われわれの行動の根源は想いである(エマソン)


一条真也です。
8月11日は「山の日」ですね。
今日は、山に登られる方も多いのではないでしょうか。
登山という行動の背景には、さまざまな想いがあるのでしょう。
今回は、アメリカの思想家R・W・エマソンの言葉をご紹介します。
エマソンは、スウェデンボルグと並んで、ニューソートの思想的基盤となった人物です。1803年にボストンで生まれ、ハーヴァード大学を卒業したエマソンは、教師をした後、一時、ユニテリアン教会の牧師を務めます。しかし、聖餐の儀式に疑問を抱き、良心的な解決として辞職します。ヨーロッパに外遊したエマソンは、カーライルなどイギリスの文人たちと親交を結び、帰国後はコンコードに定住、文筆や講演によって自らの思想を広めました。


エマソン論文集 上 (岩波文庫 赤 303-1)

エマソン論文集 上 (岩波文庫 赤 303-1)

エマソンの思想とは、ピューリタンの独断と頑迷を否定し、各人が自由また、明朗な個性を伸ばすことの重要性を唱えました。
また、皮相的な物質主義や合理主義を排して直観を重んじる「超絶主義者」と呼ばれる一団の中心人物となりました。
「超絶主義」というのは、実は「観念論」のことです。人間の思想はつねに観念論者と唯物論者の2つのグループに分けられてきました。観念論者にとっての土台とは意識であり、唯物論者にとってのそれは経験です。


エマソン論文集 下 (岩波文庫 赤 303-2)

エマソン論文集 下 (岩波文庫 赤 303-2)

哲学の歴史を通じて、つねに「現象界の本質」というものが問題の焦点になってきました。プラトンは、現象の背後にある原型としての「イデア」こそ究極の実在であり、これが具体的な実質を持っていると考えました。のちに師であるプラトンとたもとを分かったアリストテレスは、実在とは事物の本質であり、たしかに実質的な働きはするけれども、具体的な実体は持っていないと考えました。そしてエマソンは、「実在の本質は意識が立ち入る領域にある」と述べたのです。これは「観念論」にほかなりません。


もともと「観念論」は、17世紀末に登場した、プラトン主義とイデア論を説明するための言葉です。カントが使ったことにより、広く哲学界に受け容れられました。そのため、エマソンはよくカントと関連づけられました。
しかし、エマソンの観念論は、古くはオルフェウス教にまでさかのぼるグノーシス主義古代ギリシャヘラクレイトスの哲学、さらには古代インドのヴェーダなど、さまざまな古代の神秘主義思想に根を持つものでした。エマソンはこれら古代の教義から「光明」なるものを集めて、それを消化し、自らの思想の養分としたのです。


法則の法則―成功は「引き寄せ」られるか

法則の法則―成功は「引き寄せ」られるか

エマソンは、「啓示」というものを重要視し、いかなる啓示も、宇宙を司る「法則」と密接に結びついており、また、わたしたちが経験しうるすべてのものも「法則」の表れであると考えました。たとえば、鳥が優雅に空を飛ぶとします。そこには、誰も否定できない完璧な美がある。その完璧さに、わたしたちの心には驚異の念が呼び起こされ、鳥を空に舞うようにさせているダイナミックな「法則」に触れることができるというのです。
このように、エマソンは「法則」というものを非常に意識した哲学者でした。主著『自然論』をはじめとする一連の彼の著書には、「法則」についての言及がよく出てきます。考えてみれば、プラトンアリストテレスもともに「法則ハンター」でした。観念論も唯物論も、その土台とするところは正反対であっても、宇宙における「法則」の追求という点においては共通しているのかもしれません。詳しくは、『法則の法則』(三五館)をお読み下さい。



さて、エマソンは「われわれの行動の根源は想いである」と言いました。
想像力とは創造力です。人間の「想い」は、これまで、さまざまな形で物理化してきました。このブログを読みながら、あなたの周辺を見まわしてみて下さい。あなたの目にはいろんな物が見えるでしょう。
パソコン、スマホ、机、蛍光灯、テレビ、冷蔵庫などなど・・・・・それらの物は、すべて誰かの想像力がもとになって1つの物に作り上げられたのです。すなわち、その根底をなしている創作者の着想や思考をあなたは眺めているわけです。家具をこしらえ、窓にガラスをはめ、カーテンを作ったそもそもの初めは、人間の想像力からだったのです。



自動車も超高層建築も宇宙ロケットも、その他この世のすべての人工物は、人間の想像力から生まれたものです。
ある意味で、人間の心の中に絶えず描かれている思いや考えから組み立てられている「想像」というものは、人類進歩の源泉だと言えるでしょう。そして「想像」はやがて「理想」というものを心の中に形造るのです。
もし人間に想像する能力がなく、漫然とただ生きているだけだとしたら、科学も哲学も芸術も宗教も、いや、あらゆる一切の人類の偉大な営みは生まれず、ましてや発展などしませんでした。ですから、想像力は理想を創る原動力であり、その重要性は人生の上で途方もなく大きいことがわかります。
なお、このエマソンの名言は『龍馬とカエサル』(三五館)にも登場します。


龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

龍馬とカエサル―ハートフル・リーダーシップの研究

2017年8月11日 一条真也