『江戸川乱歩異人館』

江戸川乱歩異人館 1 (ヤングジャンプコミックス BJ) 江戸川乱歩異人館 2 (ヤングジャンプコミックス BJ) 江戸川乱歩異人館 3 (ヤングジャンプコミックス) 江戸川乱歩異人館 4 (ヤングジャンプコミックス) 江戸川乱歩異人館 5 (ヤングジャンプコミックス) 江戸川乱歩異人館 6 (ヤングジャンプコミックス) 江戸川乱歩異人館 7 (ヤングジャンプコミックス) 江戸川乱歩異人館 8 (ヤングジャンプコミックス)


一条真也です。
江戸川乱歩異人館』1〜7巻、山口譲司著(集英社)を読みました。
チャチャタウン小倉内にあるTSUTAYAのコミック・コーナーに平積みされていたのをまとめ買いしました。ブログ『ビブリア古書堂の事件手帖4』などにも書いたように、わたしは乱歩作品の大ファンなのです。乱歩自身の著書はほとんど読みましたし、コミック化や映画化された作品にも極力目を通してきました。
でも、この『江戸川乱歩異人館』のことは知りませんでした。



コミックにはビニールが被せられていますので、中身を試し読みすることはできませんでしたが、第1巻と第2巻の表紙が「ドクロ」をモチーフにした騙し絵となっており、これだけで中身のクオリティが保証された気がしました。
そうです、つまりは表紙買いしたのです。
著者は、博多出身の漫画家です。「山口まさかず」名義でも知られ、主にエロコメ作品を得意とするそうですが、『ミステリー民俗学者 八雲樹』なども手掛けています。この作品はけっこう好きでした。及川光博主演でTVドラマ化もされ、そのDVD−BOXも持っています。



この『江戸川乱歩異人館』ですが、乱歩の作品に「○○男」というタイトルをつけ、常軌を逸した「異人」として描いています。それも蜘蛛男とか黒蜥蜴といったわかりやすい異人だけでなく、探偵である明智小五郎、さらには江戸川乱歩自身も「異人」として描いているところがユニークだと言えるでしょう。
各巻に収録された異人たちの物語は、以下の通りです。「○○男」というタイトルの後には、「〜」として原作の題名が紹介されています。さらに「/」の後に書かれている簡単な内容紹介は、各巻の裏表紙に掲載されているものです。



(第1巻)
●穴男〜屋根裏の散歩者〜
 /屋根裏に自らの居場所を見出した男の末路は・・・
●座男〜人間椅子
 /あなたに触れたい・・・願望はやがて形になる・・・
明智小五郎×絞男〜D坂の殺人事件〜
 /素人探偵が魅せる、戦慄の推理ショー
明智小五郎×壁男〜魔術師〜
 /美しさすら漂う、前代未聞の殺戮劇が始まる・・・
(第2巻)
明智小五郎×壁男〜魔術師〜
 /芸術的なまでに組み立てられた復讐劇。その結末は・・・
●躁男〜白昼夢〜
 /君はぁ 僕のものだぁ・・・妻への歪んだ愛の形
●箱女〜お勢登場〜
 /不倫妻に芽生えた殺意。悪女、世にはばかる・・・
●額男〜押絵と旅する男
 /老紳士が大事に抱える押絵。そこに隠された驚愕の事実とは・・・!?
(第3巻)
●裏・額男〜押絵と旅する男
 /乱歩の下に残された押絵。そこに秘められた真実に迫る・・・
明智小五郎×蜘蛛男〜蜘蛛男〜
 /殺人は我が芸術。狂喜する男に、名探偵・明智小五郎が挑む・・・
●蝕男〜蟲〜
 /愛するあなた。僕を笑ったあなた。今宵、あなたを捕まえにゆきます・・・
●鏡男〜目羅博士の不思議な犯罪〜
 /暗闇に浮かぶ黄色い顔・・・。ああ、博士の恐るべき実験が今夜も始まる・・・
(第4巻)
●秘男〜妻に失恋した男〜
 /おい、笑ってくれ。俺は女房に惚れているのだ。
  惚れて惚れて惚れぬいているのだ・・・
●抱男〜人でなしの恋〜
 /私を眺める、夫の愛撫のまなざしの奥に冷たい空虚を感じたのです。
  ああ・・・あなたは罪な男・・・
●狡男〜灰神楽〜
 /おいっ、俺を疑うのか? 俺が犯人だってのか? 
  お前、何者なんだよ!!・・・少年探偵です・・・
明智小五郎×渇男〜地獄の道化師〜
 /標的は若く美しいあなたです・・・。振り返れば、そこにいる。
  踊り狂う不気味な笑顔の道化師が…
(第5巻)
明智小五郎×渇男〜地獄の道化師〜
 /笑う道化師、しかしその目はドンヨリと暗い。
  まとわりつくような執着心で美しいあなたを追う・・・。
●映男〜鏡地獄〜
 /ガラスやレンズ。物が映るものがたまらないという不思議な趣味。
  行き過ぎた嗜好の先に待つ悲劇とは・・・
●珠男〜算盤が恋を語る話〜
 /パチ、パチパチ・・・。算盤を通じて交される愛のささやき。
  我が想い 愛しき貴女へ届きますよう
●虚男〜二癈人〜
 /向かい合う二人・・・心に傷を負った者。そして体に傷を負いし者。
  のどかな午後に語られる、世にも恐ろしき懐旧談・・・
(第6巻)
●面男〜百面相役者〜
 /巧みに化けることこそ名優の証。
  変装の術を突き詰めた役者が行き着いた、身も凍るような手段とは・・・!?
●偽男〜双生児〜
 /同じ顔を持つ兄を手にかけた、双生児の弟。
  蛮行に及んだ弟自らが語る、戦慄の告白・・・
明智小五郎×ホラ女〜黒蜥蜴〜
 /犯罪は遊び。罪は快楽。
  豊満な肉体に黒衣をまとい、全身を宝石装身具で飾る女。
  ああ彼女こそ、女賊・黒蜥蜴・・・
(第7巻)
明智小五郎×ホラ女〜黒蜥蜴〜
 /よく出来た生人形でしょ? もっと近寄って御覧なさい。
  匂いが、するでしょう? ええ、人間の匂いが・・・。
  美しいもの、欲しいものは全て我が手に・・・。
  女賊・黒蜥蜴の犯罪美学、極まる──!!
●蠢男〜指〜
 /闇夜の道路。そこで何者かに襲われ、
  鋭い刃物で右手を斬り落とされた男性ピアニスト。
  タン、タン、タン タン、タタン、タン。
  男は病室のベッドの上で、旋律を奏でる。失くしたはずの手で・・・。



