大人はだれも、はじめは子どもだった(サン=テグジュペリ)


一条真也です。
街はクリスマス一色ですね。大人でもワクワクします。
今回は、サン=テグジュぺリの言葉を紹介したいと思います。
世界中のすべての子どもたちのために『星の王子さま』という物語を書いた彼は、「大人はだれも、初めは子どもだった」という言葉を残しています。


星の王子さま―オリジナル版

星の王子さま―オリジナル版

星の王子さま』は、世界中の人々から愛されるファンタジーです。
サン=テグジュペリは1900年6月29日に生まれ、1944年7月31日に亡くなりました。44年間の生涯でした。ほぼ同時代人である日本の宮沢賢治は37歳で亡くなっていますから、賢治よりは長生きしたものの、短い人生であったことに変わりはありません。夭折はたしかに人を神格化しますが、彼の名前が今でも不滅の輝きを放っているのは「若死に」のせいではありません。彼が残したメッセージが広く人類全体の心に響いたからです。



フランスの伝統ある貴族の家系に生まれたがゆえに名前に「Saunt(サン)」が冠されましたが、英語ではそれは「聖」を意味します。1940年、彼の友人だったチャールズ・リンドバーグの息子が母親に「この人、フランスの聖人なの?」とたずねたそうです。その前年にサン=テグジュペリと知り合ってすっかり彼に心酔していたリンドバーグ夫人は、「そうね、ある意味ではね」と笑いながら答えたそうです。しかし、それから3年後に書かれた『星の王子さま』によって、彼は本当に20世紀の聖人となりました。



ある日、サハラ砂漠に飛行機で不時着した「ぼく」が出会った不思議な男の子・・・・・・それは、小さな小さな自分の星をあとにして、いくつもの星をめぐってきた「星の王子さま」でした。7番目の星である地球にたどり着いた王子さまは、「ほんとうのこと」しか知りたがりませんでした。質問ばかりを繰り返す王子さまと「ぼく」の交流は、はじめおかしくやがて哀しいといった常套句そのままに、次第に哀切感を増していきます。


人間の土地 (新潮文庫)

人間の土地 (新潮文庫)

王子さまの可愛らしい姿は、じつはサン=テグジュペリ自身が絵に描いたものです。彼がフランスからポーランドへ向かったとき、汽車の中で1人の少年を見かけました。三等車には多くのポーランド労働者が乗っていましたが、サン=テグジュペリはある1組の夫婦の前に腰をおろします。夫婦のあいだには子どもが寝ていて、その子が寝返りをうったときに顔が灯火の前に浮かび出ます。その顔を見たときのおどろきを、サン=テグジュペリは『人間の土地』に次のように書いています。
「おお! なんと愛すべき顔だろう! 
この夫婦から、一種黄金の果実が生れ出たのだった。
この鈍重な二人の者から、美と魅力のこの傑作が、生れ出たのだった。ぼくは、このつややかな額、この愛すべき、とがらせた唇のやさしい表情の上にうつむいた。そうして、ひとり言をもらした、これこそ音楽家の顔だ、これこそ少年モーツァルトだ、これこそみごとな生命の約束だと」



愛すべき顔をもった労働者の子ども。彼は「少年モーツァルト」と名づけられて、サン=テグジュペリの心に住みつきました。サン=テグジュペリは、レストランのナプキンなどによく少年モーツァルトの似顔絵を描きましたが、それをたまたま見つけた編集者がいました。彼は、その少年を主人公にした童話を書くことをサン=テグジュペリに勧めました。そう、その童話こそは『星の王子さま』であり、王子さまの原型は少年モーツァルトだったのです。

口語訳聖書  コーラン 上 (岩波文庫 青 813-1)  資本論 1 (岩波文庫 白 125-1)  星の王子さま―オリジナル版

サン=テグジュペリが死の直前に書いた『星の王子さま』は世界中の言語に翻訳され、信じられないほど多くの人々に読まれました。なんと、『聖書』や『資本論』に次いで人類に広く読まれた大ベストセラーであり、ロングセラーでもあります。これにイスラム教の啓典である『コーラン』を加えた4冊を、わたしは「世界の四大ベストセラー」と呼んでいます。
星の王子さま』とは、それほどすごい本なのです。



何度も繰り返しキリスト教徒は『聖書』を読み、イスラム教徒は『コーラン』を読みます。マルクス主義者にかかわらず、社会や経済や哲学に関心のある人は『資本論』を何度も読むでしょう。そして、それらの本は読むたびに新しい発見を与えてくれるといいます。優れた文学作品もまた同じ性格をもちます。ファンタジーの名作である『星の王子さま』は、まさにそんな何度も繰り返し読むべき本です。みんな、子どもの心に返って読むべき本なのです。



ちなみに、わたしは誕生日を迎えるたびに座右の書である『論語』を読み返していますが、もう1冊の座右の書として、『星の王子さま』を「こどもの日」を迎えるたびに読み返したいと思います。なお、今回のサン=テグジュぺリのエピソードは『涙は世界で一番小さな海』(三五館)にも登場します。


涙は世界で一番小さな海―「幸福」と「死」を考える、大人の童話の読み方

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2017年12月7日 一条真也