「武士の献立」

一条真也です。
日本映画「武士の献立」を観ました。
江戸時代の加賀藩に仕えた武士を描いた時代劇です。
『料理無言抄』という当時のレシピ集を書き残した実在の包丁侍、舟木伝内と安信親子とその家族を描いたヒューマンドラマとなっています。


釣りバカ日誌」シリーズの朝原雄三監督の作品で、「武士の家計簿」の柏田道夫氏が脚本を担当しています。北陸を代表する地方紙である「北國新聞」の創刊120周年作品ということで、北國新聞社と松竹の共同製作です。
公式HPの「解説」には次のように書かれています。
「料理上手のお春が嫁いだ先は、由緒ある包丁サムライの家
ところが、跡取りの夫は料理がからっきし苦手・・・。
果たしてお春の行く末は? 舟木家はどうなる?」

   
映画「武士の献立」のパンフレット



以下、「解説」に沿って、映画の内容を紹介したいと思います。
まず、「出戻りの娘と出来そこないの包丁侍! 二人は本当の夫婦になれるのか?」として、次のように書かれています。
「優れた味覚と料理の腕を持つが、気の強さが仇となり1年で離縁された春(上戸彩)は、加賀藩の料理方である舟木伝内(西田敏行)にその才能を買われ、息子の嫁にと懇願されて2度めの結婚を決意。舟木家は代々、藩に仕える由緒ある包丁侍の家。しかし、夫となる跡取りの安信(高良健吾)は料理が大の苦手、しかも4つも年下!!春は、姑の満(余貴美子)の力も借りながら、必死に夫の料理指南をはじめるが・・・」


映画パンフレットより



次に、「“刀”ではなく“包丁”で、藩に仕えた武家。料理で動乱を乗り越えた実在の家族の物語」として、映画の内容について書かれています。
「江戸時代、将軍家や大名家には、主君とその家族の食事をまかなう武士の料理人たちがいた。限られた予算の中、食材選びから、毎食の献立を考え調理し、時には諸国大名をもてなす豪勢な饗応料理を仕切る。刀を包丁に持ち替えて主君に仕える武士たちを人々はと親しみを込めて“包丁侍”と呼んだ――。
本作『武士の献立』は、そんな包丁侍の家に嫁いだ料理上手の娘・春が、剣の腕は立つのに、包丁捌きはさっぱりの夫・安信とぶつかり合い、時にすれ違い、次第に心を通わせながら夫婦愛と家族の絆を深めてゆくユーモア溢れるヒューマンドラマ。時は江戸時代、歌舞伎でも有名なお家騒動、加賀騒動の真っ只中。藩を揺るがす権力争いの中でも、時流に惑わされることなく、自分の務めに誠実に向き合い、つつましくも堅実に生きた舟木家は、料理の腕前を極め家族で力をあわせることで、様々な難局を乗り越えていく」


映画パンフレットより



また、「武士が残した“献立集”から蘇る、当時の暮らし」とあります。
そして、以下のように書かれています。
加賀藩に実在した包丁侍・舟木伝内と息子の安信は、当時のレシピ集とも言える献立書『料理無言抄』を残した。健康を考えた栄養価は当然のことながら、素材を生かし、味覚を最大限に引き出す調理法まで、舟木父子が綴った献立書には現代にも通じる料理の心とその真髄が描かれている。
映画ではそんなレシピをもとに、江戸時代の武家や庶民が実際に食べていた料理を忠実に再現。珍しい食材から、今も変わらないお馴染みの食材まで、海の幸、山の幸満載の美味しい献立がスクリーンいっぱいにひろがる。中でも、藩の威信を賭け、男たちが厨房で作り出す饗応料理の数々は、神事である包丁式にはじまり、華麗な包丁使いも見ごたえたっぷり。後世に語り継がれる、伝統的な和食の魅力を堪能できるだろう」


