『思い出ノート』 

一条真也です。四国の高松に来ています。
讃岐うどんを食べすぎて、お腹が苦しいです。
32冊目の「一条真也による一条本」は、『思い出ノート』(現代書林)です。2009年7月27日に刊行された書籍というよりノートです。


思い出ノート』(2009年7月27日刊行)

 

本書は非常に好評を博し、発売以来、何度も増刷を重ねてきました。バインダー式ですので、ページの開閉が楽で、書きやすいです。カバー表紙には大正ロマン風の朧月夜が描かれており、カバー前そでには「人は生き老い病み死ぬるものなれど 夜空の月に残す面影」という、わたしが詠んだ道歌が掲載されています。


本書の帯

本書の帯には、「あなたの履歴書」「愛する人へ・・・」「『いざという時に備える』ことは、あなたの人間関係の絆を強くします。あなた自身で、あなたの人生の思い出を書きこむための本です。あなたのことを、あなたの大切な人たちが思い出すための本です」「あなたのことを教えてください」と書かれています。


本書の帯の裏

 

本書の「目次」は、以下のようになっています。
はじめに「このノートを書く意味」
●第1章●
あなたのことを教えてください

1.私のことについて
2.いざというときのために、家族へのお願い
●第2章●
なぜお葬式をするのか

一般的な葬儀の流れ
1.葬儀・法事などについての私の要望
2.納骨・埋葬・墓標に関する手続き
3.私の死亡時に連絡してほしい人
4.私の家族や親戚の記録
5.わが家の財産について伝えておきます
6.遺言に関する基礎知識
●第3章●
思い出ノートについて

〈資料1〉 葬儀・相続のスケジュール
〈資料2〉 必要手続き一覧表
〈資料3〉 著名人の死亡年齢


カバーを外すと名前が書けます

 

わたしは、究極のエンディングノートをめざして『思い出ノート』を作りました。エンディングノートとは、自分がどのような最期を迎えたいか、どのように旅立ちを見送ってほしいか・・・それらの希望を自分の言葉で綴る記述式ノートです。高齢化で「老い」と「死」を直視する時代背景のせいか、かなりのブームとなっており、各種のエンディングノートが刊行されています。しかし、その多くは遺産のことなどを記すだけの無味乾燥なもので、そういったものを開くたびに、もっと記入される方が、そして遺された方々が、心ゆたかになれるエンディングノートを作ってみたいと思い続けてきました。また、そういったノートを作ってほしいという要望もたくさん寄せられました。


私のことについて

 

『思い出ノート』では、第1章を「あなたのことを教えてください」と題して、基本的な個人情報(故人情報)を記せるようになっています。たとえば、氏名・生年月日・血液型・出身地・本籍・父親の名前・母親の名前といったものです。次に、小学校からはじまる学歴、職歴や団体歴、資格・免許など。また、「私の健康プロフィール」として、受診中の医療機関名・医師名、毎日飲んでいる薬、アレルギーなどの注意点、よく飲む薬などを記します。これは、元気な高齢者の備忘録としても大いに使えると思います。


私の思い出の日々

 

『思い出ノート』の真骨頂はこれからで、「私の思い出の日々」として、幼かった頃、学生時代、仕事に就いてからの懐かしい思い出など、過ぎ去った過去の日々について記します。たとえば「誕生」の項では、生まれた場所、健康状態(身長・体重など)、名前の由来や愛称などについて。「幼い頃・小学校時代」の項では、好きだった先生や友達、仲の良い友人、得意科目と不得意科目などについて。「高校時代」の項では、学業成績、クラブ活動、好きだった人、印象に残ったこと・人などについて。


これからしたいこと、やり残したこと

 

また、「今までで一番楽しかったこと」ベスト5、「今までで一番、悲しかったこと、つらかったこと」ベスト5、「子どもの頃の夢・あこがれていた職業・してみたかったこと」、「今までで最も思い出に残っている旅」、「これからしたいこと」、そして「やり残したこと」ベスト10といった項目も特徴的です。そして、「生きてきた記録」では、大正10年(1921年)から現在に至るまでの自分史を一年毎に記入してゆきます。参考として、当時の主な出来事、内閣、ベストセラー、流行歌などが掲載されています。「HISTORY(歴史)」とは、「HIS(彼の)STORY(物語)」という意味ですが、すべての人には、その生涯において紡いできた物語があり、歴史があります。そして、それらは「思い出」と呼ばれます。自らの思い出が、そのまま後に残された人たちの思い出になる。そんな素敵な心のリレーを実現するノートになってくれればいいなと思います。


生きてきた記録を書く

 

『思い出ノート』は、記入される方が自分を思い出すために、自分自身で書くノートです。それは、遺された人たちへのメッセージでもあります。たとえ新しい世界に旅立っても、その人は、遺された人たちの記憶の中で生き続けています。きっと、遺された人たちは、このノートに記された故人の筆跡を見るだけで、故人の思い出をよみがえらせ、それを語り合うことでしょう。ときに涙し、ときに笑い、そして懐かしむことでしょう。


私の証明書・保険証など

 

『思い出ノート』には、記入者の財産や遺品のこと、旅立ってから後のことなど、いわゆる「情報」と呼べるようなものもたくさん記入できるようになっています。「情報」というと、何となく冷たくて無味乾燥な感じがします。
でも、このノートに記される情報は違います。情報とは、「情」を「報せる」と書きます。「情」は「なさけ」と読むのが一般的ですが、五木寛之さんもよく指摘されるように、『万葉集』などでは「こころ」と読まれています。わが国の古代人たちは、「こころ」という平仮名に「心」ではなく「情」という漢字を当てたのです。ですから、「こころ」を「報せる」ことこそ、本当の情報なのだと思います。


いざというときのために、家族へのお願い


あなたが家族へ残した財産は、愛情という「情」です。
あなたが友人へ綴った思いは、友情という「情」です。
あなたが詠んだ辞世の歌や句には、詩情という「情」があります。すべてが、あなたの人情という「情」にあふれています。このノートには、あなたの「こころ」を報せる「情報」が記されているのです。あなたという、かけがえのない、たった一人の人間がこの世界にいたこと、夢見たこと、考えたこと、実行したこと・・・その記録と記憶を『思い出ノート』が後世に残します。


自分自身の葬儀について

 

この『思い出ノート』は、記入者自身の旅立ちのセレモニー、すなわち葬儀についての具体的な希望を書き記すものでもあります。自分の葬儀について考えるなんて、ましてや具体的な内容について書くなんて、複雑な思いをする人も多いと思います。しかし、自分の葬儀を具体的にイメージすることは、その人がこれからの人生を幸せに生きていくうえで絶大な効果を発揮すると、わたしは確信しています。


自身の葬儀の音楽・遺影について

 

