日本の美

一条真也です。
ゴールデンウィークも今日で終わりですね。わたしはどこにも出かけず、自宅で読書、原稿の執筆、講演のレジュメ作りなどに明け暮れていました。
今朝、ある調べ物のために、ヤフーの映像トピックスを見ていました。
すると、「外国人夫婦が体験、日本の圧倒的『美』」という記事を発見。
その映像はあまりにも美しく、わたしの心は強く惹きつけられました。
静かな動画ですが、涙が自然に出てくるほど、しみじみと感動します。


この映像のタイトルは「January in Japan」です。撮影者は、アメリカ・カリフォルニア州在住の写真家であるスコット・ゴールドさんで、今年の1月に夫婦で日本旅行した際の記録映像です。これが「美しすぎる」とネットで大きな話題になっているようです。東京の築地市場両国国技館、京都の伏見稲荷、長野の湯田中温泉・・・・・・外国人の目を通してみると、日本の美しさが心に沁みます。この映像には神社などの伝統的な日本の姿、スカイツリーに代表される現代的な日本の姿の両方が丁寧に描かれています。
素晴らしいBGMは、トニー・アンダーソンの「Daughters」だそうです。



冒頭には、地下鉄のホームで整然と列に並ぶ日本人の姿が登場しますが、これは東日本大震災のときに世界中から絶賛されたことが思い出されます。日本人の高い倫理観は、所作の美しさに通じていきました。映像には茶席での手の動きがクローズアップで撮影されていますが、わたしはこれを見て、日本映画「おくりびと」で主演の本木雅弘さんが演じた納棺師の流れるような動きを連想しました。あの映画が世界的評価を受け、アカデミー外国語映画賞を受賞した理由の1つに所作の美しさがありましたが、それは明らかに日本における伝統文化の形式美に通じています。


決定版 冠婚葬祭入門


日本には、茶の湯・生け花・能・歌舞伎・相撲といった、さまざまな伝統文化があります。そして、それらの伝統文化の根幹にはいずれも「儀式」というものが厳然として存在します。儀式なくして文化はありえません。
この映像にも大相撲の弓取り式が登場していますが、儀式とは「文化の核」と言えるのではないでしょうか。最新刊『決定版 冠婚葬祭入門』(実業之日本社)にも書いたように、わたしは儀式そのものである「冠婚葬祭」こそは「文化の核」であると確信しています。その意味で、ゴールドさんには、日本の神前結婚式や仏式葬儀も撮影していただきたかったと思います。もしも再びこのような映像を撮影される機会があれば、わが社およびNPO法人日本儀礼文化協会が全面的に協力させていただきます。ぜひサンレーまで御連絡下さい。「日本の美」は「儀式の美」でもあります!



そして、「日本の美」とは「四季の美」です。
昨日は「立夏」でしたが、四季の存在が日本文化を支えています。
日本人に最も愛されているお経に、『般若心経』があります。
そこには、「色即是空空即是色」という有名な言葉が出てきます。
「色即是空空即是色」とは、この世にあるすべてのものは因と縁によって存在しており、その本質は空であることを示しています。また、その空がそのままこの世に存在するすべてのものの姿であるということも示しています。
「空」というコンセプトは、ブッダ自らが示した考え方だとされています。大乗とか上座とかを超えた仏教の根幹となる思想と言ってよいでしょう。
「空」とは、「からっぽ」とか「無」ということではなく、平たく言えば、「こだわるな」という意味です。『図解でわかる!ブッダの考え方』(中経の文庫)で詳しく説明しましたが、これこそは仏教の最重要論理であると思います。


図解でわかる! ブッダの考え方 (中経の文庫)


では、いっぽうの「色」はどうか。これは、「目に見えるもの」をブッダ流に表現した言葉でしょう。色がついていれば、どんなモノでも見えます。でも、空気は色がないので見えませんね。ブッダは見える世界を「色」と呼び、見えない世界を「空」と呼んだのです。でも、見える世界と見えない世界というのは、じつは同じなのです。なぜなら、見える世界は見えない世界によってできているからです。原子などは、その最も良い例ですね。この世界は、見えない原子によって成り立っているのですから・・・・・・。
これはなかなか抽象的で難しい考えなので、ブッダは色のある見える世界を「色」と表現し、色のない見えない世界を「空」と表現したのでしょう。今さらながらに卓越した表現センスであると思います。



わたしは、「色」に加えて、見えない世界を目に見せてくれるものが他にもあると思っています。「色」は「シキ」と読みますが、他にも「シキ」がある。
それは「式」、つまり儀式のこと、さらには冠婚葬祭のことです。
冠婚葬祭とは、目に見えない「縁」と「絆」を可視化するものなのです。
そして今、わたしはもう1つの「シキ」の存在に気づきました。「四季」です。
春の桜、夏の水芭蕉、秋の紅葉、冬の雪・・・・・・四季こそは目に見えない「時間」の流れを可視化したものではないでしょうか。そう、「色」とは「式」であり「四季」なのです。ゴールドさんの映像に登場しないものにも、多くの「日本の美」があります。以下、「日本の美」を味わわせてくれる動画をご紹介したいと思います。「January in Japan」の最後は新幹線の車窓から見える富士山で終わっていたので、まずは春の富士山から・・・・・・。





最後は、わたしの最も愛する街である金沢の名園・兼六園の雪景色が登場します。わたしは金沢の雪ほど美しいものはないと思います。金沢の雪は滞空時間が長く、まるで雪のかけらが空中でダンスを舞っているようです。ひらひら舞う姿は人生のはかなさを思わせます。どこにも行かなかった今年のGWでしたが、わたしの心は金沢に飛び、京都や尾瀬に飛び、そして富士山に飛びました。本当に、日本ほど美しい国はないと心から思います。



*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2014年5月6日 一条真也