全互連移動理事会in埼玉

一条真也です。
15日の朝、北九州空港からスターフライヤー羽田空港へ。そこからモノレールで浜松町に行き、さらに赤坂見附の定宿にチェックイン。それから東京駅に向かって、JR東京上野ラインで、さいたま新都心駅まで行きました。この駅は初めて訪れましたが、想像していたよりもはるかに立派なので驚きました。クアラルンプールに住むGACKTが出演した映画「翔んで埼玉」のイメージでやって来たのですが、現実は大違いでした。

f:id:shins2m:20191015152225j:plainさいたま新都心駅 にて

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ステラ・デル・アンジェロの玄関

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まるで美術館のような結婚式場でした

f:id:shins2m:20191015153725j:plain「コティングリー妖精事件」を描いた絵

f:id:shins2m:20191015155059j:plainハリー・ポッター」みたいな動く絵本

 

さいたま新都心駅には(株)セレモニーの迎えの車が来ており、それに乗って同社の結婚式場であるステラ・デル・アンジェロまで行きました。今日はここで全互連の移動理事会が行われるのです。同社の志賀社長は美術品のコレクターとしても知られていますが、ステラ・デル・アンジェロには、まるで美術館のように高名なアーティストの絵画が所狭しと飾られていました。シャーロック・ホームズの生みの親であるコナン・ドイルが関わったことで有名な「コティングリー妖精事件」を描いた絵や、「ハリー・ポッター」を彷彿とさせる動く絵本などもあって刺激的でした。

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16時から理事会が開催されました

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台風19号の犠牲者の御冥福を祈りました

 

16時から理事会が開催されましたが、冒頭の杉山会長の挨拶に続いて、わたしが前会長として挨拶をしました。わたしは、「このたびの台風19号で被災された方々に心よりお見舞いを申し上げますとともに、犠牲となられた方々の御冥福を心よりお祈りいたします」と述べました。理事会は約2時間後の18時直前に終了しました。

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挨拶する志賀ブロック長(セレモニー社長)

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わたしが乾杯の挨拶をしました

18時からは懇親会が行われました。わたしは前会長として、杉山会長と志賀ブロック長の挨拶の後で、乾杯の音頭を取りました。わたしは、最近話題のラグビーに触れ、「日本代表チームは、ブログ「大御神社」で紹介した神社に参拝しましたが、ここで『さざれ石』などを見て、日本の心、大和魂を学んだそうです。それから破竹の快進撃を続けているわけですが、ブログ「日向西紫雲閣竣工式」で紹介したセレモニーで神事を執り行って下さった同神社の新名光明宮司から詳しい様子をお聞きしました。日本が決勝トーナメントでも大活躍することを願っています」と述べました。

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笑顔で挨拶しました

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カンパ~イ!

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グビリ!

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懇親会のようす

 

また、わたしは、「ラグビーという競技は、『ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン』という思想に支えられています。「1人は万人のために、万人は1人のために」と訳されることが多いです。由来は古代ゲルマン人の言い伝えなど諸説ありますが、この言葉は、『相互扶助』の思想として社会にも影響を与えました。『相互扶助』という考え方は、多くの人々が少額を出し合って万一に備える保険業や、冠婚葬祭互助会業の根本理念にもなっています。そもそも互助会の『互助』とは『相互扶助』を縮めたものなのです。これからは互助会の時代です!」と述べてから、乾杯の音頭を取りました。

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松茸の土瓶蒸し

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お造り

f:id:shins2m:20191015191629j:plainステーキ&フォアグラ

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握り寿司

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中締めの挨拶をする大石副会長

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懇親会の最後は、三本締めで!

 

懇親会は大いに盛り上がりました。松茸の土瓶蒸し、お造り、ステーキ&フォアグラ、握り寿司など、何を食べても美味しかったです。さすがはグルメで知られる志賀社長の経営される結婚式場だと思いました。懇親会の中締めは大石副会長が務められ、三本締めを行いました。その後、ステラ・デル・アンジェロの地下1階で二次会が開かれ、カラオケ大会もありましたが、わたしは大トリで尾崎紀世彦の「また逢う日まで」を歌いました♪ 

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二次会でカンパイ!

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二次会の料理

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二次会にて


その後、わたしは車で駅まで送っていただきました。
本当は、魅力的な埼玉で一泊したかったのですが、翌16日の朝、西新橋の全互協で開催される正副会長会議に参加しなければならないからです。短い時間ではありましたが、全互連の仲間たちと大いに心を通わせることができました。
志賀さん、いろいろ、ありがとうございました!

 

2019年10月16日 一条真也

「最高の人生の見つけ方」

一条真也です。
日本映画「最高の人生の見つけ方」を観ました。
この映画を観た読者の方から、「一条さんの言われる『修活』の物語です。『死ぬまでにやっておきたい50のこと』の内容とストレートに通じています」と薦められたのです。これは観ないわけにはいきません。感想ですが、なかなかこの映画のように理想的な修活は難しく、「おとぎ話」のようでした。でも、それでも構わないと思いました。なぜなら、主演の吉永小百合は永遠の「お姫様」だからです。ストーリーには現実離れしたところもありましたが、感動の連続でした。わたしは5回泣きました。



ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
ジャック・ニコルソンモーガン・フリーマンが共演した映画『最高の人生の見つけ方』を原案にした人間ドラマ。余命宣告を受けた2人の女性が、「死ぬまでにやりたいことリスト」を実行しようとする。『千年の恋 ひかる源氏物語』で共演した吉永小百合天海祐希が2人の女性を演じ、満島ひかり前川清らが共演。『のぼうの城』などの犬童一心が監督を務めた」

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ヤフー映画の「あらすじ」は以下の通りです。
「家庭を第一に考えてきた主婦の幸枝(吉永小百合)は、入院した病院で仕事一筋の社長・マ子(天海祐希)と出会う。余命宣告を受け人生にむなしさを覚えた2人は、入院していた少女の「死ぬまでにやりたいことリスト」を偶然手に入れる。その全項目を実行することにした2人は、これまで感じたことのなかった楽しさや幸せを見いだす」



吉永小百合の主演作を観たのはブログ「母と暮せば」で紹介した映画以来です。同作品は山田洋次監督が、原爆で亡くなった家族が亡霊となって舞い戻る姿を描いた人間ドラマです。原爆で壊滅的な被害を受けた長崎を舞台に、この世とあの世の人間が織り成す不思議な物語を映し出しましたが、母親を吉永小百合が演じ、息子を「嵐」二宮和也が好演しました。いわゆる「ジェントル・ゴースト・ストーリー」の名作でした。



吉永小百合といえば、最近、カラオケで坂本九の「上を向いて歩こう」と「見上げてごらん夜の星を」を歌ったのですが、DAMの画像に同タイトルの映画の場面が流れました。その両方にマドンナ役として若き日の吉永小百合が出ていて、その可愛さは半端ではありません。わたしの行きつけのカラオケスナックのマスターは「吉永小百合宮沢りえ広瀬すずの3人は顔が似ていますよ」などと言っていました。そんなこともないと思うのですが、とにかく若い頃の吉永小百合超弩級に可愛かったのは間違いありません。そして、74歳となった現在でも吉永小百合は可愛くて上品ですね。