自分の葬義をイメージして、友人や会社の上司や同僚が弔辞を読む場面を想像するのです。そして、その弔辞の内容を具体的に想像するのです。そこには、その人がどのように世のため人のために生きてきたかが克明に述べられているはずです。葬儀に参列してくれる人々の顔ぶれも想像するといいでしょう。そして、みんなが「惜しい人を亡くした」と心から悲しんでくれて、配偶者からは「最高の連れ合いだった。あの世でも夫婦になりたい」といわれ、子どもたちからは「心から尊敬していました」といわれる。 まさに、自分の葬儀の場面というのは、「このような人生を歩みたい」というイメージを凝縮して視覚化したものなのです。後は、そのイメージを実際の人生においてフィードバックしていくことが大切ではないでしょうか。


著名人の死亡年齢

 

このノートには、古今東西の有名な人々が亡くなった年齢、すなわち「享年」が掲載されています。アンネ・フランクは16歳、ジャンヌ・ダルクは19歳、森欄丸や天草四郎は17歳の若さで亡くなっています。逆に、梅原龍三郎は98歳、諸橋轍次は99歳、野上弥生子は100歳で、泉重千代は121歳で亡くなっています。


著名人の死亡年齢(40代)

 

『思い出ノート』刊行時のわたしは46歳でしたが、敬愛する作家の三島由紀夫の享年は45歳でした。中上健次や、プロレスラーの三沢光晴は同じ46歳で亡くなりました。そして、マイケル・ジャクソンは50歳・・・・・・この膨大な享年リストを読むと、「へえ、あの人物は意外に若死にだったのだな」とか「あの人は、こんなに長生きしたのか」とか「今の自分の年齢で亡くなったわけだ」などと思うことでしょう。そして、おそらく読者は「自分は何歳で亡くなるのか」と考え、その人生が短かったとか長かったとか、さまざまな感慨が湧いてくるのではないでしょうか。


著名人の死亡年齢(50代)

 

しかし、そもそも享年とは、いったい何でしょうか。それは、この世で生きた時間の長さのことですね。ならば、そんなに亡くなった年齢を気にすることはないと、わたしは思います。すべての人間は自分だけの特別な使命や目的をもってこの世に生まれてきています。この世での時間はとても大切なものですが、その長さはさほど重要ではありません。時間とは、人間が創り出した人工的な概念にすぎません。ですから、たとえ一日しか生きられなかったとしても、死ぬことは不幸でも何ともありません。いくら短くても、その生は完結したものなのです。


私の家族や親戚の記録

 

「人間は二度死ぬ」と言われます。
人が死んでも、生前について知る人が生きているうちは、死んだことにはなりません。生き残った者が心の中に呼び起こすことができるからです。しかし、記憶する人が死に絶えてしまったとき、死者は本当の死者になってしまうのです。誰からも忘れ去られたとき、死者はもう一度死ぬのです。
すべての人は、いつか必ず亡くなります。
これは、誰にとっても間違いのない未来です。
でも、人は二度も亡くなってはいけません。本当の死者になってはいけないのです。自分の大切な、愛する人たちに、自分のことを憶えておいてもらわなければなりません。そのための「思い出」を記してもらいたいと切に願い、わたしは『思い出ノート』を作りました。
「令和」への改元まで、あと7日です。


 

2019年4月24日 一条真也

高松へ

一条真也です。
22日、松柏園ホテルで北九州を代表する大物経営者の喜寿の祝い、音楽を愛するお医者様の古希の祝いがダブルで行われました。参加したわたしは少々飲みすぎて23日は二日酔いでしたが、四国の高松に出張しました。

f:id:shins2m:20190423144122j:plainのぞみ34号 の車中で

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車中で週刊誌を読みました

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どこの家庭も大変みたいです

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岡山駅に到着しました


小倉駅から新幹線のぞみ34号に乗って、まずは岡山へ。車中では駅構内の書店で求めた「週刊文春」と「週刊新潮」を読み耽りました。いろいろと興味深い記事が並んでいましたが、「どこの家庭も大変なのだな」ということがよくわかりました。はい。

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マリンライナーに乗り換えました

f:id:shins2m:20190423161132j:plainマリンライナーの車中にて

f:id:shins2m:20190423161320j:plain瀬戸大橋を通過しました

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マリンライナーの車中で読書しました

岡山駅からは快速マリンライナー43号に乗り換え、高松へ。途中、瀬戸大橋を通過しました。車中では、2019年本屋大賞を受賞した『そして、バトンは渡された』瀬尾まいこ著(文藝春秋)を読みました。とても心温まる物語であり、わたしが「サンデー新聞」に連載している「ハートフル・ブックス」で紹介したいと思いました。

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高松駅が見えてきました

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高松駅にて

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高松駅前のようす

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讃岐うどんを食べました

高松駅に到着すると、非常に整然とした駅前の光景に、わたしは「なんだか、シンガポールみたいだなあ」と思いました。それから、駅前のホテルにチェックインしました。その頃には二日酔いも直って、お腹が空いてきました。四国といえば、讃岐うどんです。わたしは、早速、ホテルの人から聞いた名店で、名物ぶっかけうどんを食べたのでした。明日は、結婚式場のアイルバレクラブで開催される全互協の四国ブロック会議に、副会長として出席いたします。
「令和」への改元まで、あと8日です。

 

2019年4月23日一条真也

『花をたのしむ』

一条真也です。
23日、四国の高松に出張します。
昨日は三ヶ森紫雲閣の竣工清祓御祭の神事が行われましたが、近隣を流れる金山川は《花のボランティア公園》として、さまざまな花が咲き誇っています。わたしは「美しき花咲き誇る金山の川の上には紫の雲」という歌を詠みました。
31冊目の「一条真也による一条本」は、『花をたのしむ』(現代書林)です。「日本人の癒し」シリーズの第2弾として、2009年3月25日に刊行されました。サブタイトルは「ハートフルフラワーのすすめ」です。


花をたのしむ』(2009年3月25日刊行)

 

帯には、「花は――魂のごちそう こころの万能薬。」と大書され、「人はなぜ花を愛し、飾ってきたのか? 花がもつ『癒しの力』を今、ここに解き明かす」と書かれています。


本書の帯

 

また帯の裏には、序文から以下の言葉が引用されています。
「花ほど、人間の魂を豊かにする贅沢なごちそうはありません。結婚式や葬儀の会場には花をたくさん飾ります。それは、式場を天国に見立てるためです。ですから、結婚式のときも、葬儀のときも、ぜひ、できるだけ多くの花々を飾ってください。花は地上と天上をつなぐメディアです。花というメディアによって、そこには天国の波動が満ちるのです。花は人間関係を良くするメディアでもあるのです。天国に連れていってくれて、人間関係まで良くしてくれる花。さらには、花は疲れた心も癒してくれる。まるで心の万能薬ではありませんか。魂のごちそうにして、心の万能薬! くれぐれも花を甘く見てはなりません」


本書の帯の裏

 

序章◆魂のごちそう、心の万能薬
ガーデニングはスポーツ
1年のうちのわずかな楽しみ
リゾートはガーデニングに変わった
花は美しすぎる
バラの言い伝え
バラと星の王子さま
大切なことは「人間関係」
花は「いのち」のシンボル
花は「平和」のシンボル
江戸には3つの花があった
花伝書』に込められた意味
「ART」とは天国への送魂術
あの世には花畑がある
花の埋葬
日本人と桜、そして月

