イスラムを知るために

一条真也です。
昨日、東京から北九州に戻りました。
浜松町の大型書店に寄ると、「イスラム国」関連書が山積みで売られていました。わたしは、『イスラーム国の衝撃』池内恵著(文春新書)、『イスラム国の野望』高橋和夫著(幻冬舎新書)の2冊を購入しました。


一気に読了した2冊



イスラーム国の衝撃』は1月20日に第1刷、25日には第2刷が発行されています。また、『イスラム国の野望』は1月30日に第1刷、なんと翌31日に第2刷が発行されており、どちらもよく売れているようです。この出版スピードの速さには恐れ入りますが、当然ながら今回の日本人人質殺害については言及されていません。おそらく、現実の事件が急展開しているとき、2冊の編集者はヤキモキしたのではないでしょうか。


イスラーム国の衝撃 (文春新書)

イスラーム国の衝撃 (文春新書)

北九州へ帰るスターフライヤーの機内で2冊とも一気に読了しました。
ともに良く出来た本で、「イスラム国」についてわからなかった謎がすっきり解けました。2冊のカラーは違います。東京大学の准教授である池内氏の本は研究者の視点で詳細に「イスラム国」の成立と本質が述べられており、北九州市出身の放送大学教授である高橋氏の著書は、とにかく枝葉を省いた大胆な解説で非常にリーダブルでした。ブログ『新・戦争論』で紹介した本では、池上彰氏と佐藤優氏が対談しましたが、高橋和夫氏の説明力の高さは池上氏に、また池内恵氏の知識の深さは佐藤氏に通じるものがあると思いました。高橋氏と池内氏の対談というのも面白いかもしれませんね。



さて、ブログ「『日本の悪夢』という呪いを解くために」にも書きましたが、わたしは「イスラム国」などという「イスラム教」と混同する名称を使うことには反対です。これでは、あのテロ集団がイスラム教を代表しているイメージを与えてしまう。イスラム教全体の中でも末端組織を「イスラム国」などと呼んでいるのは日本だけで、ほかの国は「ISIL」と呼んでいます。



イスラム国」は、人質にしていたヨルダン人パイロットのモアズ・カサスベ中尉を焼き殺しました。これを知ったわたしは、湯川さんや後藤さんの斬首刑以上の衝撃を受けました。わたしは、葬儀という営みを抜きにして遺体を焼く行為を絶対に認めません。かつて、ナチスやオウムが葬送儀礼を行わずに遺体を焼却しました。ナチスガス室で殺したユダヤ人を、オウムは逃亡を図った元信者を焼いたのです。しかし、「イスラム国」はなんと生きた人間をそのまま焼き殺しました。このことを知った瞬間、わたしの中で、「イスラム国」の評価が定まりました。この残虐行為の動画がネットに投稿されたのを受けて、アラブ世界では激しい怒りの声が広まりました。ヨルダンは対イスラム国攻撃強化への決意を一段と強めています。当然でしょう。



繰り返しますが、「イスラム国」とイスラム教はまったく別物です。
イスラム教では火での処刑は禁じられており、火葬さえ認められていません。遺体の葬り方は、土葬が原則です。イスラム教において、死とは「一時的なもの」であり、死者は最後の審判後に肉体を持って復活すると信じているからです。また、イスラム教における「地獄」は火炎地獄のイメージであり、火葬をすれば死者に地獄の苦しみを与えることになると考えます。よって、イスラム教徒の遺体を火葬にすることは最大の侮辱となるのです。「イスラム国」は、1月20日付で火での処刑を正当化する声明を発表しています。自分たちの残虐行為を棚に上げてイスラム教を利用するご都合主義が明らかです。



わたしは、神道や仏教や儒教を「こころ」の支えにして生きている1人の日本人ですが、イスラム教ほど宗教らしい宗教はないとも考えています。
源が同じであるユダヤ教キリスト教に比べても、一神教としての完成度が高く、教義の中での矛盾点も少ないように思います。
しかし、9・11の米国同時多発テロ、そして今回の日本人人質殺害などで、「イスラム教はテロの宗教」と考える人々が増えたのは悲しいことです。



大統領が就任時に『聖書』に手を添えて神への忠誠を誓うアメリカ合衆国は完全なるキリスト教国家ですが、結局、イスラム教というのはキリスト教の「シャドー」だという気がしてなりません。イスラム教の側から見れば、自分たちが光でキリスト教が影です。『ゲド戦記』ではありませんが、十字軍以来ずっと「光と影の闘い」が繰り広げられているのではないでしょうか。


「何から読めばいいか」がわかる 全方位読書案内

「何から読めばいいか」がわかる 全方位読書案内

イスラム国」についての2冊の本を読み終えた後、『「何から読めばいいか」がわかる全方位読書案内』齋藤孝著(ウェッジ)を読みました。明治大学の齋藤教授の最新刊です。この本の帯には「必要なのは、知識の量ではなく、『現実の世界』と『教養の世界』をどうつなげるか。教養を完全に自分のものにしていくための、大人のための読書案内」とあります。
非常に実践的なブックガイドで夢中になって読んでいたのですが、「イスラム教を知る」という項に拙著『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教』(だいわ文庫)が紹介されていて驚きました。



齋藤孝『「何から読めばいいか」がわかる全方位読書案内』より



『「何から読めばいいか」がわかる全方位読書案内』の38ページから39ページにかけて、齋藤氏は次のように書いています。
イスラム教の神と、キリスト教の神と、ユダヤ教の神は、基本的には同じ神様です。『ユダヤ教vsキリスト教vsイスラム教〜「宗教衝突」の深層』 (一条真也、だいわ文庫)は、三者の関係を、長女がユダヤ教で、次女がキリスト教で、三女がイスラム教、というように表現し、なぜ彼女たちが行き違ってしまったのか、なぜこんなに衝突するのかをストーリー仕立てで語っていてわかりやすい。私たちがいちばん理解しにくいのはイスラム世界ですが、この本の内容は、心に入ってきやすいと思います。世界を広く理解するためにはイスラムだけではなく、宗教についての理解を深めたいものです」


ユダヤ教VSキリスト教VSイスラム教―「宗教衝突」の深層 (だいわ文庫)

ユダヤ教VSキリスト教VSイスラム教―「宗教衝突」の深層 (だいわ文庫)

わたしは、これを読んで大変感激しました。あの本は、アマゾンの「イスラム教」カテゴリで長らく1位をキープした思い出の本です。2006年に刊行されましたが、今でも内容はさほど古くなっていないと思います。しかし一般的には「イスラム国」の登場によって、これまでの「イスラム教」および「世界宗教」についての本の内容は一新される必要があります。今や、出版界にとって「イスラム」は最大のキーワードとなりました。読者にとっても「イスラムをもっと知らなければ」という学習意欲が非常に高まっています。



齋藤孝氏は1960年生まれですが、わたしの尊敬する教養人の1人であります。ちなみに佐藤優氏も1960年生まれです。63年生まれのわたしにとって2人とも人生の先輩ですが、いずれも現代日本随一の「本読み」であり、「知」のフロントランナーです。少なくとも、50代ではこの2人が読書界では最強であると思います。そんな齋藤氏に拙著を評価していただき、光栄でした。いつか齋藤氏に直接お会いし、読書談義をしてみたいです。



*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2015年2月8日 一条真也