴う「アップデート」についての大きなヒントが書かれていました。
まず、巨大流通企業であったダイエーの興亡を描いた『闘う商人 中内㓛』には、ダイエー凋落の原因となった日本の流通業界における大変革が書かれていました。「日本型GMSの黄昏」として、家電のヤマダ電機、コジマヨドバシカメラビックカメラ洋服の青山商事、AOKI、婦人服のしまむら、ドラッグストアのマツモトキヨシサンドラッグ、家具のニトリ、ホームセンターのコメリ、カインズ、コーナン・・・・・・ほとんどのロードサイドの専門店が、その力を発揮し出したのが1980年代後半から1990年代前半であることが紹介されています。同書には「あるカテゴリーに絞って、圧倒的マーチャンダイジング力で品揃えし、価格も安くして店舗展開するカテゴリーキラーという業態が、この時期に相次いで出現し、GMSの顧客を奪っていったのである。奪ったのではない。お客様が、選択をしたのだ、というべきなのだろう」と書かれています。


軽自動車の普及とGMSの衰退について



ダイエーなどのGMSの多くは、駅前や繁華街や団地の中央などの足場のいいところに店があります。ところが路面店は、売場は広いが、足場がよいところはむしろ少ないです。多くの場合、歩いてすぐ行ける店舗ではありません。しかし、広い道路に面していて、駐車スペースも広く、車で行くには便利なところにできています。その点、歩いて行けるGMSとは根本的に異なります。軽自動車の普及ですが、1981年を1とすると、85年にはほとんど変わりませんでしたが、その後急激に伸びて95年には2.8倍、2000年には4.7倍にも増えています。乗用車の増加の多くが、この軽自動車の増加の結果だと言っても過言ではありません。著者は述べます。
「1980年代後半から90年代に入って、ダイエーの既存店の売上げが、徐々に落ちていった原因は、バブル崩壊後の消費者の財布が絞められたことに合わせて、このカテゴリーキラー店舗の影響が大きかったと思われる。そして、それをもたらしたのは、この軽自動車の普及という主婦層のモータリゼーションのお陰だったのである」


なぜ、田原俊彦はNHK『紅白』に落選したか?

田原俊彦論

田原俊彦論

続いて、『田原俊彦論』岡野誠著(青弓社)には、「視聴率低下の波にさらわれた『紅白歌合戦』落選」として、田原俊彦が1987年にデビュー以来7年連続出場を果たしていたNHK『紅白歌合戦』に落選したことが紹介されています。85年から『ザ・ベストテン』など歌番組の視聴率が下落。怪物番組『紅白歌合戦』も同様で、84年の78.1%から、85年66.0%に落ち込み、86年は59.4%と初めて60%台を割りました。そのため、87年は大幅に選考内容を見直すことになりました。
その理由について、著者の岡野氏は「リモコン普及率が大きく関係していたと思われる」と指摘し、さらに「リモコンは1985年の31.2%から、86年42.0%、87年53.8%、88年67.5%、89年75.2%、90年82.9%と毎年10%前後の割合で急増。それまではチャンネルをわざわざ回しにいく煩わしさもあって興味がない歌手の曲も続けて視聴していたと思われるが、手軽にチャンネルを切り替えられる便利な機器の登場で、自分が好きな歌手だけを見る体制が整った」と述べています。
いつの世でも、どんな業界でも、リモコンや軽自動車などの機械の技術革新が思わぬ生活上の変化をもたらすものなのですね。
また、岡野氏は家庭のテレビ保有台数にも注目しています。


『紅白』の視聴率は下がり続けた



『紅白』の視聴率下落は、クオリティーの低下というよりも、技術進歩がもたらした逆らえない時代の流れだったわけですが、それでもNHKのスタッフは視聴率回復に躍起になりました。1987年を「改革『紅白』3年計画」の初年度と位置づけ、「歌唱力」「今年の活躍」「大衆の指示」の三大ポイントを選考基準にしたのです。その結果、どうなったか。
「紅組司会者を4度務め、1965年から22回連続出場中だった水前寺清子は『流行歌手なのにヒット曲がなかった』、68年の初出場から計14回も名を連ねた千昌夫も『歌手活動が目立たなかった』という理由で落選(*当時は不動産業の話題、ジョーン・シェパード婦人との離婚騒動でワイドショーを賑わせていた)。58年から29回連続出場中だった三波春夫は、流れを察して発表前に辞退を公表していた。この視聴率不振を取り返すための“革新する『紅白』”の象徴の1つに、田原の落選もあったのだ」
しかし、1987年の視聴率はさらに4.2%も下落して、55.2%という惨憺たる結果に終わりました。リモコンが普及し、一家のテレビ台数も増えた世の中では、「幅広いジャンルからの選出」などという小手先だけの改革では視聴者のニーズを満たすどころか、完全に逆効果だったのです。


寺院消滅や神社消滅の危機について

天河大辨財天社の宇宙 神道の未来へ

天河大辨財天社の宇宙 神道の未来へ

3冊目の『天河大辨財天社の宇宙』の三「天河と神道の未来」では、宗教哲学者の鎌田東二先生が「おそらく寺院消滅や神社消滅の危機は日本の伝統文化や共同体の構造を大きく変化させる要因となるだろう。全国に約八万社ある神社本庁傘下の神社と約七万近くある仏教寺院が、日本の地域共同体の自然・文化・社会的な安全・安心の拠り所となることができれば日本社会の安定に寄与すること測り知れない」と述べています。この意見に同意しながらも、ブログ「コミュニティセンター化に挑む!」ブログ「葬祭ホールをコミュニティセンターに」などで紹介したように、わたしは全国にあるセレモニーホールがコミュニティセンターに進化して、神社や寺院の役割・機能を補完しながら、「日本の地域共同体の自然・文化・社会的な安全・安心の拠り所」になるのではないかと予測します。


アップデートとは何だろうか?