第1部 ◆花をたのしむ
第1章 花を愛した日本人
花とはどういうものなの?
サクラの花と日本人
和歌に詠まれてきた花と日本人の心
梅から桜へと変わった理由
花に感じた生と死
バラを愛する西洋人、桜を愛する日本人
●コラム「花の歴史」
第2章 花を飾る
花を楽しむための知恵
花を飾るという習慣
床の間という文化
なぜ葬儀で菊の花を飾るのか
華道という「道」に仕上げた日本人
第3章 花と遊ぶ
花束を贈る
花言葉に遊ぶ
花を育てる楽しみ
料理にして花を味わう
●コラム「青いバラを人類は夢見ている」
第4章 花をいたわる
花屋さんに教わりました
良い花の見分け方ABC
切り花の手入れの一工夫
切り花の手入れ 上級編
●コラム「フラワービジネスと発展史」
第2部◆花屋の仕事は「情を運ぶ」仕事です
ネーミングにクレームが?
「花を大切な人に贈りたい」
地方だから生まれた発想
「あとがき」

f:id:shins2m:20190413080550j:plain花はこの世のものにしては美しすぎる

 

本書で、わたしは「花はこの世のものにしては美しすぎる」と書きましたが、なぜ花はこんなにも美しいのかと、いつも思わずにはいられません。
花が美しいのには科学的な理由があるという人がいます。その人の理論はこうです。鮮やかな色彩の花は、動物や虫たちに自らの存在を示している。栄養源がここにあり、今が食べ頃だと伝えているのだ。人間も花を見て美しいと感じます。花や植物から自分たちの生存に関わる情報を取り入れるために、人類はそういう反応を進化させてきました。果実がまだ未熟か、それとも食べられるか、酸っぱくないか、毒がないかといったことを食べる前に判断しなければならないからだというのです。
たしかに一理あります。でも、そんな中学の生物の授業に出てくるような理論だけでは、納得できません。わたしは、とにかく花の美しさはただごとではないと思うのです。


 

人は、ただならぬ花の美しさに、さまざまな意味を求めましたが、西洋においては、その最大の対象がバラでした。バラに関する言い伝えはほとんどの文化に存在しています。ギリシャローマ神話にも登場します。バラ、ギンバイカ、リンゴはそろって愛の女神の神木とされています。女神の名は、ギリシャではアフロディーテ、ローマではヴィーナスです。なんでも、女神が巨大な帆立貝の貝殻の上に立って海から誕生したとき、空からバラの花びらが降ったのだそうです。女神は赤バラの誕生にも関わっていますが、これはギリシャ神話とローマ神話では内容が異なっています。ギリシャ神話では、瀕死の恋人アドニスに駆け寄ったアフロディーテが白バラの生け垣で擦り傷をつくり、彼女の血がしたたり落ちたところに赤いバラの繁みが育ったとしています。


 

一方、ローマ神話では、ジュピターがヴィーナスの水浴を覗こうとして、彼女が顔を赤らめて赤いバラが生まれたとしています。ヴィーナスにはキューピッドという息子がいましたが、彼が蜂に刺されたとき、近くのバラの繁みに向かって矢を放ったそうです。それ以来、バラにはトゲができたとか。
古代ローマではヴィーナスのシンボルとして、バラは「美」と「愛」の代名詞でしたが、中世のヨーロッパではバラのイメージが変容します。キリスト教世界では、「原罪」を表わすトゲが抜かれ、漂白されて、いつしか白バラは聖母マリアのシンボルとされたのです。中世ヨーロッパの教会には美しいステンドグラスの薔薇窓が用意され、バラの美は聖母マリアの栄光のために捧げられたのです。

 

バラは西洋以外の文化においても愛されました。
たとえば、紀元前6世紀、ペルシャ王であったキュロス2世はバラを自分の紋章と定め、自らのシンボルとしました。世界の七不思議の1つとして知られるバビロンの空中庭園にもバラが植えられていたそうですが、これはネブカドネザルが愛する妻のために行なったことでした。
イスラムの伝説によると、バラは預言者ムハンマドの汗の滴だとされています。中国にはバラに関する神話や伝説はあまりありませんが、孔子が、バラに関する書物が少なくとも600冊以上あったと記しています。これらの書物は、始皇帝による焚書坑儒で焼かれてしまったのかもしれません。


 

バラに関する興味は尽きませんが、バラの花を人類の普遍思想にまで高めた人物がいます。フランスの作家サン=テグジュペリです。ブログ『星の王子さま』で紹介した彼の永遠の名作は、『聖書』や『資本論』の次に多くの人々に読まれたという大ベストセラーであり、なんと200以上の国で翻訳出版されました。
星の王子さま』では、バラがきわめて重要な役割を果たします。たった1人で小さな星に暮らしていた王子さまの幸せな生活を邪魔する存在がバラの花でした。バラは無邪気なのですが、わがままで、ウソつきで、依存的で、無秩序な存在で、自分の要求だけを突きつけるのです。一緒にいるとお互いに傷つけ合うと思った王子さまは、自分の星から飛び出してしまいます。


星の王子さま』(岩波書店)より

 

さまざまな星をめぐった王子さまは、地球でバラの花を見て、泣き出してしまいます。あんなにも自分が大切に育て、あんなにも自分を困らせたバラは、5000本の中のたった1本でしかなかったのです。このとき、王子さまは生まれてはじめての大きな喪失感を覚えました。自分は、この広い宇宙の中でなんと小さな、なんと意味のない存在であるかということを思い知るのです。でも、王子さまが面倒を見たたった1本のバラの花があることによって、王子さまは「意味のある存在」になります。自分とバラの花はお互いに強い絆で結びついた「唯一の存在」であることに気づいた王子さまは、再び、五千本のバラの花を見に行きます。そして、「あの一輪の花が、ぼくには、あんたたちみんなよりもたいせつなんだ」と語るのです。


星の王子さま』(岩波書店)より

 

砂漠で会ったキツネから「面倒みた相手には、いつまでも責任があるんだ。守らなきゃいけないんだよ、バラとの約束をね・・・」ということを教わった王子さまは、自分だけの一輪のバラが待つ小さな星へ還っていきます。
サン=テグジュペリにとっての1本の守るべきバラとは何でしょうか。それは、ニューヨークにいる不倫関係の恋人であるとか、フランスに残してきた妻であるとか、さらには故国フランスそのものであるとか、いろいろな説があります。でも、わたしは、きっと彼にとってのバラとは、恋人であり、妻であり、故国であったのだと思います。バラは、すべての「かけがえのない大切なもの」のシンボルなのだと思います。


星の王子さま』(岩波書店)より

 

バラの花の存在によって、王子さまは愛を知り、愛したものに対する責任を学びます。気まぐれにペットを捨てるばかりか、わが子さえ捨てる人もいる昨今、王子さまのメッセージはわたしたちの心に突き刺さります。親ならば子に対して、夫ならば妻に対して、経営者ならば社員に対して、教師ならば生徒に対して、わたしたちは愛と責任を持たなければならないのです。職場でのコミュニケーションがうまくいかずに悩んでいる人もいるでしょう。離婚を考えている人もいるでしょう。親の介護をしている人もいるでしょう。わたしたちは、すべてつながっているのです。わたしたち人間は一人では生きていけません。重要なのは「人間」ではなく、「人間関係」なのです。


