八幡製鉄所の世界遺産登録に思う

一条真也です。
ブログ「北九州と世界遺産」およびブログ「世界遺産申請」で紹介した「明治日本の産業革命遺産」が、世界文化遺産に登録される可能性が高まりました。重工業に関する施設が選ばれるのは国内初で、産業遺産としては群馬県富岡製糸場島根県石見銀山に続き3例目となるそうです。


毎日新聞」2015年5月5日朝刊



すでに昨夜のニュースで朗報を知っていましたが、今朝の新聞各紙にも一面トップで大きく取り上げられています。「毎日新聞」西部本社版では「八幡製鉄所 世界遺産へ」の大見出しが躍り、「明治産業革命 23施設」「イコモス ユネスコに登録勧告」の見出しで、次のリード文が続きます。
「日本が世界文化遺産に推薦していた『明治日本の産業革命遺産 九州・山口と関連地域』(福岡、長崎、静岡など8県)について、世界遺産への登録の可否を調査する諮問機関『国際記念物遺跡会議』(イコモス、本部・パリ)は4日、『登録が適当』と国連教育科学文化機関(ユネスコ)に勧告した」



また記事には、以下のように書かれています。
「勧告は『西洋から非西洋国家に初めて産業化の波及が成功したことを示す』『1853年から1910年までのわずか50年余りという短期間で急速な産業化が達成された段階を反映している』として普遍的価値があると評価した。6月にドイツのボンで開かれる第39回ユネスコ世界遺産委員会で正式決定する。イコモスが登録を勧告した場合、世界遺産委員会でもそのまま認められる可能性が極めて高い。
産業革命遺産』が登録されれば、日本の世界文化遺産は昨年の『富岡製糸場と絹産業遺産群』(群馬県)に続き15件目、世界自然遺産も含めた世界遺産は国内19件目となる。産業革命遺産は、通称『軍艦島』で知られる『端島(はしま)炭坑』(長崎市)▽長州藩が西洋式帆船を造るために設置した『恵美須ケ鼻造船所跡』(山口県萩市)▽薩摩藩が手がけた機械工場や反射炉の遺構で構成する『旧集成館』(鹿児島市)▽幕末に実際に稼働した反射炉で国内で唯一現存する『韮山(にらやま)反射炉』(静岡県伊豆の国市)――など、日本の近代工業化を支えた炭鉱、製鉄、造船などの23施設で構成される。このうち稼働中の施設(稼働資産)は、官営八幡製鉄所北九州市)▽三菱長崎造船所(長崎市)▽橋野鉄鉱山・高炉跡(岩手県釜石市)▽三池港(福岡県大牟田市)――など8カ所あり、日本の世界遺産候補では初めて入った」



さらに記事には、以下のように書かれています。
「勧告は遺産の名称を『明治日本の産業革命遺産 製鉄・鉄鋼、造船、石炭産業』と変更するよう求めた。さらに、端島炭坑について優先順位を明確にした保全措置の計画の策定▽各施設での来訪者の上限数の設定▽来訪施設の増設・新設の提案書の提出−−などを勧告した。イコモスは、各国から世界遺産に推薦された案件の価値を評価する専門家組織で、昨年9〜10月に産業革命遺産を現地調査した。
今年の世界文化遺産登録を巡っては、政府内で、内閣官房が推薦する『産業革命遺産』と、文化庁推薦の『長崎の教会群とキリスト教関連遺産』(長崎、熊本両県)が検討対象になった。推薦は各国で年1件のため菅義偉官房長官の『政治判断』で産業革命遺産が選ばれた。『長崎の教会群』は2016年の登録を目指している。【三木陽介】」



毎日新聞」も西部本社版では八幡製鉄所が主役扱いでしたが、ほとんどの新聞の全国版ではブログ「軍艦島」で紹介した端島軍艦島)がメインでした。しかし正直言って、「産業革命遺産」よりも「長崎の教会群」のほうが世界遺産にふさわしいと思っていた人は多いでしょうし、複数の県にまたがるとか、23施設もの「あわせ技」というところに強引さを感じる人もいるでしょう。菅義偉官房長官の「政治判断」で産業革命遺産が選ばれたとしたら、そこには山口県の施設、それも「松下村塾」をはじめとした長州藩ゆかりの遺産が含まれていたということも影響したのかもしれませんね。言うなでもなく、安倍首相その人が長州藩の流れを汲む政治家だからです。
それならば、北九州市八幡製鉄所などは「おこぼれ」にあずかるというか、ラッキーだったわけで、わたしも公益社団法人北九州市観光協会の理事ですので、これで北九州への観光客が増えると思うと嬉しいかぎりです。


