「ノア 約束の舟」

一条真也です。東京に来ています。
13日に公開されたばかりの映画「ノア 約束の舟」を観ました。
製作決定を知った瞬間から、早く観たくてたまらなかった作品です。


旧約聖書』の「創世記」に記された「ノアの方舟」の物語を実写化した超大作です。「ブラック・スワン」などの鬼才ダーレン・アロノフスキーが監督を務めます。主人公のノアを演じるラッセル・クロウをはじめ、ジェニファー・コネリーアンソニー・ホプキンス、さらには「ハリー・ポッター」のエマ・ワトソンなど、豪華な実力派スターが共演しています。


映画「ノア 約束の舟」の巨大ポスター



本当は映画など観ている暇がないほどの過密スケジュールが連日続いているのですが、時折、わたしの体内に潜んでいる「映画男」が悲鳴を上げるので、時間をやり繰りして、公開初日のレイトショーをネット予約したのです。映画館は「TOHOシネマズ六本木ヒルズ」でした。ここを訪れたのは久々です。13日の朝、赤坂見附駅の通路で「ノア 約束の舟」の巨大ポスターに遭遇し、「ああ、早く観たいなあ」と気が急いたのでした。


赤坂見附駅で巨大ポスターに遭遇する



公式HPの「INTRODUCTION」には、「人類史上最古にして最大の謎『ノアの箱舟』伝説を、『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキー監督が解き明かす壮大なスペクタクル感動巨編!」として、以下に続きます。
「全世界で公開されるやいなや歴代オープニング記録を塗り替え、37ヵ国でNo.1大ヒットとなり、センセーショナルな大航海を続けている『ノア 約束の舟』がいよいよ日本から出航する。アカデミー賞監督賞にノミネートされた『ブラック・スワン』、ヴェネチア国際映画祭金獅子賞に輝いた『レスラー』など、リアルで奥深い人間心理を特異な映像表現で描く鬼才として観るものに衝撃を与え続けてきたダーレン・アロノフスキー監督。彼が挑んだのは、映画化は不可能とされてきた人類史上最古にして最大のミステリー『ノアの箱舟』伝説だ。旧約聖書の『創世記』に記述され、史実だとも信じられ今なお語りつがれる『ノアの箱舟』伝説には、様々な謎がある。映画は“世界が滅びる”というお告げで幕を開けるが、人類が犯した、地上から消し去られるほどの罪とは何なのか、なぜノアが選ばれたのか、神と何を約束したのか、その驚くべき真実がついに明かされる。アロノフスキーは、かつて誰もできなかった、人類史上最古の伝説の大胆な新解釈、かつ壮大な映像化を成し遂げることで、すべての謎に心躍る答えを示していく。地球上の全種類のつがいの動物を最先端のCGIで創り出し、ハリウッド史上前代未聞の大洪水を起こし、3階建ての巨大な箱舟を建設、革新的な映像技術と鬼才の執念が生みだした、新たなる天地創造が今、はじまる――!」


公式HPの「STORY」には「世界を呑みこむ大洪水を前に、重大な使命を託されたノア」「〈世界のはじまり〉を背負った男が箱舟に乗せたのは希望か、絶望か――」として、以下のように書かれています。
「ある夜、ノアは眠りの中で、恐るべき光景を見る。それは、堕落した人間を滅ぼすために、すべてを地上から消し去り、新たな世界を創るという神の宣告だった。大洪水が来ると知ったノアは、妻ナーマと3人の息子、そして養女イラと共に、罪のない動物たちを守る箱舟を作り始める。やがてノアの父を殺した宿敵トバル・カインがノアの計画を知り、舟を奪おうとする。壮絶な戦いのなか、遂に大洪水が始まる。空は暗転し激しい豪雨が台地に降り注ぎ、地上の水門が開き水柱が立ち上がる。濁流が地上を覆う中、ノアの家族と動物たちを乗せた箱舟だけが流されていく。
閉ざされた箱舟の中で、ノアは神に託された驚くべき使命を打ち明ける。箱舟に乗ったノアの家族の未来とは? 人類が犯した罪とは? そして世界を新たに創造するという途方もない約束の結末とは――?」