星の王子さま』(岩波書店)より

 

バラの花束をプレゼントすることが、なぜこれほど人間関係を良くするのかという秘密がここにあるように思います。イエスムハンマドは「愛」を説き、孔子は「仁」を説き、ブッダは「慈悲」を説きましたが、それらすべては他者に対する「思いやり」ということ。誕生日で、快気祝いで、送別会で、贈られるバラの花束とは、「思いやり」そのものなのです。『星の王子さま』を貫くメインテーマは、「ほんとうに大切なものは目に見えない」ですが、バラの花束とは、目に見えないはずの「大切なもの」を目に見せてくれる、まるで魔法のような、奇跡のような、そんな存在なのだと思います。

f:id:shins2m:20190329180044j:plain花は芸術そのものの意味に関わっている

 

わたしは、花は芸術そのものの意味にも深く関わっていると思います。結婚式や葬儀では多くの花を飾ります。芸術のことを英語で「ART」といいますが、つねづね葬儀こそはARTそのものであると主張しています。わたしは、地球を意味する「EARTH」にすべての秘密が隠されていると思っています。「EARTH」は3つに分解されます。「E」と「ART」と「H」です。その意味について考えると、おそらく「E」とは「EDEN」で、「H」とは「HEAVEN」でしょう。エデンの園から天国へ、地上の楽園から天上の楽園へ、人間の魂を導く手段が「ART」なのだと思います。

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エデンの園や天国は、いうまでもなく『旧約聖書』に出てきます。いわば、ユダヤ教キリスト教イスラム教といった一神教の宗教に受け継がれている世界観です。それらの宗教の源流ともいうべき神秘思想がカバラです。カバラにはアナグラムという文字の配列からその隠された意味を読むという秘法がありますが、その手法によって「ART」の真の意味を明かしたわけです。つまり、人は「ART」によって天国に行けるのです。すばらしい芸術作品に触れて心が感動したとき、魂が一瞬だけ天国に飛ぶのです。肉体はこの地上に残したまま、精神だけを天国に連れてゆくのです。絵画や彫刻などはモノを通して、いわば中継地点を経て天国に導くという間接芸術であり、音楽こそが直接芸術であると主張したのは、かのヴェートーベンです。芸術とは天国への送魂術なのです。


 

天国といえば、わたしはかつてブログ『ロマンティック・デス~月を見よ、死を想え』で紹介した死の本を書きましたが、執筆のさい、あの世を見てきたという人々の体験、つまり臨死体験をかなり詳しく調べました。そこでわかったことは、ポジティブな臨死体験者は死にかけて「天国」や「極楽」や「天上界」などとさまざまに呼ばれる、あの世の理想郷を訪れます。多くの臨死体験者の報告で共通していることがあります。大半の者が美しい花畑を見たと証言しているのです。光のトンネルをくぐり抜けた後、丘一面に咲き乱れる色とりどりの花に囲まれたというのです。

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自宅の庭園にて

もともと、エデンの園は天国に存在するガン・エデンという楽園を模して神が地球上につくったといいますが、いずれにしても天上に属する花の一部がこの地上にも表出しているのだと思います。そうでないと、ただならぬ花の美はとても理解できません。もうおわかりのように、葬儀というセレモニーこそは「ART」そのものです。なぜなら葬儀とは、人間の魂を天国に送る「送儀」であり、人間の魂を天国に引き上げるという芸術の本質をダイレクトに行うものだからです。かつ、直接芸術たる音楽をはじめ、あらゆる芸術ジャンルを駆使する総合芸術でもあります。その中でも、もっとも重要な役割を果たすのが花です。なにしろ、この世に存在するものの中で、花だけがあの世のものなのですから。


 

はるかにさかのぼれば、かのネアンデルタール人も、花があの世のものであることに気づいていたように思います。『唯葬論』(サンガ文庫)の第二章「人間論」で詳しく紹介しましたが、イラクのシャニダール洞窟では、花をたくさん供えた死者の埋葬の跡が発見されました。それを行なったのは、最古のフラワー・ピープルであるネアンデルタール人でした。この洞窟は1951年から57年にかけて発掘され、その間に見つかった埋葬人骨の化石の土壌からノコギリソウ、スギナ、アザミ、ヤグルマソウムスカリタチアオイなど八種の花粉が集中的に発見されました。これらの花粉は、現在でも薬草として使われているそうです。その結果に基づいて、アメリカのR・S・ソレッキがネアンデルタール人の「花の埋葬」説を発表したのです。


 

花によって死者を供養する文化は日本で芸術の域にまで高められました。ブログ『花と死者の中世』で紹介した本に詳しく書かれているように、かつて戦国の世に、武将たちは僧侶とともに茶の湯と立花の専門家を戦場に連れていったとか。戦の後、死者を弔う卒塔婆が立ち、また茶や花がたてられました。茶も花も、戦場で命を落とした死者たちの魂を慰め、生き残った者たちの荒んだ心を癒したのです。茶と花が、いかに「平和」と結びついているかがよくわかるエピソードです。「癒し」と「平和」を求める現代日本人の心も「茶」と「花」を必要としているように思います。


青山フラワーマーケットの井上社長と

 

本書を刊行するにあたり、「フラワービジネスの革命児」として青山フラワーマーケットを全国展開する井上英明氏からは、素晴らしい写真をお借りしました。井上氏とわたしは、じつは大学の同級生です。学生時代、2人でよく酒を飲みながら「将来は何か世の中をハッピーにする仕事がしたい」と、夜通し語り合っていました。現在、井上氏は生花業、わたしは冠婚葬祭業と、道は違えど、ともに「花」を通じて世の人々を幸せにするお手伝いをしています。やはり、彼とは「同志」なのだと思いました。
「令和」への改元まで、あと8日です。


 

2019年4月23日 一条真也

三ヶ森紫雲閣竣工式

一条真也です。
22日の朝、小倉から車で八幡に向かいました。この日、「三ヶ森紫雲閣」の竣工清祓御祭の神事が行われるのです。わたしが現地に到着する直前、ケータイが鳴りました。全互協の儀式継創委員会の浅井秀明委員長(出雲殿社長)からでした。何かと思って電話を取ると、「東京オリンピックの開会式と閉会式のチケット、2枚づつ取れました。ぜひ、一緒に行きましょう!」と言うではありませんか。儀式のプロとして、ぜひ東京五輪の開会式か閉会式のどちらかは行きたいと思って各方面に当たっていたのですが、まさか両方とも行けるとは! 嬉しい! 浅井さん、すごすぎる!

f:id:shins2m:20190422105350j:plain完成した三ヶ森紫雲閣

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三ヶ森紫雲閣の前で

f:id:shins2m:20190422104650j:plain 自宅のような控室

f:id:shins2m:20190422104657j:plain休憩室

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 バスルーム

 

サンレーグループとしては、三ヶ森紫雲閣は福岡県内で38番目、全国で78番目(いずれも完成分)のセレモニーホール(コミュニティセンター)です。筑豊電気鉄道三ヶ森駅」近く、まるで自宅のリビングルームのような、ゆったりいとした最新控室を完備しています。一日一式のみご葬儀をお受けし、大切な人との最後の時間を心安らかに過ごせるよう、経験豊富なスタッフが真心込めてお手伝いいたします。

f:id:shins2m:20190422105215j:plain本日の式次第

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本日の神饌

f:id:shins2m:20190422110610j:plain竣工式のようす

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 一同礼!