「アップデート」というのは、情報機器においてソフトウェアやWebサイトの情報を最新の状態に保つこと。スマホではOSやアプリのアップデートがありますね。アップデートによって新しい機能が追加されたり、不具合が解消されたりするわけですが、わたしが愛用しているiPadもiPhoneも常にアップデートを繰り返しています。それがあまりにも多過ぎるので、「アップルさん、ちょっと落ち着きましょうよ」と言いたくなります。
そして、企業にも初期設定とともにアップデートが求められます。わが社の初期設定が「創業守礼」ならば、アップデートは「天下布礼」。 さらに言えば、わが社の初期設定が皇産霊神社天道館ならば、アップデートは隣人館であり、「禮鐘の儀」であり、さらには「月への送魂」であると言えます。


アップデートする仏教について



『天河大辨財天社の宇宙』の最後に、鎌田先生はブログ『アップデートする仏教』で紹介した本に言及します。そして、仏教の閉塞状況を突破していく試みとして、最近、仏教サイドから仏教の未来展望について新しい問題提起がなされているとして、以下の「仏教3.0」の議論を紹介します。
(1)仏教1.0(檀家制度に支えられた葬式仏教・コミュニティ仏教として形骸化していった日本の大乗仏教
(2)仏教2.0(瞑想修行の実践的プログラムと実修を具体的に提示したテーラワーダ仏教
(3)仏教3.0(テーラワーダ仏教による批判的吟味を踏まえて仏教本来の瞑想修行を取り戻した大乗仏教


アップデートする神道について



そして、鎌田先生はなんとこの論法で神道を読み解き、次のような三種神道を示すのです。
(1)神道1.0(天皇制を頂点とした律令体制以降の神社神道や近代のいわゆる国家神道
(2)神道2.0(天皇制以前から存在してきた神祇信仰や自然崇拝を中核とした自然神道古神道
(3)神道3.0(自然神道を核とし国家神道を内在的に批判突破した神神習合や神仏習合修験道をも内包する生態智神道
これには唸りました。つねづね、わたしは鎌田先生のことを「超一流のコンセプター」であると思っているのですが、まさに、その面目躍如であります。


神道4.0」「仏教4.0」へ!



しかも、それにとどまらず、鎌田先生はこう述べるのでした。
「さらに大風呂敷を広げておけば、天河大辨財天社は、真言密教の『即身成仏』思想や『草木国土悉皆成仏』を謳った天台本学思想を止揚した四次元仏教の確立と実践を『仏教4.0』として展開しているともいえるし、また『生態智神道』を止揚した『惑星神道(地球神道、Planetary Shinto)』を『神道4.0』として未来創造している、その生成の最中にあるともいえる。南方熊楠の神社合祀反対運動や宮沢賢治の羅須地人協会の活動とも共鳴する思想と実践が1980年代以降の天河大辨財天社にはある」
天河大辨財天社とは、「神道4.0」はおろか「仏教4.0」までを内包した無限の可能性を持った聖地であるというのです。


アップデートする冠婚葬祭について



わたしは「仏教3.0」だけでなく「冠婚葬祭3.0」についても考えるべき時期が来ていると思います。制度疲労を迎えているのは、けっして日本仏教や神道だけではないのです。とりあえず、次のように考えてみました。
(1)冠婚葬祭1.0(戦前の村落共同体に代表される旧・有縁社会の冠婚葬祭)
(2)冠婚葬祭2.0(戦後の経済成長を背景とした互助会発展期の冠婚葬祭)
(3)冠婚葬祭3.0(無縁社会を乗り越えた新・有縁社会の冠婚葬祭)


高い志をもって頑張りましょう!



ブログ「儀式文化創造シンポジウム」で紹介したパネル・ディスカッションで、わたしはパネリストとして儀式のイノベーションの必要性を訴えました。いま、七五三も成人式も結婚式も、そして葬儀も大きな曲がり角に来ています。現状の冠婚葬祭が日本人のニーズに合っていない部分もあり、またニーズに合わせすぎて初期設定から大きく逸脱し、「縁」や「絆」を強化し、不安定な「こころ」を安定させる儀式としての機能を果たしていない部分もあります。いま、儀式文化の初期設定に戻りつつ、アップデートの実現が求められています。「冠婚葬祭3.0」、さらには「冠婚葬祭4.0」の誕生が待たれているのです。以上のように述べると、いつものように「高い志をもって頑張りましょう!」と訴えて、わたしは降壇しました。



2018年8月17日 一条真也