じつは、わたしは、子どもの頃から「ノアの方舟」というものに心惹かれて仕方がありませんでした。小学校低学年の頃は、父がプレゼントしてくれた『原色 聖書物語』サムエル・テリエン編、高崎毅・山川道子訳監修(創元社)を愛読していました。全3巻ですが、1・2巻が「旧約聖書」、3巻が「新約聖書」でした。とても絵がきれいで、すぐさま「旧約聖書」の幻想的な世界に惹かれました。ここに、わたしのファンタジー好きの原点があるように思います。その中でも「ノアの方舟」の描写に特に心がときめきました。


ノアの大洪水(『原色 聖書物語』第1巻より



わたしは「ノアの方舟」に関する絵本を買い集めて、それらを何度も読みました。特に、つがいの動物たちが行儀よく整列して方舟に乗り込む場面、または方舟から降りる場面が大好きでした。クリスマス用のショップで「ノアの方舟」の木製玩具を見つけたときの喜びは言葉では表現できません。毎年クリスマスの時期になると、わが家のリビングルームのピアノの上では、つがいの動物たちが方舟から陸地へ降りる場面が再現されます。


ノアの方舟」の絵本各種

方舟に乗り込む場面各種

ピアノの上の「ノアの方舟



長じて、キリスト教関係の専門書や大洪水についての考古学の本なども読み漁るようになりました。1991年に上梓した『リゾートの博物誌』(日本コンサルタントグループ)の中の「伝説の国」の冒頭でも「ノアの方舟」を取り上げ、以下のように書いています。


ノアの方舟


「驚異だけが美しい」と断言したのは、『シュルレアリスム宣言』のアンドレ・ブルトンである。私においても、あらゆる世界の驚異は美しく、かつ、実在する。すなわち、霊も、超能力も、UFOも、ネッシーも、雪男も事実として在るのだ。それらの驚異の中でも私が最も魅せられるのは、『旧約聖書』の「創世記」に出てくるノアの方舟である。
ノアの方舟が辿り着いたといわれるアララト山は、トルコの東端イラン国境に近い死火山で、頂部は7個に分かれて、アルメニア高原の上に突出している。最も高い大アララトは海抜5165メートルあり、太古から氷河に覆われている。アララト山への登頂は困難で、1829年にフリードリッヒ・パロットが初めて成功するまで、久しく登頂の成功を聞かなかった。それというのも、この地方に住むアルメニア人がこの山を聖山とし、頂上にはノアの方舟が残されており、それを破壊されないよう人間の近づくのを神から禁じられていると信じて、この山に登ろうとしなかったからである。
しかし、19世紀からは多くの探険隊がこの山を訪れ、方舟の残骸を発見したり、永遠の氷河に閉ざされた舟を見つけた者もいたという。中でもスペイン系フランス人、ジャン・フェルナン・ナヴァラは1955年の第3回探険で、決死の冒険により、ついに方舟の遺物を発見し、氷河の中からその一部分の発掘に成功したのである。ナヴァラがアララト山から持ち帰った古材木は、その後の科学的調査によって、少なくとも今から5000年以上前の古い建造物の一部であることが確認されている。
伝説のノアの方舟アララト山にそのまま残っているとしたら、それこそ驚異中の驚異であろう。私は小学生の時から、このノアの方舟が見たくて仕方がなかった。私はよく、1万5000トン、長さ150メートル、幅25メートル、高さ15メートルもある巨大な舟が、標高5000メートル以上の山の氷河の中で眠っている夢を見る。方舟はやさしく、私にいろいろな真理を語りかけてくれる。きっと私はいつの日かアララト山に行き、ノアの方舟を見るだろう。そして、人類の歴史の巨大さ、重さ、はかなさを全身で感じ、感動のあまり号泣するだろう。ノアの方舟をこの目で見ることは、私の人生の目的の1つなのである。
もちろん、ノアの方舟は国ではないが、数多い伝説の国へ旅した人々の心の底には、私と同じものが流れていたはずである。人間が自然の驚異に接して直面するものは、その大半が海中に沈んでいる氷山のように、通常は目に見えない隠された世界だろう。その意味で、伝説の国々へ心を旅させることは、我々に新たな可能性を与え、人間の見失われた最も根源的な世界と触れあう貴重な経験となるのである。
(『リゾートの博物誌』より)