 

神事の進行は、サンレー総務部の國行部長が担当。
竣工神事は地元を代表する神社である「鷹見神社」の波多野弘宣宮司にお願いしました。 開式の後、修祓之儀、降神之儀、献饌、祝詞奏上、清祓之儀を行いました。

f:id:shins2m:20190422111515j:plain清祓之儀のようす

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玉串奉奠で柏手を打ちました

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拝礼しました

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玉串奉奠のようす

f:id:shins2m:20190422113050j:plain神酒拝戴のようす

 

それから、玉串奉奠です。祭主に続いて、最初に株式会社サンレー社長であるわたしが玉串を奉奠しました。それから、関係各位のみなさんが次々に玉串を奉奠しました。その後、撤饌、昇神之儀、神酒拝戴、そして閉式と、滞りなく竣工清祓神事を終えました。

f:id:shins2m:20190422113358j:plain主催者挨拶をしました


それから、いよいよ主催者挨拶です。
わたしは、次のように挨拶しました。
本日、このように立派なホールを建設できて、本当に嬉しく思います。関係者のみなさまに心より感謝いたします。これで、会員様に満足のゆくサービスを提供することができます。ぜひ、新施設で最高の心のサービスを提供させていただき、この地の方々が心ゆたかな人生を送り、人生を卒業されるお手伝いをさせていただきたいと願っています。

f:id:shins2m:20190422113428j:plain三ヶ森について述べました

 

また、わたしは三ヶ森について、以下のように述べました。
三ヶ森が含まれる永犬丸・沖田、上津役地区では、昭和30年代の筑豊電気鉄道の開通や近年の土地区画整理事業の実施により開発された住宅地が共存し良好な居住環境を活かした済みやすいまちづくりが進んでいます。地域の中心を流れる「金山川」周辺には多数の化石層や遺跡が散在しており、八幡南地区は、藤の名所・吉祥寺やほたるの見所・黒川、畑貯水池など豊かな自然に恵まれています。

f:id:shins2m:20190422113307j:plain金山川について述べました

 

三ヶ森紫雲閣近隣に流れている川は金山川は八幡西区の西端に位置し、帆柱山を源に発します。金山というからには、昔、金の採掘が行われていたことが推測されていました。帆柱山には、帆柱新四国霊場の札所の、第60番「大日如来」が祀られているお堂があります。通称「金山さん」と言い、この霊場中では一番の難所だったと言われています。このお堂の直ぐ横に、金山の洞窟から出る水が滝となって流れ落ち、これが金山川として洞海湾に流れ込んでいます。昔は金山の洞窟から出る冷たい、清らかな水にうたれて修行する人も沢山いて、堂内に籠る方々もあったとのこと。滝の上に洞窟があり、ここが、黒田藩の命を受け、杉山家が金の採掘をしたと言われる金山の洞窟です。

f:id:shins2m:20190422113454j:plain 花のボランティア公園を紹介しました

 

また、金山川では、地元による河川愛護活動が大変活発であり、美化清掃活動や各種イベントが開催されています。昭和59年3月に桜を100本植樹して以後2年間に200本、合計300本の植樹をきっかけに春は桜・チューリップ・秋はコスモスと花の名所となり、現在 は金山川の花公園一帯を《花のボランティア公園》といっています。三ヶ森周辺では「金山川アートギャラリー」として地域住民や地元の学校から出展される絵画が川岸を飾り、芸術の秋を彩る地域の風物詩となっています。このように素晴らしい場所に三ヶ森紫雲閣がオープンする運びとなったのです。

f:id:shins2m:20190422113619j:plain美しき花咲き誇る金山の川の上には紫の雲(庸軒)

 

あと9日で、第126代の新天皇が誕生されます。
「令和」の時代になれば、あらゆるものが変わることでしょう。しかし、世の中には「変えてもいいもの」と「変えてはいけないもの」があります。変えてはいけないものとは、冠婚葬祭や年中行事などの「こころ」を豊かにする「かたち」です。わたしたちは、新時代においても日本人の儀式文化を守ってゆく所存です」と述べました。そして、最後は以下の道歌を詠みました。

 

 

美しき花咲き誇る金山の

 川の上には紫の雲(庸軒)

 

f:id:shins2m:20190422113748j:plain緒方支配人の決意表明を受けました

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決意表明を受け取りました

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緒方支配人とともに

f:id:shins2m:20190422114307j:plain集合写真を撮影しました

 

その後、緒方支配人より、この地の方々の人生の卒業式を心をこめてお世話させていただき、地域に愛される会館をめざしますという力強い決意を受け取りました。決意表明の後は、参加者全員で集合写真を撮影しました。
この日、直会は行われませんでした。その代わりに、松柏園ホテル謹製のお弁当が参加者にふるまわれ、わたしも持ち帰りました。美味しかったです。

f:id:shins2m:20190420124250j:plain「西日本」「朝日」「毎日」「読売」4月22日朝刊 

f:id:shins2m:20190313235236j:plain決定版 冠婚葬祭入門』(PHP研究所)

 

なお、「西日本」「朝日」「毎日」「読売」の各紙に竣工広告が掲載されました。拙著『決定版 冠婚葬祭入門』(PHP研究所)を抽選で30名様にプレゼントいたします。みなさま、どうぞ、ふるってご応募下さい!
オープニング見学会ですが、平成31年4月23日(火)~28日(日)、令和元年5月5日(日)・6日(月)に行われます。開業は令和元年5月7日(火)です。
「令和」への改元まで、あと9日です。

 

2019年4月22日 一条真也

「ハンターキラー 潜航せよ」

一条真也です。
連日、ハードスケジュールが続いています。
天下布礼に休みなし!」ということで頑張っていますが、心が疲れたとき、わたしは無性に映画が観たくなります。ということで久々にシネプレックス小倉に行って、映画「ハンターキラー 潜航せよ」を観ました。「ワイルド・スピード」の製作陣が放つ、潜水艦アクションの傑作でした。

 

ヤフー映画の「解説」には、こう書かれています。
「ジョージ・ウォーレス、ドン・キースの小説を原作にしたアクション。消息を絶ったアメリカ海軍原子力潜水艦の捜索に向かった潜水艦の運命を描く。監督は『裏切りの獣たち』などのドノヴァン・マーシュ。キャストには、『エンド・オブ・キングダム』などのジェラルド・バトラー、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』などのゲイリー・オールドマンらがそろう」