原案となったハリウッド版の「最高の人生の見つけ方」(2008年)は、仕事に人生をささげた大富豪エドワード(ジャック・ニコルソン)と、家族のために地道に働いてきたカーター(モーガン・フリーマン)という共に余命6カ月の2人が、人生の最後に病院の一室で出会い、1枚のリスト――棺おけに入る前にやっておきたいことを書き出した “バケット(棺おけ)・リスト”をもとに生涯最後の冒険旅行に出る物語です。「荘厳な景色を見る」「赤の他人に親切にする」「涙が出るほど笑う」とカーターは書けば、「スカイダイビングをする」「ライオン狩りに行く」「世界一の美女にキスをする」とエドワードが付け加え、2人の旅は始まります。人生でやり残したことを叶えるために、棺おけに後悔を持ち込まないために、そして最高の人生だったと心の底から微笑むために、彼らは旅に出るのでした。



ハリウッド版の「最高の人生の見つけ方」では、ジャック・ニコルソンモーガン・フリーマンはスカイダイビングをしますが、今回の日本版でも、吉永小百合天海祐希の2人がスカイダイビングに挑みます。幸恵は70歳という設定ですが、実際の吉永小百合は74歳。もし本当にスカイダイビングしたのなら凄いですね。彼女は毎日、水泳で身体を鍛えているそうですが、年齢をまったく感じさせない女性ですね。

f:id:shins2m:20191014165447j:plainデヴィ・スカルノ夫人と

 

でも、もっと凄い方に最近お会いしました。ブログ「デヴィ夫人にお会いしました」で紹介したデヴィ・スカルノ夫人は、わたしと会った翌日にドバイに飛び、出川哲郎さんとともに世界最大のウォータースライダーや高層ビルからのバンジー・ジャンプに挑戦されたそうです。デヴィ夫人は79歳だそうですが、もう言葉が出ないくらい驚きました。そのバイタリティに心から敬意を表します。



幸恵とマ子の2人は12歳で短い生涯を終えた少女の代わりに、彼女の希望であった「ももクロ」のライブへ行きます。ライブのステージに立った吉永小百合天海祐希は、若いももクロよりもずっと華があって、芸能人としての格の違いを見せつけてくれてくれます。他にも、2人は少女の生前の夢を叶えるために、エジプトに行ってピラミッドを見たり、京都で日本一大きなパフェを食べたりします。いろんなことを体験して笑い合う2人の姿は本当に微笑ましく、きっとこの映画の撮影が終わった後も、2人の女優の仲は続くのではないかと思いました。

 

幸恵が少女から受け継いだ「死ぬまでにやりたいこと」ノートには、「ウェディングドレスを着てみたい」というものがありました。幸恵も自分の結婚式では和装しか着なかったため、思い切ってウェディングドレスを着ます。それがまたお世辞抜きで美しく、わたしは「おいおい、吉永小百合、マジですげえな!」と思いました。その後、ドレス姿の幸恵は長崎の教会で夫(前川清)から「生まれ変わっても結婚してほしい」と告白されます。その教会はブログ「メモリード創立50周年記念祝賀会」で紹介した長崎の互助会・メモリードさんが経営するガーデンテラス長崎ホテル&リゾートのチャペルでした。ブログ「マスカレード・ホテル」で紹介した映画では、主演のキムタクと日向井文世が密談するチャペルのシーンが東京の互助会・日冠さんが経営する結婚式場アンフェリシオンで撮影されていました。映画を観ていて、仲間の互助会の施設がスクリーンに映ると嬉しいものですね。

 

幸恵の夫役の前川清はとぼけた感じで、彼がスクリーンに映るたびに笑いが起きていました。長崎のホテルでのパーティーでは、彼は「てんとう虫のサンバ」をわざと下手くそに歌っていましたが、場所が長崎なだけに本当は「長崎は今日も雨だった」を歌ってほしかったですね。そのパーティープレスリーに扮して「ラヴ・ミー・テンダー」の日本語訳を歌っていたのは、マ子の秘書役のムロツヨシでしたが、この映画の全編にわたってじつに良い味を出していました。ブログ「ダンスウイズミー」で紹介した日本映画でも、彼はショボい探偵役を演じていましたが、これもいい感じでした。今や、ムロツヨシは日本映画界の名バイ・プレイヤーになりましたね。

死ぬまでにやっておきたい50のこと

 

さて、読者の方から教えていただいたように、この映画の内容は拙著『死ぬまでにやっておきたい50のこと』(イースト・プレス)に通じています。同書では、死ぬまでにやっておきたいことを50個考えることを提案しています。死の直前、人は必ず「なぜ、あれをやっておかなかったのか」と後悔します。さまざまな方々の葬儀のお世話をさせていただくたびに耳にする故人や遺族の後悔の念・・・。そのエピソードを共有していけば、すべての人々の人生が、いまよりもっと充実したものになるのではないかと考えました。


人生の修め方』(日本経済新聞出版社

 

わたしが経営する冠婚葬祭会社は、これまで多くの方々の葬儀のお世話をさせていただいてきました。そして、わたしは修活(終活)や死生観に関する本を何十冊も執筆してきました。いろいろな方の最期に立ち会い、「生」と「死」に関する古今東西の文献をひもとき、書きとめてきた経験を踏まえ、後悔のない人生を生き、そして「最期の瞬間を清々しく迎えるための50のヒント」をご紹介したいと考え、同書を上梓することにしたのです。その後、わたしは『人生の修め方』(日本経済新聞出版社)、『修活読本』(現代書林)なども上梓し、人生を修める活動としての「修活」の大切さを訴えました。

f:id:shins2m:20190720115011j:plain修活読本』(現代書林)

 

人生を修める「修活」の中で、特に大切なのが葬儀です。自分の葬儀を具体的にイメージすることは、残りの人生を幸せに生きていくうえで絶大な効果を発揮します。友人や知人が弔辞を読む場面を想像し、その弔辞の内容を具体的に想像してみる。そこには、あなたがどのように世のため、人のために生きてきたかが克明に述べられているはずです。自分の葬儀の場面というのは「このような人生を歩みたい」というイメージを凝縮して視覚化したものなのです。「葬儀なくして人生なし」とは、わが持論ですが、亡くなった後だけでなく、生きているときにも葬儀のイメージは非常に重要なのです。

 

