平昌五輪閉会式

一条真也です。
25日、冬季五輪では史上最多となる92の地域から2925選手が参加した平昌冬季五輪の全競技が終了しました。開催期間は非常に寒い時期でしたが、連日、熱い戦いが繰り広げられました。日本は過去最多となる13個のメダルを獲得し、たくさんの感動をわたしたちに与えてくれました。午後8時からは閉会式が盛大に開催されました。


平昌冬季五輪の閉会式のようす(毎日新聞より)

平昌冬季五輪の閉会式のようす(毎日新聞より)



わたしは、もともとウィンター・スポーツにはまったく縁のない人間です。何を隠そう、スキーもスケートもやったことがありません。ですので、オリンピックといえば夏季五輪にしか関心がなく、冬季五輪に対しては無関心でした。それが今回の平昌冬季五輪には夢中になりました。詳しくは、ブログ「グレイテスト・アスリート」ブログ「カー娘の笑顔に学ぶ」をお読み下さい。


「弔いの祭典」のようす(NHKより)

儀式論』(弘文堂)



平昌五輪の閉会式では、死者の記憶を風化させないための「弔いの祭典」も登場しました。もともと、オリンピックとは兵士たちの葬送儀礼として古代ギリシャで生まれ、発展してきたとされています。
わたしは『儀式論』(弘文堂)の第11章「世界と儀式」でオリンピックに言及しました。世界規模の儀式として真っ先に頭に浮かぶのはオリンピックです。オリンピックは平和の祭典であり、全世界の饗宴です。数々のスポーツ競技はもちろんのこと、開会式および閉会式は言語や宗教の違いを超えて、人類すべてにとってのお祭りであることを実感させるセレモニーです。そこには共感による巨大な「こころの共同体」が生まれ、人々は世界平和というものを強くイメージします。


世界はひとつ!(NHKより)

これぞ人類の祭典!(毎日新聞より)



オリンピックが人類の幸福のために、どれほどの寄与をしたかを数字で示すことはできません。ノーベル平和賞受賞者であり、第7回アントワープ大会の陸上銀メダリストでもあるイギリスのフィリップ・ノエル=ベーカーは、オリンピックを「核時代における国際理解のための最善のメディア」であると述べています。古代のオリンピア祭典は民族統合のメディアとして、利害の反する各ポリスの団結を導きました。


日本選手団の入場(毎日新聞より)

にっこにっこにー! ( ◠‿◠ )(NHKより)



現代のオリンピックは世界の諸民族に共通する平和の願いを集約し、共存の可能性を実証しながら発展を続けています。今回の平昌五輪を振り返って、わたしが何より思うのは、韓国の人々が日本人をよく理解してくれた、日本人の良さを評価してくれた大会であったということです。


19日、日本の小平奈緒選手は、18日夜行われたスピードスケート女子500メートルで、2014年ソチ大会に続く五輪3連覇に挑んだ地元韓国の李相花(イ・サンファ)選手を抑えて金メダルを獲得しました。その後、韓国国旗を手に号泣する李選手を小平選手は優しく抱きしめ、ライバルを慰めました。 この姿は、日韓両国民に大きな感動を与えました。韓国の人々は小平選手を「人間性も金メダル級」と絶賛しました。


また23日、カーリング女子準決勝で日本は韓国に延長戦の末に7−8で惜敗し、決勝進出なりませんでした。韓国で「最高の美女」と大人気のスキップ・藤澤五月選手が涙を流しましたが、敗戦直後、韓国選手たちに近寄って先に握手を求めて、健闘を讃え合いました。この藤澤選手の姿に韓国メディアは「真のスポーツマンシップを見せた」と称賛し、韓国の人々は「心まで美しい」と絶賛しました。


日本が1910─45年、朝鮮半島を統治下に置いていたという歴史から、両国関係にはしこりが今なお残っています。それが少しでも良い方向に向かってくれたのなら、まさに平和装置としてのオリンピックが機能したことになりますね。平和といえば、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、北朝鮮が参加した平昌冬季五輪を「平和五輪」と位置づけました。


今年の元旦、北朝鮮金正恩朝鮮労働党委員長が突然、代表団を送る用意があると発言。そのときから、平昌冬季五輪は熱い外交の舞台と化しました。南北朝鮮が勝手に対話ムードで盛り上がるのを防ぐため、アメリカはマイク・ペンス副大統領を派遣。日本の安倍晋三首相と結束を誇示した上で韓国に乗り込みました。それにしても、日韓で友好ムードが盛り上がったのにもかかわらず、北朝鮮選手による日本選手への露骨な妨害行為は残念でしたね。


韓国は日本の隣国です。もうひとつ、日本には中国という隣国があります。次回の2022年の冬季五輪は、中国の北京で開催されます。
いま、東京でも金沢でも沖縄でも、日本は中国から来た観光客だらけです。ホテルなどで多くの中国人に遭遇するたび、わたしは「一部では反日などと言っていても、中国人は日本が好きなんだな」と思います。


徹底比較!日中韓 しきたりとマナー』(祥伝社黄金文庫



わたしは、かつて、『徹底比較!日中韓 しきたりとマナー』(祥伝社黄金文庫)という本を監修しました。同書には、東アジアの平和への強い願いが込められています。もともと、日本も中国も韓国も儒教文化圏です。孔子の説いた「礼」の精神は中国で生まれ、朝鮮半島を経て、日本へと伝わってきたのです。しかしながら、現在の中国および韓国には「礼」の精神が感じられません。尖閣諸島竹島をめぐる領土問題などもありますが、もともと「礼」とは2500年前の中国の春秋戦国時代において、他国の領土を侵さないという規範として生まれたものだとされています。


礼を求めて』(三五館)



日中韓三国の国民は究極の平和思想としての「礼」を思い起こす必要があります。それには、お互いの違いだけでなく、共通点にも注目する必要があるのではないでしょうか。そこで重要な役割を果たすのが梅の花です。日中韓の人々はいずれも梅の花を愛します。日本では桜、韓国ではむくげ、中国では牡丹が国花または最も人気のある花ですが、日中韓で共通して尊ばれる花こそ梅なのです。この意味は非常に大きいと思います。


梅は寒い冬の日にいち早く香りの高い清楚な花を咲かせます。哲学者の梅原猛氏によれば、梅とは、まさに気高い人間の象徴であるといいます。 日本人も中国人も韓国人も、これまでのようにいたずらにいがみ合わず、偏見を持たず、梅のように気高い人間を目指すべきではないでしょうか。たくさんの感動を与えてくれた平昌冬季五輪は無事に終了しました。日本ではもうすぐ梅の季節を迎えます。平昌には梅の花は咲くのでしょうか?



2018年2月25日 一条真也