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ヤフー映画の「あらすじ」は以下のように書かれています。
「ジョー・グラス(ジェラルド・バトラー)が艦長を務めるアメリカ海軍の攻撃型原子力潜水艦ハンターキラーに、ロシア近海で行方不明になった同海軍原潜の捜索命令が下る。やがてハンターキラーは、沈没したロシア海軍の原潜を発見し、生存していた艦長を捕虜として拘束する。さらに、ロシアで極秘偵察任務にあたるネイビーシールズが、世界の命運を左右する巨大な陰謀をつかむ。それを受けてハンターキラーは、敵だらけのロシア海域に潜航する」

 

わたしはあまり観たことがないのですが、「潜水艦モノ」というアクション映画のジャンルがあるそうです。1980年代~90年代に大ヒットを飾ってきたとか。潜水艦とは、深海の逃げ場のない密室です。その中で、乗員たちはソナー音を頼りに己の耳と経験値だけで見えない敵と戦うわけですが、そこには極限の緊張感が漂います。また、彼らは不屈の闘志で、あらゆる危機的状況に立ち向かっていきます。そんな濃密な人間ドラマが人気を呼びましたが、21世紀になると、このジャンルは途絶えてしまいました。理由は、最新鋭の潜水艦テクノロジーに映像技術が追い付かなかったからです。それが2019年、元潜水艦艦長による原作と米国防総省×米海軍全面協力により、ついに超弩級の潜水艦アクション大作が復活しました。


潜水艦とは何か。Wikipedia「潜水艦」の「概要」には、「戦艦、空母、巡洋艦駆逐艦などの水上艦と潜水艦とを分ける最大の違いは、潜水艦が水中を航行できることである。特に第二次世界大戦以降の潜水艦は水中航行を主な目的としている」として、以下のように書かれています。
「レーダーの電波や可視光線がほとんど届かず、唯一捜索手段として有効な音さえも水の状況で伝播状況が複雑に変化する水面下で『深く静かに潜航』した潜水艦を探知・撃沈することは最新鋭の探知装置と対潜兵器を備えた現代の対潜部隊にとっても容易なことではない。潜水艦は自らの存在を気づかれることなく、敵哨戒網を突破して敵艦艇や輸送船を沈め、機雷を敷設し、そのほか特殊部隊の潜入支援や情報収集任務などに運用することができる。潜水艦のなかには巡航ミサイルによる対地攻撃、さらには核弾頭を搭載した弾道ミサイルの運用が可能なものも存在する。また、敵の潜水艦を攻撃したり、水上艦を敵の潜水艦から護衛することもある」

 

また、Wikipedia「潜水艦」の「概要」には、以下のようにも書かれています。
「そして水面下の『どこか』に魚雷、あるいはミサイルを持った潜水艦がいるという事実(「はったり」のこともあるが、それは潜水艦を探知するか、潜水艦から攻撃を受けない限りわからない)は敵に対して心理的圧力をかけ、結果として抑止にもつながるのである。その意味で潜水艦の持つ最大の武器は隠密性にある。潜水艦がたびたび『究極のステルス兵器』(Ultimate stealth weapon)と呼ばれ、潜水艦部隊が『沈黙の軍隊(あるいは不言実行の軍隊)』(Silent Service)と称されるゆえんである。
潜水艦は隠れることで真価を発揮するため浮上しないことが望ましいが、海中から航空機を攻撃することは難しく、攻撃すれば存在を知らせることになるため対空装備を有しないのが基本である。このため対潜哨戒機には一方的に捜索・攻撃されることになる」

 

わたしは子どもの頃、アメリカのSFドラマである「原潜シービュー号 海底大作戦」が大好きでした。また、東宝の特撮映画である「海底軍艦」も好きでした。SFといえば、“SFの父”と呼ばれたジュール・ヴェルヌの『海底2万マイル』のノーチラス号は最も有名な潜水艦です。SF作品に登場するロマンティックな潜水艦とは違って、「ハンターキラー 潜航せよ」に登場する潜水艦アーカンソーは最新鋭の軍事兵器です。海中でアメリカとロシアの潜水艦が激しく交戦するようすは迫力満点で、わたしがこれまで体験したことがないようなスリルを味わいました。

 

ワイルド・スピード」シリーズ製作陣により、潜水艦×特殊部隊ネイビーシールズのダイナミックな共闘も見ごたえがありました。ネイビーシールズといえば、アメリカ海軍特殊戦コマンドの管轄部隊で、「世界最強」とも言われています。「ハンターキラー 潜航せよ」を観て、わたしはネイビーシールズが大活躍するブログ「キャプテン・フィリップス」で紹介した映画を思い出しました。実際に2009年に起きたソマリア海域人質事件をテーマにした緊迫感あふれるドラマです。

 

2009年4月。アメリカのコンテナ船マースク・アラバマ号は、援助物資5000トン以上の食糧を積んでケニアに向かうべくインド洋を航行していました。リチャード・フィリップス船長と20人の乗組員にとっていつもと変わらない旅でした。しかし、ソマリア沖に入った時、事態は思わぬ方向へ暗転します。アラバマ号が海賊に襲われ、占拠されてしまったのですね。フィリップス船長は乗組員を救う為、身代わりとなり、海賊の人質になるという勇気ある決断をする。ソマリア海賊たちとの命がけの息詰まる駆け引きが続く中、アメリカも国家の威信を賭けた闘いに直面します。そして、海軍特殊部隊ネイビー・シールズが出動するのでした。

 

この「キャプテン・フィリップス」を観る前は、「アポロ13」や「キャスト・アウェイ」といったトム・ハンクスが出演した名作と似た内容をイメージしていました。つまり、極限状態に置かれた人間の知恵を描いた感動の物語です。でも、「キャプテン・フィリップス」は同じくトム・ハンクス主演の戦争映画「プライベート・ライアン」によく似ており、それほど感動はできませんでした。また、実際のフィリップス船長が英雄だとも思えませんでした。
真の海の英雄とは、大日本帝国軍人で、最後は海軍大尉であった第六潜水艇の佐久間勉艇長のような人物ではないかと思います。1910年4月15日、第六潜水艇山口県新湊沖で半潜航訓練中沈没して佐久間以下14名の乗組員全員が殉職した。同年4月17日に第六潜水艇が引き揚げられ、艇内から佐久間の遺書が発見されたのです。

 

その遺書の内容は同年4月20日に発表されるや大きな反響を呼び、同日中に殉職した乗組員14名全員の海軍公葬が海軍基地で執り行われた。殉職した乗組員は、ほぼ全員が自身の持ち場を離れず死亡しており、持ち場以外にいた乗組員も潜水艇の修繕に全力を尽くしていました。佐久間自身は、艇内にガスが充満して死期が迫る中、明治天皇に対して潜水艇の喪失と部下の死を謝罪し、続いてこの事故が潜水艇発展の妨げにならないことを願い、事故原因の分析を記した後、遺書を残したのです。
わたしの本名も佐久間というのですが、わたしは佐久間艇長を心から尊敬しており、素晴らしいリーダーであったと思っています。「ハンターキラー 潜航せよ」も「リーダーとは何か」を問う映画でした。大統領のリーダーシップ、艦長のリーダーシップ・・・・・・いずれも、極限状況の中でのリーダーシップが描かれました。