ただし、この映画には葬儀の場面は一切登場しません。
その代わりに、冒頭から宇宙ロケットの打ち上げのシーンが登場します。わたしは「宇宙葬か?」と思いましたが、正確には宇宙葬とは言えないのですが、幸恵とマ子の魂が宇宙に飛んでいったことには変わりがありません。じつは、『死ぬまでにやっておきたい50のこと』で示した「最期の瞬間を清々しく迎えるための50のヒント」の最後の50番目は「死とは『宇宙に還ること』と考える」でしたので、わたしは「ああ、わたしにこの映画を薦めてくれた人は、このことが言いたかったのだな」と納得しました。ラストシーンでは、主題歌である竹内まりやの「旅のつづき」が流れる中、幸恵とマ子が笑顔で宇宙遊泳します。
この映画、やっぱり最後まで素敵な「おとぎ話」でした。  

 

2019年10月15日 一条真也

ラグビーのような社会へ

一条真也です。
昨日のラグビーW杯で、日本は因縁の相手であるスコットランドを破って、初の決勝トーナメントへの進出を決めました。わたしを含め、多くの日本人が歓喜しました。今朝、「西日本新聞」に「令和こころ通信 北九州から」の第12回目が掲載されました。月に2回、本名の佐久間庸和として、「天下布礼」のためのコラムをお届けしています。今回のタイトルは、ずばり、「ラグビーのような社会へ」です。

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西日本新聞」2019年10月14日朝刊

 

日本中が、ラグビーのワールドカップ(W杯)の話題で持ちきりです。今後も11月2日まで熱い戦いが繰り広げられます。開催前は「サッカーならいいけど、ラグビーのW杯ねぇ」と今一つ興味が湧かなかったわたしも、世界の強豪チーム同士の熱い闘いに、「ラグビーとは、これほど面白いスポーツだったのか!」と見方が一変しました。

 

強豪ウェールズ北九州市で事前キャンプを行い、地元の子供たちがウェールズ聖歌を歌うなどして歓迎しました。この粋な演出による北九州市の「おもてなし」に、ウェールズの選手や関係者は深い感銘を受けたといいます。9月28日には、日本は世界ランク2位(当時)のアイルランドから大金星を挙げました。ラグビーは番狂わせが起きにくいとされていますが、日本は前回大会で南アフリカを破ったのに続き、再び優勝候補からの金星です。

 

ラグビーという競技は、「ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン」という思想に支えられています。「一人は全員のために、全員は一人のために」と訳されることが多いです。由来は古代ゲルマン人の言い伝えなど諸説あります。19世紀半ばのアレクサンドル・デュマ著『三銃士』で、青年ダルタニアンと意気投合した三銃士が結束を誓う言葉として出てくるのが有名です。同時期の空想的社会主義者、エティエンヌ・カベーのベストセラー『イカリア旅行記』の表紙にも登場しますが、この言葉は、相互扶助の思想として社会にも影響を与えました。

 

ロシアのヒョードルクロポトキンは一般にはアナキストとして知られていますが、ロシアで革命家活動を終えたのち、亡命先のイギリスで1902年に『相互扶助論』を書きました。クロポトキンによれば、きわめて長い進化の行程のあいだに、人類の社会には互いに助け合うという本能が発達してきたといいます。近所に火事があったとき、人々が手桶に水を汲んでその家に駈けつけるのは、隣人しかも見知らぬ人に対する愛からではありません。愛よりは漠然としていますが、しかしはるかに広い互助の本能が人間を動かすというのです。

 

「相互扶助」という考え方は、多くの人々が少額を出し合って万一に備える保険業や、わが社・サンレーのような冠婚葬祭互助会業の根本理念にもなっています。そもそも互助会の「互助」とは「相互扶助」を縮めたものなのです。そして、わが社は「互助会から互助社会へ」をスローガンとしています。互助社会とは、共生社会であり、思いやり社会でもあります。ラグビーチームのような社会が本当に実現したら、これ以上に素晴らしいことはありません。

 

2019年10月11日 一条真也

「イエスタデイ」

一条真也です。
台風19号が日本各地で猛威をふるいました。犠牲となられた方々のご冥福を心よりお祈りいたしますとともに、被災された方々にも心よりお見舞いを申し上げます。こんなタイミングで心苦しいですが、イギリス映画「イエスタデイ」を観ました。「もしも自分以外の誰もザ・ビートルズを知らない世界になってしまったとしたら!?」という内容ですが、とても面白かったです。面白いだけでなく、いろんなことを考えさせられました。

 

ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「自分以外はバンド『ザ・ビートルズ』を知らない状態になった青年の姿を描くコメディー。『スラムドッグ$ミリオネア』などのダニー・ボイルがメガホンを取り、『ラブ・アクチュアリー』などのリチャード・カーティスが脚本を手掛けた。青年をヒメーシュ・パテルが演じ、『シンデレラ』などのリリー・ジェームズ、『ゴーストバスターズ』などのケイト・マッキノンのほか、ミュージシャンのエド・シーランが出演する」

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ヤフー映画の「あらすじ」は以下の通りです。
「イギリスの海辺の町に暮らすシンガー・ソングライターのジャック(ヒメーシュ・パテル)は、幼なじみで親友のエリー(リリー・ジェームズ)に支えられてきたが全く売れず、夢を諦めようとしていた。ある日ジャックは、停電が原因で交通事故に遭遇。昏睡状態から目覚めると、この世には『ザ・ビートルズ』がいないことになっていた」



この映画、ブログ「ジョーカー」で紹介した映画のを観た翌日に鑑賞したのですが、「ジョーカー」とはまた違った名作でした。なんといっても、ビートルズの存在しなかった世界というアイデアがいいですね。映画では、当然のことながらビートルズの名曲がたくさん流れましたが、どれも心に沁みて、「ああ、やっぱり名曲だなあ」と新鮮な感動を与えてくれました。



ビートルズの存在しなかった世界で、主人公のジャックはビートルズの楽曲を自分の作品として発表します。すぐさま大評判になりそうなものですが、そうは問屋が卸しませんでした。最初は誰もビートルズの素晴らしさを理解しないのです。両親に「レット・イット・ビー」を聴かせたときも、まったく聴く姿勢の見られませんでした。そんな両親に向かって、「あなたたちは人類で初めて、この名曲を聴くんだよ。ダ・ヴィンチの『モナリザ』を初めて見るのと同じなんだよ!」と叫ぶのでした。



たしかに、どんな素晴らしい作品でも誰の作品であるかが重要です。「レット・イット・ビー」はそれ自体でも名曲ですが、あの時代にビートルズの4人組が歌ったから、あれだけの大ヒット曲になったのです。音楽に限らず、例えば、『論語』がこの世界に存在していなかったとして、わたしが『論語』を自分の作品として発表しても、誰も相手にしないでしょう。『論語』は2500年以上前に実在した孔子の言行録であるからこそ価値があるのです。



しかし、一般大衆はなかなか気づかなくても、プロの耳は誤魔化せません。人気ミュージシャンであるエド・シーランはテレビでジャックの演奏を観て、すぎにその素晴らしさに気づき、ジャックに会いに行きます。ジャックはシーランの前座で歌うことになり、彼の人生は大きく開けていくのでした。このあたりは、単純にサクセスストーリーとして面白かったです。



