儀式文化創造シンポジウム

一条真也です。東京にいますが、今日は「長崎原爆の日」ですね。
わたしは朝起きてから、サンレー本社朝礼での黙祷時間に合わせて心からの祈りを捧げました。詳しくは、ブログ「長崎に祈りを」をお読み下さい。


シンポジウムのようす



さて、ブログ「全互協40周年記念式典」に書いたように、昨日、一般社団法人 全日本冠婚葬祭互助協会の40周年記念行事が行われました。
その記念イベントとして、画期的なパネルディスカッションが開催されました。題して、「新しい儀式文化の創造に向けて」です。


会場が満員になりました



これは、「儀式文化の創造」をテーマとする画期的な座談会です。
この6月3日より、全互協は一般社団法人となり、その新定款には「冠婚葬祭儀式文化の保存・継承等に関する事項」を加えて事業に取り組んでいくこととなりました。このシンポジウムでは、人生儀礼通過儀礼)の成立の過程などに触れながら、全互協と加盟互助会が人生儀礼にどう取り組むべきかを探りました。
会場は、東京・大塚の「ホテルベルクラシック東京」です。
200名以上収容できる広い会場が満員になりました。



パネリストは、以下のメンバーでした。
●石井研士氏(國學院大學神道文化学部長)
●波平恵美子氏(お茶の水女子大学名誉教授)
●碑文谷創氏(「SOGI」編集長)
●藤島安之氏(互助会保証社長)
一条真也(作家・北陸大学客員教授
(司会)大西孝英氏(全互協広報・渉外委員長)
しかし、当日になって、出演予定だった雑誌「SOGI」の発行人兼編集長である碑文谷創氏が体調を崩され、欠席されることになりました。まことに残念です。


発言する石井先生



ちなみに、石井先生は日本を代表する宗教学者のお1人です。
ブログ『都市の年中行事』ブログ『日本人の一年と一生』ブログ『結婚式 幸せを創造する儀式』で紹介した本の著者です。
また、ブログ『バラエティ化する宗教』で紹介した本の編者でもあります。


発言する波平先生



波平先生は、日本を代表する文化人類学者のお1人です。
日本文化人類学会の元会長で、なんと北九州市のご出身です。
ブログ『日本人の死のかたち』で紹介した本の著者です。
また、ブログ『暮らしの中の民俗学1 一日』ブログ『暮らしの中の民俗学2 一年』ブログ『暮らしの中の民俗学3 一生』で紹介した本の編者でもあります。


発言する藤島社長



藤島社長は、互助会保証株式会社の社長さんです。
経済産業省の官僚、パナマ大使、総合商社・双日の副社長といった輝かしい経歴の持ち主で、ブログ『無縁社会を生きる』で紹介した本の著者です。


今回も出演させていただきました


日本人の一年と一生―変わりゆく日本人の心性 日本人の死のかたち  伝統儀礼から靖国まで (朝日選書) 無縁社会を生きる 礼を求めて


わたしが全互協主催のイベントに出演するのはブログ「孤独死講演会」、ブログ「無縁社会シンポジウム」で紹介したイベントに続いて早くも3回目になります。浅学のわたしでも業界のお役に立てるのは嬉しい限りですが、今回は特に全互協の創立40周年記念シンポジウムへの出演ということで誠に光栄でした。


出演者は上方の階段から登場しました



総合司会は、事業継承委員会の吉田副委員長です。
最初に全互協の北村副会長から挨拶およびシンポジウムの開催趣旨についての説明がありました。続いて、石井先生、波平先生、藤島社長、一条の順で上方の階段から降りて登場し、司会者よりプロフィールを紹介されました。
その後、総合司会の吉田副委員長からシンポジウムのコーディネーターである大西委員長にマイクが渡されました。


コーディネーターの大西委員長



このシンポジウムには、テーマが3つありました。
1つめは、「人生儀礼とは何か」ということ。2つめは、「人生儀礼を現代において再生するにはどのような方法があるのだろうか」ということ、そして3つめは、「互助会が今後できること、そして担うべきこと」です。
以上のテーマが大西委員長より冒頭に紹介されました。