龍馬とカエサル』(三五館)

 

理想のリーダー像について、わたしは『龍馬とカエサル』(三五館)で詳しく書きました。リーダーたる者、場合によっては、独断で異常な決断をもしなければなりません。それがリーダー自身の運命だけではなく部下の人生も決定し、かつまた歴史をも変えるということもあるのです。かのユリウス・カエサルルビコン川を渡るあの時のあの決断、ローマ人たちは彼がそこを越えてきたら反乱軍とみなすという脅しをかけ、よもやその境を越えまいと思っていたところへ、シーザーはわずかの手勢を率いて川を渡り、奇襲をかけました。これによってカエサルの政権が誕生し、かつまた部下たちも繁栄したのです。


ハートフル・ソサエティ』(三五館)

 

「ハンターキラー 潜航せよ」には、2人の潜水艦艦長が登場します。アメリカのグラス艦長とロシアのアンドロポフ艦長です。この2人は「水の中で生きてきた」という共通点もあってか、敵味方を超えた信頼感を抱き合い、強い絆で結ばれます。そのとき、潜水艦アーカンソーは一種の心の共同体と化していました。拙著『ハートフル・ソサエティ』(三五館)で描いたような平和で平等な共同体です。それには、舞台が潜水艦内部という「深海」であったことも大きく影響していると思いました。

 

 

わたしはつねづね、交通網と情報網が高度に発達した現代において、人類のとって真の秘境とは3つだけであると考えています。宇宙と深海と霊界です。そして、その3つの秘境では、人類にとっての普遍的な意識が目覚めるように思えます。宇宙空間で宇宙飛行士たちが国家や民族を超えた「人類愛」のようなものを抱いたと同じく、深海でも同じ現象が起きたのではないでしょうか。

涙は世界で一番小さな海』(三五館)

 

拙著『涙は世界で一番小さな海』(三五館)で詳しく書きましたが、人類の歴史は四大文明からはじまりました。すなわち、メソポタミア文明エジプト文明インダス文明黄河文明です。この四つの巨大文明は、いずれも大河から生まれました。大事なことは、河というものは必ず海に流れ込むということです。さらに大事なことは、地球上の海は最終的にすべてつながっているということです。チグリス・ユーフラテス河も、ナイル河も、インダス河も、黄河も、いずれは大海に流れ出ます。

 

人類も、宗教や民族や国家によって、その心を分断されていても、いつかは河の流れとなって大海で合流するのではないでしょうか。人類には、心の大西洋や、心の太平洋があるのではないでしょうか。そして、その大西洋や太平洋の水も究極はつながっているように、人類の心もその奥底でつながっているのではないでしょうか。それがユングのいう「集合的無意識」の本質ではないかと、わたしは考えます。
その意味で、深海でアメリカとロシアが協力し合う物語の「ハンターキラー 潜航せよ」は「究極の平和映画」であると言えますが、これから迎える「令和」が平和な時代であることを願ってやみません。

 

しかし、平和というのは「戦争のない平和が続きますように・・・」と祈っているだけでは得られるものではありません。「ハンターキラー 潜航せよ」を観た同じ映画館で「空母いぶき」の予告編が流れていました。
20XX年、12月23日未明。未曾有の事態が日本を襲います。沖ノ鳥島の西方450キロ、波留間群島初島に国籍不明の武装集団が上陸、わが国の領土が占領されたのです。海上自衛隊は直ちに小笠原諸島沖で訓練航海中の第56護衛隊群に出動を命じましたが、た。その旗艦こそ、自衛隊初の航空機搭載型護衛艦《いぶき》でした。
日本が平和であり続けるためには、日本にもアメリカのような自助努力が求められる・・・・・・「空母いぶき」の予告編を観ながら、わたしはそのように考えました。
「令和」への改元まで、あと10日です。

 

2019年4月21日 一条真也

『よくわかる伝説の「聖地・幻想世界」事典』 

一条真也です。
30冊目となる「一条真也による一条本」をお届けします。『よくわかる伝説の「聖地・幻想世界」事典』(廣済堂文庫)です。サブタイトルは「アトランティス、ラピュータから、桃源郷ナルニア国まで」です。2009年2月28日に刊行された監修書で、造事務所の編著です。


よくわかる伝説の「聖地・幻想世界」事典
(2009年2月28日刊行)

 

カバーには城に向けて剣を突きだす騎士の姿が描かれ、帯には「シリーズ累計50万部突破!」「『ハリー・ポッター』『ナルニア国物語』『ゲド戦記』『ロード・オブ・ザ・リング』などにも登場した68の理想郷や異界の全貌が明らかに!!」「すべての場所を荘厳なイラストで再現」と書かれています。


本書の帯

 

また、カバー裏には以下の内容紹介があります。
「聖地――そこには、人びとを魅了するロマンがある。幻想世界――そこには、ファンタジックな景観が広がる。われわれが住む現実社会と一線を画す、魔訶不思議な異界にあこがれる人は多いはずだ。なぜなら、それらはすべて人間の心が生みだした世界だから。そう、人間の究極の“理想郷”は、あなたの心のなかにあるのだ。本書は、神話・伝説・おとぎ話の舞台から、実在する宗教遺跡まで、68の理想郷を紹介。伝説の『聖地』と『幻想世界』の旅を存分に楽しんでほしい」

 