サクセスストーリーは、まだ続きます。シーランのモスクワ公演の前座で「バック・イン・ザ・U.S.S.R」を歌って、観客を大熱狂させます。それを見たエドの女性マネージャーがジャックをロスアンゼルスに呼び、「あなたは毒杯が欲しくないの? 金と名声という禁断の毒杯を」と囁くのでした。この女性マネージャーはケイト・マッキノンが演じましたが、魔女っぽくて良かったです。



この映画では主演を新人のヒメーシュ・パテルが務めましたが、彼にとってこの映画そのものがリアル・サクセスストーリーであり、「世界が変わった」ような出世作になったのではないでしょうか。彼を子どもの頃から見守ってきた幼なじみで親友のエリーを演じたリリー・ジェームズも大変良かったです。ブログ「ガンジー島の読書会の秘密」でも主演でしたが、本作「イエスタデイ」のエリー役のほうがずっとキュートでした。









それにしても、この映画を観ながら、ザ・ビートルズの偉大さを改めて知った人は多いのではないでしょうか。「ビートルズなんて知らない」という若い世代も出てきたようですが、彼らの曲を聴くと、誰でも心を動かされるでしょう。そこには、モーツァルトにも通じる芸術的普遍性があるように思います。彼らの最高傑作といわれるアルバム「Abbey Road」が発表されたのはちょうど50年前ですが、現在でもその魅力は薄れていません。わたしが特に好きなビートルズの曲は「イエスタデイ」「レット・イット・ビー」「オール・ニード・イズ・ラヴ」「ヘイ・ジュード」ですが、それらのすべてが映画で使われて嬉しかったです。「オール・ニード・イズ・ラヴ」が流れたときは、今更ながら歌詞に感動して涙が出ました。エンドロールでは実際のビートルズの演奏で「ヘイ・ジュード」が流れました。ビートルズの楽曲は「こころの世界遺産」であると確信します。ブログ「グリーフケア・ソングス ベスト」で紹介したように、最近、わたしは私家版のカラオケ動画DVDを作成しましたが、つくづく歌の力というものを痛感しています。



この映画は、交通事故に遭ったジャックが別の世界へ迷い込むという物語です。この別世界には、ビートルズだけでなく、コカ・コーラやタバコやハリー・ポッターも存在しません。事故で昏睡状態となった後の話ですので、すべては脳に障害を負ったジャックの妄想だったという見方もできます。でも、一般的にはパラレルワールドというSF的世界観が受け入れられやすいでしょう。パラレルワールド、すなわち並行世界の物語です。わたしの専門分野の1つにグリーフケアがありますが、じつは、わたしは「並行世界」というアイデアグリーフケアにおいて大きな力を発揮すると考えています。映画「イエスタデイ」でも、わたしたちの世界ですでに亡くなっているある有名な人物が、じつは別世界では生きていて、ジャックを感動させます。

f:id:shins2m:20190817095753j:plainグリーフケアの時代』(弘文堂)

 

すなわち、並行世界では死者も生きているというわけです。
なるほど、わたしは「並行世界」というアイデアグリーフケアにおいて大きな力を発揮することに気づきました。愛する人が交通事故に遭わなかった世界、癌にならなかった世界、自殺を思い止まった世界、地震が来なかった世界、津波など最初から発生しなかった世界、さらには、このたびの台風19号の被害が拍子抜けするほど小さかった世界など。このような、もう1つの世界をイメージすれば、死別の悲しみに対するささやかな発想の転換になるかもしれません。


ハートフル・ソサエティ』(三五館)

 

また、最先端の科学理論がパラレルワールドを証明してくれる可能性もあるのです。拙著『ハートフル・ソサエティ』(三五館)の「神化するサイエンス」にも書きましたが、現代物理学を支える量子論には「多世界解釈」というものがあります。量子論によると、あらゆるものはすべて「波」としての性質を持っています。ただしこの波は、わたしたちが知っている波とは違う、特殊な波、見えない波です。それで、この波をどう理解するかという点で解釈の仕方がいくつかあるのですが、その1つが多世界解釈というものです。

 

SF魂 (新潮新書)

SF魂 (新潮新書)

 

 

SFでは「パラレルワールド」とか「もう一人の自分」といったアイディアはおなじみですが、わたしたちが何らかの行動をとったり、この世界で何かが起こるたびに、世界は可能性のある確率を持った宇宙に分離していくわけです。量子論においては、いわゆる「コペンハーゲン解釈」が主流となっていますが、この多世界解釈こそが量子論という最も基本的な物理法則を真に理解するうえで、一番明快な解釈だという考え方もあるのです。ブログ『SF魂』で、わたしたちはSFにおける想像力を「人類の叡智」として使う時期かもしれないと述べました。まさに、「パラレルワールド」というアイデアグリーフケアに大いに活用できるのではないでしょうか。映画「イエスタデイ」を観ながら、わたしは、そんなことを考えていました。

 

2019年10月14日 一条真也

ラグビー日本、決勝Tへ!

一条真也です。
ラグビーワールドカップで、日本代表がやりました!
1次リーグ最終戦で因縁の相手・スコットランドに熱戦の末、28-21で劇勝しました。これで世界ランク8位の日本が、史上初の8強進出を果たしました。勢いに乗った日本は、未知の決勝トーナメントに進出します。

f:id:shins2m:20191013214154j:plain日本が初の8強入り! 

 

昨日は台風19号が日本各地に甚大な被害を与え、多くの犠牲者も出しましたが、今日の試合前には全選手と観客が黙祷をしました。わたしは、この黙祷のシーンを見て、静かな感動を覚えました。じつは、「にわかラグビー・ファン」であるわたしは、今回のW杯までラグビーの試合を観たことがありませんでした。

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試合前の黙祷 

 

開催前は「サッカーならいいけど、ラグビーのW杯ねぇ」と今一つ興味が湧かなかったのですが、同じく、にわかファンである妻が「とにかく面白いから観てごらん」と言うので観戦することにしたのですが、妻に向かって「五郎丸は出るのか?」とトンチンカンなことを言って引かれてしまいました。(苦笑)

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まさに、走る格闘技! 

 

世界の強豪チーム同士の熱い闘いに、「ラグビーとは、これほど面白いスポーツだったのか!」と見方が一変しました。よく、これだけ肉体をぶつけ合って、壊れないものです。まさに、走る格闘技ですね。9月28日の第2戦では、日本は世界ランク2位(当時)のアイルランドから大金星を挙げました。ラグビーは番狂わせが起きにくいとされているそうですが、日本は前回大会で南アフリカを破ったのに続き、再び優勝候補からの金星をあげました。日本中が歓喜しました。

f:id:shins2m:20191013212017j:plainワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン

 

ラグビーという競技は、「ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン」という思想に支えられています。「1人は全員のために、全員は1人のために」と訳されることが多いです。由来は古代ゲルマン人の言い伝えなど諸説ありますが、この言葉は、「相互扶助」の思想として社会にも影響を与えました。

f:id:shins2m:20191013214300j:plainノーサイドに感動!