自己紹介とプレゼンを行いました



その後、各パネリストの自己紹介と簡単なプレゼンテーションが行われました。
わたしは、最初に以下のようにお話ししました。
「わたしは、大学で孔子の思想などを教えていますが、特に『礼』について重点的に説明します。『礼』は儀式すなわち冠婚葬祭の中核をなす思想ですが、平たく言うと『人間尊重』であると思います。この『人間尊重』は、わが社のミッションでもあります。『礼』を形にしたものが『儀式』です。孔子は『社会の中で人間がどう幸せに生きるか』ということを追求した方ですが、その答えとして儀式の重視がありました。人間は儀式を行うことによって不安定な『こころ』を安定させ、幸せになれるのです。儀式とは、幸福になるためのテクノロジーなのです」


「儀式の果たす役割」について述べました



続いて、「儀式の果たす役割」について次のように話しました。
「儀式の果たす主な役割は、まず『時間を生み出すこと』にあります。
このシンポジウムに出演するにあたり、いろいろな本を読んだのですが、石井研士先生の『日本人の一年と一生』という本が勉強になりました。また、波平恵美子先生が監修された『暮らしの中の民俗学』は全3巻で、テーマが『一日』『一年』『一生』に分かれていました。いずれも時間というものに関係があります。
日本における儀式あるいは儀礼は、『年中行事』と『人生儀礼』の2種類に大別できますが、これらの儀式は『時間を生み出す』役割を持っていました」


儀式とは人生を肯定すること



また、「時間を楽しむという発想」について話しました。
「わたしは、『時間を生み出す』という儀式の役割は『時間を楽しむ』に通じるのではないかと思います。『時間を愛でる』と言ってもいいでしょう。
日本には『四季』があり、『春夏秋冬』があります。
わたしは、儀式というものも季節のようなものだと思います。『ステーション』という英語の語源は『シーズン』から来ているそうです。人生とは1本の鉄道線路のようなもので、山あり谷あり、そしてその間にはいくつもの駅がある。季節というのは流れる時間に人間がピリオドを打ったものであり、鉄道の線路を時間に例えれば、まさに駅はさまざまな季節ということになります。
そして、儀礼を意味する『セレモニー』も『シーズン』に通じるのではないでしょうか。七五三や成人式、長寿祝いといった人生儀礼とは人生の季節、人生の駅なのです。わたしたちは、季語のある俳句という文化のように、儀式によって人生という時間を愛でているのかもしれません。それはそのまま、人生を肯定することにつながります。そう、儀式とは人生を肯定することなのです」


「新しい儀式の創造」について話しました



第二部では、「新しい儀式の創造」について話しました。
まず最初に、儀式の創造には以下の3つのポイントがあると述べました。
1.よく知られた儀式のイノベーション(七五三、成人式、長寿祝いなど)
2.あまり知られていない儀式の紹介(十三祝い、清明祝い、元服式など)
3.まったく新しい儀式の創出(1万日祝い、3万日祝いなど)



そしてこの中では、1の「よく知られた儀式のイノベーション」が一番可能性を持っていると思います。七五三・成人式・長寿祝いに共通することは、基本的に「無事に生きられたことを神に感謝する儀式である」ということ。いずれも、神社や神殿での神事が欠かせません。最近、神事を伴わない衣装・写真・飲食のみの「七五三プラン」や、同級生との飲み会に過ぎない「成人式プラン」などがあるようですが、こんなものは儀式でも何でもない。単なるイベントです。



わたしは、「おめでとう」という言葉は心のサーブで、「ありがとう」という言葉は心のレシーブであると思っています。現在の成人式では「おめでとう」(サーブ)と言われるばかりですね。しかし今後は、これまでの成長を見守ってきたくれた神仏・先祖・両親・そして地域の方々へ「ありがとうございます」という感謝を伝える(レシーブ)場を提供していくことが必要だと考えます。
ぜひ、サーブとレシーブ、「おめでとう」と「ありがとう」が活発に行き交うような社会づくりのお手伝いをしたいです。
まずは、「命を与えられ、これまで生かしていただいたことに感謝する」こと。儀式文化のイノベーションは、「感謝」の心を呼び起こすことでもあるのです。