ノアの方舟」に言及した『リゾートの博物誌



映画「ノア 約束の舟」のパンフレット



それで、いよいよ本題の映画の感想に入ります。
公開初日に鑑賞した「ノア 約束の舟」はどうだったか。はっきり言って、ピンときませんでした。というか、イマイチでしたね。映画パンフレットの冒頭には、アレノフスキー監督の次の言葉が紹介されています。
「この作品では、巨大な箱舟、つがいの動物たち、大洪水の後の最初の虹、放たれる鳩など、ノアの物語の重要なエピソードを、すべて観ることができる。しかし、それらが観客の想像をはるかに超えた、壮大なスペクタクル映像体験となることを願っている。以前にもどこかで見たような場面を繰り返し見せる代わりに、『創世記』に書かれていることを注意深く見直し、これらの奇跡が本当に起きたと信じられる映画を作り上げた」


アレノフスキー監督のメッセージ(映画パンフレットより)



しかし、アレノフスキー監督は「ノアの方舟」を新解釈し過ぎたように思われます。映画には建造中の方舟を守る岩の怪物みたいなのがたくさん登場するのですが、これはどう考えても違和感があります。また、つがいの動物たちが方舟に乗り込む場面もイメージ優先で、物足りませんでした。もっと、リアルに描いてほしかったです。さらには方舟に乗り込んだ動物たちが眠らされて大人しくしていたのも「なんだかなあ・・・」という感じです。まあ、そのほうが論理整合性はあるのかもしれませんが。


映画パンフレットより



全体的にアレノフスキー監督が「本当に起きた」と観客に思わせるために、夢やロマンの部分を大幅に犠牲にした印象がありました。
あと、これは大事なポイントですが、方舟の内部もリアルに描かれており、暗くなっていました。そのせいで映画そのものが暗い場面が延々と続き、連日のブログ書きで寝不足のわたしは何度か入眠してしまいました。(苦笑)


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その意味では、同じ「ノアの方舟」を描いた映画としては、1966年のアメリカ・イタリア合作映画「天地創造」(20世紀フォックス)のほうが好きですね。この映画は、大物プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスと、巨匠ジョン・ヒューストン監督が組んで『旧約聖書』の「創世記」を完全映像化するという、前代未聞のプロジェクトでした。映画の中に登場するノアはジョン・ヒューストン自身が演じています。また、この映画の「ノアの方舟」はまさに『原色 聖書物語』の挿絵そのものでした。


ただし、「ノア 約束の舟」の大洪水のシーンは迫力満点でした。多くの人々が洪水の犠牲になる場面もリアルで、津波や船の沈没事故などの犠牲者の遺族が観ると辛いのではないでしょうか。
最後に、ノアという男の生き様には考えさせられます。彼は、人類史上最大のミッションを背負った男でした。その使命のためには、どんなものをも犠牲にすることを厭わないのですが、最終的に家族を犠牲にすることはできませんでした。神から与えられた使命よりも家族を優先したノアにユダヤ教でもキリスト教でもない、儒教的人物の姿を見たのはわたしだけでしょうか。



*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2014年6月14日 一条真也