 

「相互扶助」という考え方は、多くの人々が少額を出し合って万一に備える保険業や、わがサンレーのような冠婚葬祭互助会業の根本理念にもなっています。そもそも互助会の「互助」とは「相互扶助」を縮めたものなのです。試合後の「ノーサイド」も素晴らしいですね。ゲームが終了すれば、敵も味方もなくなるという発想は、平和思想そのものです。そして、ラグビーというスポーツが戦争の代用品でもあることを示しています。

f:id:shins2m:20191013222958j:plain大御神社を参拝した日本代表

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大御神社の新名光明宮司

 

日本代表チームは、ブログ「大御神社」で紹介した神社に参拝しましたが、ここで「さざれ石」などを見て、日本の心、大和魂を学んだそうです。それから破竹の快進撃を続けているわけですが、ブログ「日向西紫雲閣竣工式」で紹介したセレモニーで神事を執り行って下さった同神社の新名光明宮司から詳しい様子をお聞きしました。日本が決勝トーナメントでも大活躍することを願っています。

f:id:shins2m:20191013214221j:plain決勝トーナメントでも頑張れ!

 

2019年10月13日 一条真也

「ジョーカー」

一条真也です。
地球史上最大級ともいわれる台風19号が接近し、東海地方と関東地方が記録的な大雨と暴風に襲われた12日、世界中で大ヒットしている超話題の映画「ジョーカー」を小倉のシネコンでようやく観ました。4日から公開されていますが、海外視察やら新施設のオープンやら会社の行事やらで忙しく、なかなか観る時間が取れませんでした。当ブログの多くの読者の方々から、「早く、一条さんの『ジョーカー』評が読みたい」などのお言葉をいただき、ついに鑑賞いたしました。いやあ、強烈でした。脳にガツンと来ました。ブログ「ホテル・ムンバイ」で紹介した映画とともに、今年の「一条賞」の最有力候補です!



ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「『ザ・マスター』『ビューティフル・デイ』などのホアキン・フェニックスが、DCコミックスの悪役ジョーカーを演じたドラマ。大道芸人だった男が、さまざまな要因から巨悪に変貌する。『ハングオーバー』シリーズなどのトッド・フィリップスがメガホンを取り、オスカー俳優ロバート・デ・ニーロらが共演。『ザ・ファイター』などのスコット・シルヴァーがフィリップス監督と共に脚本を担当した」

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ヤフー映画の「あらすじ」は、以下の通りです。
「孤独で心の優しいアーサー(ホアキン・フェニックス)は、母の『どんなときも笑顔で人々を楽しませなさい』という言葉を心に刻みコメディアンを目指す。ピエロのメイクをして大道芸を披露しながら母を助ける彼は、同じアパートの住人ソフィーにひそかに思いを寄せていた。そして、笑いのある人生は素晴らしいと信じ、底辺からの脱出を試みる」


ジョーカー(The Joker)とは、言わずと知れた架空のスーパーヴィランで、DCコミックスの出版するアメリカンコミック『バットマン』に登場します。Wikipedia「ジョーカー (バットマン)」の「概要」には、以下のように書かれています。
「ビル・フィンガー、ボブ・ケイン、ジェリー・ロビンソンによって創造され、 “Batman#1”(1940年4月25日)で初登場した。初登場時に一話限りで死ぬ予定だったが、編集上の介入によって免れた。ジョーカーは犯罪の首謀者として描かれ、歪んだユーモアを持つサイコパスとして登場した。コミックス倫理規定委員会による規制に対応して1950年代はイタズラをするマヌケなキャラクターになり、1970年代に暗いキャラクターに戻った」



また、Wikipediaにはこうも書かれています。
バットマンの最大の敵として名高いジョーカーは、“Clown Prince of Crime”(犯罪界の道化王子)、“the Jester of Genocide”(虐殺する宮廷道化師)、“the Harlequin of Hate”(憎悪するハーレクイン)、“ace of spades”(スペードのエース)など様々なニックネームで呼ばれる。DCユニバースの進化の間に、ジョーカーの解釈およびバージョンは、次の2つの形式をとっている。オリジナルの知性と歪んだユーモアを持つサディスティックなサイコパスと、1940年代から1960年代にかけて人気があった、1960年代のテレビシリーズのような無害なイタズラ泥棒である 。服装はロングテール、パッド入りショルダージャケット、ネクタイ、紫のスーツ、手袋、時々つばの広い帽子、尖ったつま先の靴、ストライプのパンツやスパッツである」



さらに、Wikipediaにはこうも書かれています。
「数十年の間に様々なオリジン・ストーリーが生まれた。基本的なオリジンでは、工場の化学薬品の溶液に落ちて真っ白な皮膚、緑の髪の毛、裂けて常に笑みを湛えた口に変化した。また、ジョーカーは超人的な能力を持っていない。カミソリのついたトランプ、笑気ガス、酸を噴霧する花などの有毒物質の調合、兵器を開発する化学工学の専門知識を駆使する。ジョーカーの性格や外観は、バットマンのアンチテーゼとして完璧な敵であると批評家によって考えられている。 大衆文化の中で最も象徴的なキャラクターの一つとして、ジョーカーはこれまでに創造された最も偉大なコミックのヴィランと架空の人物の中に挙げられている。キャラクターの人気から彼の衣類やコレクターアイテムとして多様な商品が存在する」



 さて、ネタバレにはなりますが、映画「ジョーカー」のストーリーについて、Wikipediaには以下のように書かれています。
ゴッサム・シティでピエロの派遣業で働いてるアーサー・フレック。認知症の母を介護する傍らスタンダップコメディアンを目指しながらピエロの仕事をして下積みをしている。幼い頃からトゥレット障害により感情が高ぶると反射的に笑いだす障害を持っていた。福祉サービスによって薬が提供され症状は抑えられていたが、トーマス・ウェインによる政策で医療福祉の解体によって、薬の服用が出来なくなり悪化する事になる。ゴッサムの治安の悪さから、仕事中に路上でチンピラによる暴行等を受けても耐えてきたが、同僚が防犯のためと渡した銃がきっかけとなり事態が一転する」



続けて、Wikipediaにはこう書かれています。
「医療施設でピエロを演じている際、しまっていた銃を落とした事がきっかけで解雇される。その帰宅中に地下鉄内でナンパをしていたウェイン産業の社員の前で笑いの発作を起こした為に勘違いで暴行され、感情が昂り銃を発砲し全員を殺害してしまう。更に母親がかつてトーマス・ウェイン邸で働いていた事から支援の手紙を書いていたのを偶然目撃し、愛人であったという文面から自分がトーマスの息子ではないのかという疑惑が高まり独自に調査をする。結果、母親は若い頃から精神に異常をきたし、一方的にトーマス・ウェインを恋人だと思い込んでいただけでなく、自分は養子で、母親の元恋人に虐待を受け障害を患った事を知る」