沖縄の生年祝いを紹介しました



それから具体的な儀式イノベーションの例としては、わが社が事業展開している沖縄における「長寿祝い」を以下のように紹介しました。
[沖縄の生年祝い(トゥシビー)]
◇生まれた干支の年に、無病息災を願って祝う。
◇主なものに「十三祝い(13歳)」「還暦祝い(61歳)」「七十三祝い(73歳)」「八十五祝い(85歳)」「トーカチ/米寿祝い(88歳)」「カジマヤー祝い(97歳)」がある。
◇97歳のトゥシビーを「カジマヤー」とよび、地域あげて盛大に祝う。
当人に風車を持たせてパレードをすることも。
カジマヤーの意味は、童心にかえって「カジマヤー」(風車)で遊ぶ儀式から命名されたとする説と、死装束をまとって模擬葬式をおこない「カジマヤー」(七つの辻)をまわる儀式からつけられたとする説がある。
◇これらのトゥシビーとは別に「トーカチ」とよばれる88歳(米寿)の祝いもある。
米を山盛りにして、斗かき(トーカチ)に見立てた竹筒を立て、酒を振る舞う。



わが社の結婚式場「マリエールオークパイン那覇」では、年間に大小合わせて約200件近くのトゥシビーを施行しています。規模が大きいもので200名を超えます。まあ、100名程度がスタンダードでしょうか。準備から施行までの期間が約3か月程度、50名程度と規模が小さければ1ヵ月程度のものもあります。ありがたいことに、披露宴に次ぐ大きな収益の柱となっています。
何よりも長生きをされた高齢者をみんなで祝うことは「人は老いるほど豊かになる」というメッセージを発信することであり、人生を肯定することです。わたしは、この沖縄の生年祝いを日本中に広めたいと心から思っています。
この話、会場のみなさんの興味を強く引いたようです。
必死でメモを取られている姿が壇上からよく見えました。


互助会保証の藤島社長と



第三部「互助会ができること、担うべきこと」では、次のように述べました。
「いま、冠婚葬祭互助会の社会的役割と使命が問われています。
解約手数料の問題をはじめ、互助会というビジネスモデルが大きな過渡期にさしかかっていることは事実でしょう。
その上で、わたしは、互助会の役割とは『良い人間関係づくりのお手伝いをすること』、そして使命とは『冠婚葬祭サービスの提供によって、たくさんの見えない縁を可視化すること』に尽きると思います。
そして、『縁っていいなあ。家族っていいなあ』と思っていただくには、わたしたち冠婚葬祭業者が本当に参列者に感動を与えられる素晴らしい結婚式やお葬儀を、1件1件お世話させていただくことが大切だと思います。
互助会が新しい社会的価値を創造する儀式イノベーションに取り組めば、無縁社会を克服することができるのではないでしょうか。「豊かな人間関係」こそ冠婚葬祭事業のインフラであり、冠婚葬祭互助会は『有縁社会』を再構築する力を持っています。これからの時代、冠婚葬祭互助会の持つ社会的使命はますます大きくなるでしょう。わたしは、心の底からそのように思います」


互助会の使命を訴えました



最後に、「冠婚葬祭互助会の使命」について以下のように話しました。
「結婚式や葬儀をはじめとした人生儀礼を総合的に執り行う冠婚葬祭互助会の最大の使命とは何か。それは、日本の儀礼文化を保存・継承し、『日本的よりどころ』を守る、すなわち日本人の精神そのものを守ることだと確信します。
その意味で、冠婚葬祭互助会の全国団体である一般社団法人・全日本冠婚葬祭互助協会とは、茶の湯・生け花・能・歌舞伎・相撲などの日本の伝統文化を継承する諸団体と同じ役割、いや、儀式というさらに『文化の核』ともいえる重要なものを継承するという点において、それ以上の役割を担っていると思います。
今日はめでたく40周年を迎え、全互協は『論語』でいう『不惑』を迎えました。
これからは惑うことなく、日本人の『こころ』を守り、日本人を幸せにするために邁進することを願っています」


謝辞を述べられる柴山前会長



最後に全互協の柴山文夫前会長から謝辞があり、シンポジウムは盛会のうちに幕を閉じました。わたしたちパネリストたちは盛大な拍手を受けながら、1人づつ退場しました。わたし自身、学ぶところの多い非常に有意義な時間を過ごすことができました。正直言って、まったく時間が足らず、用意していた発言の10分の1ぐらいしか言えませんでした。完全に消化不良です。
再度このような機会があれば、ぜひ参加したいです。
出演された先生方、また関係者のみなさまに心より御礼を申し上げます。



*よろしければ、本名ブログ「佐久間庸和の天下布礼日記」もどうぞ。



2013年8月9日 一条真也