さらに、「個性溢れる豪華キャストで贈る、家族ドラマの名作ここに誕生」として、以下のように映画のキャスティングなどが紹介されます。
「抜群の味覚と料理の腕を持つ、明るく元気な年上女房・春を演じるのは上戸彩。包丁よりも刀の腕を磨きたい年下夫の安信に、本作が初の時代劇本格出演となる高良健吾。安信の父で、加賀藩屈指の包丁侍・舟木伝内には西田敏行、若夫婦を温かく見守る母・満に余 貴美子。そして、夏川結衣成海璃子柄本佑緒形直人、ご当地石川県出身の鹿賀丈史ら、まさに“旬”から“完熟”の大ベテランまで、豪華俳優陣が勢ぞろい。個性溢れるキャストの競演を『釣りバカ日誌』シリーズの朝原雄三監督が、味わい深い感動作に仕上げている」
わたしが面白いと思ったのは鹿賀丈史の起用です。彼が扮する加賀藩の重臣・前田土佐守直躬が「良い料理であった」と舟木親子の健闘を讃える場面では、往年の名物料理番組「料理の鉄人」を連想しました。あの番組で司会を務めた鹿賀丈史が「勝者、舟木親子!」とコールしたような気がしました。


わたしは、この映画を観るのを非常に楽しみにしていました。
その理由は、主に2つあります。
1つめの理由は、この映画が加賀藩、つまり金沢を舞台としているからです。
ブログ「武士の家計簿」で紹介した2010年公開の映画と同じく、江戸時代の加賀藩に仕えた武士をユニークな切り口で描いています。
わたしは日本で最も美しい町こそ金沢であると思っていますが、この映画には金沢を中心とした北陸の自然、風俗、人々の生活が豊かに描かれています。
金沢城浅野川の情景も美しいですし、素晴らしい加賀友禅も出てきます。
この映画を観ると、すぐにも金沢に行きたくなりました。また、「武士の家計簿」には登場しなかった能登半島の海辺の村々の光景も非常に興味深く感じました。


映画「武士の献立」の立体看板



観るのが楽しみだったもう1つの理由は、この映画が料理の映画、それも日本料理をテーマにした映画だったからです。
和食のメッカといえば、なんといっても金沢! 
武士の献立」にも、「京都をも越える食文化」という表現が出てきますが、本当に金沢の料理は美味しい。そして、美しい。いつも、そう思います。
なぜ、金沢で日本一の食文化が発達したかというと、もちろん金沢特有の美意識の高さもありましたが、何よりも加賀百万石が徳川幕府に次ぐ大所帯であり、江戸の将軍はつねに前田家の動向を窺っていたことが大きいと言えます。
加賀藩では幕府の人々を「饗応料理」という最高の馳走でもてなします。
「饗応料理」が成功するかどうかは、加賀藩の存亡にも関わることもあって、料理を作る包丁侍の責任は重大でした。包丁侍・舟木伝内と息子の安信は、全身全霊をこめて料理を作るのでした。



舟木親子は、料理を作るにあたって、神棚の前で神官のような装束を身につけていました。父の伝内が見守る中で、若き安信は美しい包丁さばきを見せるのですが、それはまるで神道の「神祭」のようでした。じつは、この「神祭」にこそ、料理の最高の目的である「おもてなし」の原点があるとされています。
ブログ『本当はすごい神道』で紹介した本で、著者の山村明義氏は「神祭」と「おもてなし」の関係について次のように述べています。
「もともと日本人の『おもてなし』や『思いやり』の心は、言葉を交わさなくても相手の気持ちを『察する』という行為そのものにあり、日本人はその心に長けているのです。その秘訣は、日本の神道の『神祭』にあります。
『神祭』は、自然の厳かな雰囲気など目に見えない貴いとされる神々、あるいは太古の昔から人々に畏れられた自然の脅威や、その自然からの恵みを大切に敬う精神性に基づいています。そもそもは、その人がもっとも大切だと思うものに何かを差し上げることが『まつり』の意味のひとつなのです。
その場合には、神聖な場所において魂と心を込めて作った食べ物や、『幣帛』という絹布などを神様に差し上げるための『神祭』が執り行われます。
これが日本人の『おもてなし』の原型にあるのです」