 

さらに、Wikipediaにはこう書かれています。
「マンションの隣人と恋仲となり、わずかながら幸せを感じていたが、それもまた自分が苦境の中から作り上げた妄想だと知る。自分が目標とするコメディアン、マーレイに自分が発作を起こしながらネタを披露する姿をテレビで笑い物にされるなどの不幸が重なり、完全な狂気に追い込まれる。狂気に追い込まれてからは、母親をはじめ自分を陥れた身近な友人を殺害し、出演依頼を受けたマーレイの番組で拳銃自殺をしようと考えていた。警察に追われている際、自分が起こした地下鉄銃撃の反響が大きな暴動に変わって行く様を観て次第に社会が混沌をきたしていることに快感を感じるようになる。見た目は赤いスーツに仕事の際のピエロメイクをそのまま施している。チェーンスモーカーで、タバコをフィルターまで吸いきるほど。ホアキン・フェニックスが演じる」



主演のホアキン・フェニックスは最高でした! 
ジョーカーという世界最狂の怪人を見事に演じ切った怪演でした。これまで、ジャック・ニコルソンヒース・レジャーといった怪優たちも半端ではない演技力でジョーカーに扮しましたが、ホアキン・フェニックスも彼らの仲間入りをしましたね。ジョーカーを演じたことでヒース・レジャーは一時的に精神を病んだそうですが、ホアキン・フェニックスもそうなるのではないかと心配してしまいます。彼をスクリーンで初めて観たのは、ブログ「ザ・マスター」で紹介した映画でした。トム・クルーズをはじめハリウッドのスターたちが入信していることで知られる新興宗教サイエントロジー」の創始者をモデルにした問題作で、人間の深層心理に鋭く迫っていますした。第2次世界大戦後、精神に傷を負った元兵士が宗教団体の教祖と出会い、関係を深めていく様子をスリリングかつドラマチックに描きますが、ホアキン・フェニックスは主役の元兵士を演じていました。このときから、「なんか不気味な役者だな」と思っていました。



「ジョーカー」は、冒頭からピエロ姿のアーサーが不良少年たちから暴行されるシーンが展開され、その後もずっとアーサーに降りかかる災難が描かれるので、やりきれない暗い気分になります。ちょうど、この映画を観たとき、わたしはいろいろと嫌な出来事が重なってモヤモヤしていたのですが、アーサーの悲惨な状況をスクリーンで目にするうちに、自分の抱えている悩みのことは忘れていました。映画には、こういった効果もあることを再確認しました。世を恨むアーサーですが、彼の母親も「こんな暮らしをするなんて」と嘆き続けます。しかし、フレック母子の住むアパートはそんなに酷い部屋とは思いませんでした。ゴッサムシティの地価や物価が高いか安いかは知りませんが、あれだけの大都会の部屋にしては広さもあり、快適な住まいのように思えました。



 それにしても、「ジョーカー」は危険きわまりない映画です。特に銃にまつわる描写が危険視されているようで、アメリカでは上映前から「現実の暴力を誘発する可能性があるのではないか」と注目を集めていました。「ダークナイト ライジング」(2012年)公開時の銃乱射事件の犠牲者遺族が公開書簡を発表しています。「ジョーカー」の公開にあたっては、危険性についての話題が早くから取り沙汰されたこともあり、警察や米軍が警戒態勢を敷きました。映画館では、なんと手荷物検査なども実施されています。全米公開後初めての週末は、警察が映画館に出動するに至ったケースが複数確認されています。しかし、「ジョーカー」がここまで危険視されるのは、やはり上映される場所がアメリカだからであり、ジョーカーがアメコミの中から生まれたキャラクターだからだと思います。日本では、そこまでの影響力は及ばさないはずです。


死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)

 

わたしが「ジョーカー」の負の影響がアメリカに限定され、日本ではそれほどでもないと考える理由は、拙著『死を乗り越える映画ガイド』(現代書林)にも書いたように、アメリカにおいて映画とは神話の代用品であり、映画の中の有名なキャラクターは神のごとき存在だからです。神話とは宇宙の中における人間の位置づけを行うことであり、世界中の民族や国家は自らのアイデンティティーを確立するために神話を持っています。日本も、中国も、インドも、アフリカやアラブやヨーロッパの諸国も、みんな民族の記憶として、または国家のレゾン・デトール=存在理由として、神話を大事にしているのです。ところが、神話という基幹文化を持っていない国が存在し、それはアメリカ合衆国という世界一の超大国なのです。建国200年あまりで巨大化した神話なき国・アメリカは、さまざまな人種からなる他民族国家であり、統一国家としてのアイデンティー獲得のためにも、どうしても神話の代用品が必要でした。それが、映画です。

 

映画はもともと19世紀末にフランスのリュミエール兄弟が発明しましたが、他のどこよりもアメリカにおいて映画はメディアとして、また産業として飛躍的に発展しました。アメリカにおける映画とは、神話なき国の神話の代用品だったのです。それは、グリフィスの「國民の創生」や「イントレランス」といった映画創生期の大作に露骨に現れていますが、「風と共に去りぬ」にしろ「駅馬車」にしろ「ゴッドファーザー」にしろ、すべてはアメリカ神話の断片であると言えます。それは過去のみならず、「2001年宇宙の旅」「ブレードランナー」「マトリックス」のように未来の神話までをも描き出します。

 

そして、スーパーマンバットマンスパイダーマンなどのアメコミ出身のヒーローたちも、映画によって神話的存在、すなわち「神」になったと言えるでしょう。 ブログ「バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生」で狂ったように暴れるスーパーマンは、まるで日本神話の「荒ぶる神」スサノヲのようでした。わたしは「アメリカにおいて、映画は神話の代用品」という考えを、これまで何度も述べてきました。アメリカの神々たちが一堂に会するのがブログ「ジャスティス・リーグ」で紹介した映画です。これは、DCコミック(ディーシー コミックス、DC Comics)の刊行するアメリカン・コミックスに登場する架空のスーパーヒーローチームです。DCコミックスはアメリカの漫画出版社で、アイアンマンやスパイダーマンらが所属する「アベンジャーズ」のマーベル・コミックと並ぶ二大アメコミ出版社のひとつです。DCとマーベルは、まさに「アメリカの二大神話メーカー」と言えるでしょう。



さて、「ジョーカー」という映画には、「悲しみ」が溢れています。では、グリーフケアの映画かというとそうではありません。アーサーの深い悲しみは「怒り」へと向かっていきます。その「怒り」のエネルギーはあまりにも大きく、そのためにこの映画は危険物扱いされているのです。冒頭のシーンでは民衆を怒らせるような深いなニュースばかり流れ、否が応でも観客のストレスはたまっていきます。わたしもこの映画を観たとき、あることに怒っていたので、自分の内なる攻撃性に火をつけられる気がして怖かったです。