もともとエロコメを得意とする著者だけあって、このシリーズで描かれる女性たちのエロティックなこと。それと、度外れた異人たちによる殺人描写のグロテスクなこと。そう、この『江戸川乱歩異人館』はこれ以上ないほど「エロ」と「グロ」の饗宴になっています。そして、「エロ」「グロ」は乱歩ワールドの本質でもあります。たしかに乱歩の作品には幻想性の高いものもありますが、その基本は猟奇性の強い怪奇小説であり、さらに言えば「変態小説」であると言えるでしょう。そんな乱歩作品のダークサイドを、著者は見事に表現してくれました。

パノラマ島綺譚 (BEAM COMIX) 芋虫 (BEAM COMIX) 黒蜥蜴―名探偵登場! (眠れぬ夜の奇妙な話コミックス)


これまでも、丸尾末広氏やJET氏などが乱歩作品をコミック化しています。
それぞれに乱歩の魅力を引き出す力作なのですが、山口譲司氏はまた違った乱歩の魅力を読者に与えてくれました。
文学作品をコミック化するのは珍しくもなんともなく、今では古典の漫画化シリーズを刊行している出版社もあります。それらの中にはよく健闘しているものもありますが、文学作品を漫画にすると原作とイメージにズレが生じ、原作の愛読者が嫌な気分にさせられることが多いのも事実です。
しかし、『江戸川乱歩異人館』では、著者の異様なまでの画力で、原作の持つ「エロ」と「グロ」をさらにパワーアップして表現していることは驚嘆すべきでしょう。そう、オリジナルの乱歩ワールドよりも、エロくて、グロいのです!



乱歩の持つ怪奇性、幻想性、耽美性、猟奇性、そして猥雑性を少しも損なっていないだけではなく、著者独自の解釈やアイデアも大胆に盛り込まれています。たとえば、第1巻にある「人間椅子」の原作とは違う驚くべき結末は、多くの乱歩ファンに「あっ!!」と言わせたのではないでしょうか。
その、ある意味での裏切りが、わたしにとっては非常に爽快でした。
ブログ「『少年探偵』シリーズ」で紹介したような子ども向けの乱歩ワールドもいいけれど、この『江戸川乱歩異人館』は大人の乱歩ワールドが楽しめます。 第8巻の刊行が今から待ち遠しいですね。



*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2013年8月26日 一条真也