和食の最高峰としての「饗応料理」



公式HPの「饗応料理とは」には、次のように書かれています。
「酒や食事などを出してもてなすこと。武家の饗応料理は本膳料理と呼ばれ、室町時代に確立された武家の礼法により、江戸時代に発展した。冠婚葬祭などの儀式的な意味合いが強く、器の並べ方(膳組)から食べる順序、服装、作法などが細かく決められている。本膳を膝前に、二の膳を右側、三の膳を左側に置く。汁ものと料理の数により一汁三菜や二汁七菜などあるが、二汁五菜を配膳するのが一般的。前田家は徳川家と姻戚関係にあったため、京風の食文化の中に、江戸の礼式や慣習も取り入れている。この頃はまだ漁の技術が発達していなかったため、鮒や鯉など川魚を刺身に使うこともあった。吸い物に魚のひれを使うのは、毒がなく鮮度の良いものを使っていることを示す。また、雉や鴨など野鳥もよく用いており、中でも鶴は珍重された」



最後の「中でも鶴は珍重された」という部分で思い出したことがあります。
サンレーグループ佐久間進会長は、鎌倉時代から江戸時代までの礼法の秘伝書や巻物をコレクションしています。そのほとんどは恩師である國學院大学の名誉教授であった樋口清之先生から譲っていただいたものですが、その中に鶴の料理方法をカラー図解で示した巻物がありました。


「BRUTUS」1990年9月15日号(実際の記事はカラー)



以前、作家の荒俣宏氏が小倉まで取材に来られたことがあります。
荒俣氏は「BRUTUS」誌に連載されていた「ビジネス裏極意」に巻物の数々を「極意書ここにあり!」のタイトルで紹介して下さいました。その内容は、荒俣氏の著書『商神の教え』(集英社文庫)で読むことができますが、取材当時、氏が特に鶴の料理秘伝の巻物に関心を持たれていたことを記憶しています。


北國新聞」12月6日朝刊



さて、この映画が「北國新聞」創刊120周年作品であることはすでに紹介しましたが、その「北國新聞」の12月6日朝刊にマリエールオークパイン金沢からの祝福メッセージ広告が掲載されました。4日に和食がユネスコ世界遺産無形文化遺産)に登録されたことに対するお祝いメッセージです。おかげさまで、マリエールオークパイン金沢の婚礼料理、宴会料理は大変好評をいただいておりますが、この広告には重田均料理長の写真が掲載されています。
わたしは、サンレーの企画部、冠婚企画部のスタッフと一緒に「武士の献立」を観ました。この映画から金沢や和食の素晴らしさを再確認し、今後の企画業務にも良い形で反映されることと思います。


主演の春を演じた上戸彩(映画パンフレットより)



最後に、主演の春を演じた上戸彩が本当に可愛かったです。
今やEXILEリーダー夫人となった彼女ですが、和服姿がよく似合いました。
また、陰ながら夫を支え続ける健気さにも胸を打たれました。
わたしも、「ああ、自分はいつも妻に支えられているのだ」と思えてきて、しみじみと妻への感謝の念が湧いてきました。映画館でわたしの近くの席に座っていたオッサンたちも、きっと同じように感じたのではないでしょうか。


ラストシーンは、ちょっと日本の時代劇らしくないというか、欧米の恋愛映画みたいでしたが、国境や民族を越えた夫婦愛にはやはり感動します。
夫婦愛の深さを描いた時代劇として、「武士の一分」を思い出しましたね。
また、父と息子、母と息子、舅と嫁、姑と嫁の温かい心の交流も描かれており、家族映画としても良く出来ている作品です。
ただし、Charaが歌うエンディングの主題歌「恋文」は、作品のイメージにまったく合っていませんでしたね。そこが非常に残念でした。


*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2013年12月22日 一条真也