毎日新聞」2014年7月26日朝刊



しかし、わたしは八幡製鉄というのは、23の産業革命遺産の1つなどではなく、もっと重要な意味を持った場所であると考えています。それは日本史上いや世界史上においても特筆すべき「リスク・マネジメント」が実現され、人類史上最も多くの人間の命を救った場所だということです。
ブログ「小倉原爆スクープ!」で紹介したように、昨年7月26日の「毎日新聞」朝刊の一面には「八幡製鉄 原爆当日に煙幕」の大見出しが踊りました。さらに「8月9日 元職員『コールタール燃やす』」「米軍機『視界不良』一因か」「広島投下で警戒強める」の見出しで、次のリード文が続きます。
「長崎に原爆が投下された1945年8月9日、米軍爆撃機B29の来襲に備え、福岡県八幡市(現北九州市)の八幡製鉄所で『コールタールを燃やして煙幕を張った』と、製鉄所の元従業員が毎日新聞に証言した。米軍は当初、旧日本軍の兵器工場があった近くの小倉市(同)を原爆投下の第1目標としていたが、視界不良で第2目標の長崎に変更した。視界不良の原因は前日の空襲の煙とする説が有力だが、専門家は『煙幕も一因になった可能性がある』と指摘した。戦後70年近く歴史に埋もれていた、原爆を巡る新たな証言として注目を集めそうだ」


毎日新聞」2014年8月8日朝刊



事の発端は、わたしが講師を務めたある講演会でした。
わたしは小倉に落ちるはずだった原爆について話しました。
1945年8月9日、原爆が予定通りに小倉に投下されていたら、どうなっていたか。広島の原爆では、約14万人の方々が亡くなられています。当時の小倉・八幡の北九州都市圏(人口約80万人)は広島・呉都市圏よりも人口が密集していたために、広島以上の大虐殺が行われたであろうとも言われています。そして、わたしは小倉原爆が回避された真相に関する推測を述べました。それを聞いた元・毎日新聞社の関野弘氏が後輩のみなさんに話され、毎日の記者の方々がわたしに取材に来られ、結果として大スクープが生まれたのです。詳しくは、ブログ「小倉原爆取材」をお読み下さい。わたしは、何か見えない大きな力によって生まれた記事のような気がしました。
毎日新聞さんには、わたしの想いをかなえていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。あとは、小倉原爆の取材をされているという噂のNHKさんに特集番組を作っていただきたいです!



小倉原爆は、わたしにとって大問題です。
なぜならば、わたしの「生き死に」に関わる重大事だからです。
まさに、「他人事」ではない「自分事」そのものなのです。
小倉に落ちるはずの原爆〜死者を忘れて生者の幸福はない」などに書いたように、わたしにとって、8月9日は1年のうちでも最も重要な日です。
わたしは小倉に生まれ、今も小倉に住んでいます。
わたしは、死者によって生かされているという意識をいつも持っています。長崎だけではありません。広島はもちろん、沖縄にも知覧にも硫黄島にもビルマにも、それ以外の場所でも、先の戦争で尊い命を犠牲にされたすべての方々に想いを馳せなければなりません。


世界平和パゴダ世界遺産に!



日本には「世界平和」のシンボルともいうべき素晴らしい施設があります。
門司の和布刈公園にある世界平和パゴダです。日本で唯一のビルマミャンマー)式寺院です。第二次世界大戦後、ビルマ政府仏教会と日本の有志によって昭和32年(1957年)に建立されました。「世界平和の祈念」と「戦没者の慰霊」が目的です。わたしは、この日本における上座仏教の聖地であり、平和のシンボルでもある世界平和パゴダ世界遺産に申請したいと真剣に考えています。日本がミャンマーとの国交強化を進める上でも必要です。なんとか、安倍首相や菅官房長官にも御理解いただきたいです。



ブログ「世界平和パゴダ「終戦70周年記念戦没者慰霊祭」に紹介したように、5月10日(日)から14日(木)まで、恒例のミャンマー僧による「パターン祭」を行います。その締めくくりとして、戦没者慰霊合同参拝を行います。わたしも14日に合同参拝に参加し、戦没者の御霊に祈りを捧げるつもりです。遠いビルマの地で亡くなられた英霊はもちろん、長崎原爆の犠牲となられた方々をはじめ、すべての戦没者の御冥福を祈りたいと思います。
みなさまも、どうぞ、この機会に世界平和パゴダにお越し下さい!



*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2015年5月5日 一条真也