ホスピタリティ・カンパニー』(三五館)

 

「ジョーカー」ことアーサー・フレックの巨大な怒りを目にして呆然としながら、わたしは自分の仕事のことを考えていました。わが社はいわゆるサービス業ですが、わが社の冠婚葬祭やホテルの現場で働く社員たちのことを考えたのです。拙著『ホスピタリティ・カンパニー』(三五館)の「感情労働のプロとして怒りをどう扱うべきか?」にも書きましたが、現代は、モノを生産したり加工したりする仕事よりも、人間を相手にする仕事をする人、すなわち「感情労働者」が多くなってきました。感情労働とは、肉体労働、知識労働に続く「第三の労働形態」とも呼ばれます。

 

管理される心―感情が商品になるとき

管理される心―感情が商品になるとき

 

 

「感情社会学」という新しい分野を切り開いたアメリカの社会学者アーリー・ホックシールドは、乗客に微笑む旅客機のキャビンアテンダントや債務者の恐怖を煽る集金人などに丹念なインタビューを行い、彼らを感情労働者としてとらえました。ホックシールドは言います。マルクスが『資本論』の中に書いたような19世紀の工場労働者は「肉体」を酷使されたが、対人サービス労働に従事する今日の労働者は「心」を酷使されている、と。現代とは感情が商品化された時代であり、労働者、特に対人サービスの労働者は、客に何ほどか「心」を売らなければならず、したがって感情管理はより深いレベル、つまり感情自体の管理、深層演技に踏み込まざるをえない。それは人の自我を蝕み、傷つけるというのです。

 

感情労働マネジメント 対人サービスで働く人々の組織的支援

感情労働マネジメント 対人サービスで働く人々の組織的支援

 

 

 冠婚葬祭業にしろホテル業にしろ、確かに気を遣い、感情を駆使する仕事です。お客様は、わたしたちを完全な善意のサービスマンとして見ておられます。もちろん、わたしたちもそのように在るべきですが、なかなか善意の人であり続けるのは疲れることです。みなさんは、感情労働のプロとして、ホスピタリティを提供しているのです。よく、高齢者の介護施設などで働く人々が高齢者を虐待した、などという事件が起きます。報道によれば、容疑者は普段は優秀な介護者で、評判も高いようです。もちろん彼らの行為はけっして許されませんが、やはり、善意の人であり続けるのは大変なことのようです。

 

 

接客業で一番辛いのは、お客様の理不尽な態度に接する時ではないでしょうか。中にはクレーマーと呼ばれる人もいますが、サービスを提供する人間に罵声を浴びせ、人間性を否定するような暴言を吐く者もいます。それでも相手はお客様ですから、怒ってはならない。我慢しなければならない。 怒りをこらえるというのは、本当に辛いですね。わたしも相当に気の短い人間なので、気持ちは良く理解できます。しかしながら、わたしは怒りっぽい自分の性格を恥じてもいます。

 

 

では、「怒り」をどう扱うべきか。
スリランカ初期仏教長老のアルボムッレ・スマナサーラ氏によれば、仏教では、怒りを完全に否定しているそうです。ブッダは、「たとえば、恐ろしい泥棒たちが来て、何も悪いことをしていない自分を捕まえて、面白がってノコギリで切ろうとするとしよう。そのときでさえ、わずかでも怒ってはいけない。わずかでも怒ったら、あなた方はわが教えを実践する人間ではない。だから、仏弟子になりたければ、絶対に怒らないという覚悟を持って生きてほしい」と言ったそうです。

 

 

 なぜなら、怒りは人間にとって猛毒だからです。その猛毒をコントロールすることが心の平安の道であることをブッダは告げたかったのでしょう。ブッダは、「怒るのはいけない。怒りは毒である。殺される瞬間でさえ、もし怒ったら、心は穢れ、今まで得た徳はぜんぶ無効になってしまって、地獄に行くことになる」とさえ言っています。つまり、怒ったら、自分が損をするのです。

 

アンガーマネジメント入門 (朝日文庫)

アンガーマネジメント入門 (朝日文庫)

 

 

 わたしたちのような俗人は、なかなかブッダのような境地に至ることはできません。なにしろ、ブッダとは「悟った者」という意味なのです。代わりに、わたしが現在重要視しているのは、アンガー・マネジメントという手法です。1970年代にアメリカで生まれた感情制御のノウハウで、怒りを予防し制御するための心理療法プログラムです。怒りを上手く分散させることができると評価されています。怒りはしばしばフラストレーションの結果です。また、自分にとって大事なものを遮断されたり妨害された時の感情でもあります。さらに、怒りは、自分の根底にある恐れや脆弱感に対する防衛機制でもあります。

 

誰にでもできるアンガーマネジメント (ベスト新書)

誰にでもできるアンガーマネジメント (ベスト新書)

 

 

 アンガーマネジメント・プログラムでは、怒りは定義可能な理由によって生じる、論理的に分析可能な強い感情であり、適切な場合には前向きにとらえてよいものだと考えられています。自分の怒りをしっかりと理解することでその暴発を避け、冷静な判断を助けることがアンガーマネジメントの目的です。その有効性の高さから、現在では大企業が積極的に導入している例も多いといいます。そこで、わたしが注目しているのが「6秒ルール」というものです。

 

 

 誰かに何か嫌なことを言われ、ついカッとなって言い返す、というようなことは誰にでもありますが、そのときはぜひ「6秒ルール」を試すといいでしょう。どういうことかというと、人間が怒りを覚えるとき、脳内では興奮物質のアドレナリンが激しく分泌されているそうです。そのことによって興奮してしまい、冷静ではいられなくなってしまうのです。しかしながら、アドレナリン分泌のピークは、怒りを発してから6秒後と言われています。つまり、その最初の6秒間をやり過ごしてしまえば、その後は徐々に冷静さを取り戻すことができるというのです。



もちろん、怒り心頭のときに「6秒をやり過ごす」ことは簡単ではありません。 そんなときには、「他のことに意識を向けること」が大事だそうです。最も簡単な方法は、心の中で6秒を数えることです。数を数えるといった単純な作業を行うことで、意識を自然とそちらに向けられるわけです。他にも、「朝からの自分の行動を順番に思い出す」とか「パソコン、コーヒーカップ、時計、書類など、目に見えているものの名前をひとつずつ心の中で読み上げる」なども有効だといいます。アンガー・マネジメントは「あおり運転」の防止などでも注目されていますが、「カッとなったら、まずはこうする」というルールを自分なりに作っておくことで、突発的な怒りに任せた行動を未然に防げます。


ミッショナリー・カンパニー』(三五館)

 

わたしの場合は、冠婚葬祭業、特に葬儀の仕事を侮辱されたときなどに激しい怒りを感じます。若い頃は相手に議論を吹っ掛けたりしていましたが、50代も半ばを過ぎた今では馬鹿は相手にしないことにしています。なによりも、わたし自身が葬儀という行為の重要性や意義を誰よりも理解しているつもりですし、それをさまざまな形で発信していくというミッションを感じていれば、腹も立ちません。「ああ、この人は葬儀の大切さもわからない教養のない人なのだな。福沢諭吉は『世の中で一番みじめな事は人間として教養のない事です』といったけれども、この人はかわいそうな人だな」と思うことにしています。わたしにとって、ミッション・マネジメントはアンガー・マネジメントそのものです。



もっとも、ジョーカーに変身したアーサーの怒りは、わたしの怒りなどの比ではない巨大なものですが、彼の怒りや悲しみは痛いほど共感できます。映画には小人症の男性も登場しますが、ことあるごとに差別的暴言を吐かれる彼の悲しみを見るのも辛かったです。他人から理解されずに、差別され続ける、この世のありとあらゆる虐げられし人々の代弁者として、ジョーカーは生まれました。自らの血をもって笑う道化師となった彼の姿を見てしまった今、もうバットマンなどに感情移入することはできませんね。それにしても、とんでもない映画が作られたものです。台風19号の猛威も恐ろしいですが、「ジョーカー」も恐ろしい!

 

2019年10月13日 一条真也拝 

月への送魂

一条真也です。
11日の夜、ブログ「隣人祭り・秋の観月会」で紹介したように、 サンレーグランドホテルにおいて有縁社会再生のためのイベントが盛大に開催されました。恒例の「月への送魂」も行われました。これは夜空に浮かぶ月をめがけ、故人の魂をレーザー(霊座)光線に乗せて送るという「月と死のセレモニー」です。今宵は月が厚い雲に隠れてハラハラしましたが、なんとかセレモニーの時間には姿を見せてくれました。300人を超える人々が夜空のスペクタクルに魅了されました。

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あの月に魂を送る!

 

それにしても、なぜ月に魂を送るのでしょうか? 
多くの民族の神話と儀礼において、月は死、もしくは魂の再生と関わっています。規則的に満ち欠けを繰り返す月が、死と再生のシンボルとされたことは自然でしょう。

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リニューアルされた「月への送魂」ムービー

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月と人類

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月と人類

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月と人類

 

わたしは『慈経 自由訳』(三五館)も上梓しましたが、「月の経」の別名を持つ「慈経」を重視するミャンマーなどの上座部仏教の国々では今でも満月の日に祭りや反省の儀式を行います。仏教とは、月の力を利用して意識をコントロールする「月の宗教」だと言えるでしょう。仏教のみならず、神道にしろ、キリスト教にしろ、イスラム教にしろ、あらゆる宗教の発生は月と深く関わっている。そのように、わたしは考えています。

 

慈経 自由訳

慈経 自由訳

 

わたしたちの肉体とは星々のかけらの仮の宿です。入ってきた物質は役目を終えていずれ外に出てゆく、いや、宇宙に還っていくのです。宇宙から来て宇宙に還るわたしたちは、宇宙の子なのです。そして、夜空にくっきりと浮かび上がる月は、あたかも輪廻転生の中継基地そのものと言えます。人間も動植物も、すべて星のかけらからできている。その意味で月は、生きとし生ける者すべてのもとは同じという「万類同根」のシンボルでもあります。かくして、月に「万教同根」「万類同根」のシンボル・タワーを建立し、レーザー(霊座)光線を使って、地球から故人の魂を月に送るという計画をわたしは思い立ち、実現をめざして、各所で構想を述べ、賛同者を募っています。

f:id:shins2m:20191011184249j:plain瀬津神職が登場!

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魂弓を祈りを込めて引きつらむ 光の矢をば月に送らむ

 

この夜は、リニューアルされた「月への送魂」のプレ・ムービーが流れた後、皇産霊神社の瀬津隆彦神職が登場、魂弓(たまゆみ)を射って、送魂の儀を行いました。「魂弓を祈りを込めて引きつらむ 光の矢をば月に送らむ」という庸軒道歌が披露されました。そして、瀬津神職が持つ神弓から発せられたレーザー(霊座)光線が夜空の月に到達すると、満場のお客様から盛大な拍手が起こりました。

f:id:shins2m:20191011184354j:plain霊座(レーザー)光線が月に向かって放たれる

 

死後の世界のシンボルである月に故人の魂を送る「月への送魂」は、21世紀にふさわしいグローバルな葬儀の“かたち”であると思います。何より、レーザー光線は宇宙空間でも消滅せず、本当に月まで到達します。わたしは「霊座」という漢字を当てましたが、実際にレーザーは霊魂の乗り物であると思います。「月への送魂」によって、わたしたちは人間の死が実は宇宙的な事件であることを思い知るでしょう。

f:id:shins2m:20191011184340j:plainこれが「月への送魂」だ!!

 

ロマンティック・デス~月を見よ、死を想え』(幻冬舎文庫)をはじめとして、『葬式は必要!』や『ご先祖さまとのつきあい方』(ともに双葉新書)、『決定版 終活入門』(実業之日本社)、『墓じまい・墓じたくの作法』(青春新書インテリジェンス)、『永遠葬』(現代書林)、『唯葬論』(サンガ文庫)、宗教学者島田裕巳氏との共著『葬式に迷う日本人』(三五館)、『人生の修め方』(日本経済新聞出版社)さらには今年6月に上梓した『人生の四季を愛でる』(毎日新聞出版)でも「月への送魂」を紹介しています。今では、すっかり多くの人たちに知っていただきました。

 

ロマンティック・デス―月を見よ、死を想え (幻冬舎文庫)  葬式は必要! (双葉新書)  ご先祖さまとのつきあい方 (双葉新書(9))  決定版 終活入門  墓じまい・墓じたくの作法 (青春新書インテリジェンス)唯葬論 なぜ人間は死者を想うのか (サンガ文庫)永遠葬葬式に迷う日本人人生の修め方人生の四季を愛でる 「こころ」を豊かにする「かたち」

 

関心を抱かれる方も多くなったようで、問い合わせなども増えてきました。特に最近では、「宇宙葬のカリスマ」ことエリジウム・スペース社のトーマス・シベCEOが『ロマンティック・デス』を読んだことが宇宙葬に取り組むきっかけになったと広言されていることもあって、「月への送魂」にも非常に注目度が高まっています。

f:id:shins2m:20191011193338j:plain宇宙空間でもレーザー光線は消滅しない!

 

終了後は、数え切れないほど多くの方々から「今夜は本当に素晴らしかった」「これまでで最高の月だった」「これで寿命が延びた」「なつかしい故人に会えた気がした」などのお言葉を頂戴し、わたしの胸は熱くなりました。わたしは、「死は不幸ではない」ことを示す「月への送魂」の普及に、死ぬまで、そして死んだ後も尽力したいと思っています。

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すべての死者に祈りをこめて・・・

 

2019年10月12日 一条真也