本書の「目次」は、以下のようになっています。
〈はじめに〉 伝説の「聖地・幻想世界」にようこそ!
あなたを異界へといざなう 8大「聖地」「幻想世界」
【LEGEND1】西洋に伝わる聖地・幻想世界
すべての人のあこがれを駆りたてるヨーロッパの「空想名所」伝説
●一昼夜で海中に消えた幻の大陸 アトランティス
ギリシャの神々の住処 オリュンポス山
●9つの世界を貫く宇宙樹 ユグドラシル
アーサー王の眠る“この世のかなたの地” アヴァロン島
●日本にも伝わる謎の大地 ムー大陸
●最初の人間が暮らしていたパラダイス エデンの園
アンデス奥地の黄金都市 エル・ドラド
ユダヤ教における死後の世界 シェオール
●天から降る硫黄の火で滅んだ都市 ソドムとゴモラ
●実在する吸血鬼の本拠地 ドラキュラ城
[column]地球の形、大論争!
●猛々しい女戦士の国 アマゾニア
アーサー王と円卓の騎士たちの拠点 キャメロット
●船乗りたちがおそれた怪物岩 スキュラの岩
イスラム教の“男の楽園” ジャンナ
●根元人種の住んでいた大地 レムリア
ミノタウロスを封印する迷路 ラビュリントス
●精霊が住む西の楽園 ヘスペリスの園
●自然豊かな理想郷 アルカディア
ゾロアスター教の天国 ガロー・デマーン
●まだ見ぬ東方のキリスト教国家 プレスター・ジョンの国
[column]ゼウスと帝釈天、最強の聖地の主はどっちだ!?
【LEGEND2】東洋に伝わる聖地・幻想世界
山海のかなたに思いをはせたアジアの「聖なる場所」の物語
●世界の中心にそびえる立方体 須弥山
●神々が労働する!?天上の集落 高天原
●地下に広がる死者の世界 黄泉の国
●雪山に囲まれた仏教王国 シャンバラ
●灼熱の責めを受ける地下世界 八大地獄
仏教徒があこがれる究極の楽園 西方浄土
[column]伊勢神宮出雲大社の謎
●六文で渡れる冥界への入口 三途の川
●太陽神が閉じこもった洞窟 天岩戸
●真っ赤に燃えさかる山脈 火焔山
●海のかなたにある神の国 ニライカナイ
●桃林の奥にたたずむ静かな村 桃源郷
●東の海に浮かぶ幻の島 蓬莱
●仙人だけが登れる霊峰 崑崙山
竜神が住まう海底の宮殿 竜宮
●神が地上に降りるときにかかる虹 天浮橋
[column]報われない冥界の王、ボヤキ座談会
【LEGEND3】ファンタジーの聖地・幻想世界
豊かな創造力によって生みだされたファンタジー小説の舞台
トールキンが創造した古来の地球 中つ国
●美しい海に囲まれた多島世界 アースシー
●ヨーロッパ社会が夢みた理想郷 ユートピア
●邪神と結託した恐怖の町 インスマス
●永遠の子どもの世界 ネヴァーランド
宮沢賢治が夢みた理想郷 イーハトーヴ
●空中の科学都市と荒れはてた属国 ラピュータとバルニバービ
●だれもが主人公になれる世界 ファンタージエン
[column]ファンタジーを継承する舞台
●文明から切り離された魔法王国 オズの国
●“永劫の罰の地”への入口 地獄門
●ライオンがつくった魔法の国 ナルニア
●常識や理性の通用しない世界 ワンダーランド
●陽光を覆う巨鳥がすむ無人島 ロック鳥の島
●魔法使いの卵が集う名門校 ホグワーツ
●知恵ある馬と愚かな人間の地 フウイヌム国
●地下30キロの海域 リンデンブロック海
クトゥルフ神話への玄関口 アーカム
大自然が生んだ漆黒の地下道 アラビア海底トンネル
[column]聖地を考えた人のホンネ座談会
【LEGEND4】実在する伝説の聖地
訪れる人を荘厳な思いに誘ういまも実在する名所の秘話
●東の海のはてにある黄金の国 ジパング
イエス・キリストが処刑された地 ゴルゴタの丘
●幻の古代日本王国 邪馬台国
モーセが神の言葉を聞いた聖地 シナイ山
●世界三大一神教に共通する聖地 エルサレム
[column]超巨大大陸・パンゲア
ノアの方舟がたどり着いた場所 アララト山
●乳と蜜が流れる約束の地 カナン
空海が開いた真言宗総本山 高野山
シヴァ神の住まう氷の霊峰 カイラス
チベット仏教の本拠地 ラサ
イスラム教最大の聖地 メッカ
●黄金に彩られた寺院都市 アムリトサル
朝鮮民族発祥の地 白頭山
●謎めいた巨大環状列石 ストーンヘンジ
●大地に描かれた巨大な絵画 ナスカの地上絵
「聖地・幻想世界【索引】」
「参考文献」


西方浄土

 

本書は夢のトラベルガイドです。旅とは、日常暮らしている土地を離れ、異なる土地におもむき、非日常の世界を味わうもの。ならば、本書は最強のトラベルガイドであるはずです。なにしろ、本書が紹介している土地は、「伝説の聖地」、そして「幻想世界」。これ以上に非日常の世界はありません。


エデンの園

 

人類は、これまで多くの土地を夢想し、あこがれ、求めてきました。いわゆる「理想郷」です。たとえば、西方浄土エデンの園桃源郷アトランティスユートピア、ネヴァーランドなどなど。しかし、よく見ると、これらの理想郷は必ずしも同じジャンルの中にはありません。極楽とも呼ばれる西方浄土は死後の理想世界ですし、エデンの園桃源郷は地上の楽園であり、アトランティスは伝説の大陸、ユートピアは理想都市、そしてネヴァーランドはおとぎの国です。


アトランティス

 

これらバラエティに富んだ世界の相関関係について、わたしは次のように考えます。まず、天国や極楽といった天上界から三次元世界に生まれてきた人間が、以前の至福の生活を潜在的に記憶していて、楽園というものを地上に想定する。そして、楽園にまつわる神話から転じて、アトランティスという伝説の大陸、ユートピアという理想都市のアイデアなどが現れたのではないでしょうか。


ナルニア

 

ユートピアはトマス・モアの小説に由来しますが、同じように文学的イマジネーションからは多くのファンタジー作品が誕生し、ネヴァーランドや中つ国、ナルニア国、アースシー、ファンタージェンといった魅惑的な舞台が創造されました。それらの理想郷は、いずれも人間たちが「かく在りたい」と願った夢の世界にほかなりません。


ストーンヘンジ

 

そして、本書には実在する聖地も登場します。わたしは本書が刊行される少し前にストーンヘンジを初めて訪れたのですが、そこで非常に強いパワーを感じました。それは、かつて伊勢神宮出雲大社で感じたものと似ていました。思うに、「空間」とはデカルトがいうような延長的で均質なものではありません。世界各地には、さまざまな異界に通じている場所、すなわちパワースポットとしての「聖地」が存在するに違いありません。


ラサ


おそらく地球とは、聖地というブラックホールあるいはホワイトホールによって、たくさんの穴を開けられた多孔体なのでしょう。ストーンヘンジも伊勢も出雲も高野山も、シナイ山エルサレム、メッカ、エルサレムカイラス山、ラサ、アムリトサルも、すべては異界に通じる孔にすぎないのです。聖地で感じるパワーとは、異界から吹く風なのだと思えてなりません。本書は異界に通じる扉のカタログでもあるのです。


ホグワーツ

 

「伝説の聖地」には、人々を魅了するロマンがあります。「幻想世界」には、ファンタジックな景観が広がります。いずれにせよ、わたしたちが住む現実世界と一線を画す、摩訶不思議な異世界にあこがれる人は多いはず。なぜなら、それらはすべて人間の心が生み出した世界だからです。そう、究極の聖地、最高の幻想世界は、あなた自身の心の中にあるのです。


シャンバラ

 

さらに、本書は極上のテーマパークでもあります。ロック鳥の島やアラビア海低トンネルでハラハラし、エル・ドラドジパングでの宝探しに興じ、シャンバラや竜宮で癒される。おまけに、八大地獄やドラキュラ城といった、とびきり怖いホラー・アトラクションまである・・・・・・。
まさに至れり尽くせりの紙上テーマパークです。さあ、本書を読んで、「伝説の聖地」と「幻想世界」で、思う存分に心を遊ばせていただきたい。ひととき、この退屈な現実世界など忘れてしまおうではありませんか!


リゾートの博物誌』(日本コンサルタントグループ)

 

なお、本書はブログ『リゾートの博物誌』で紹介した拙著を一般向けに親しみやすい内容とした形になっています。本書をケルト文学をはじめ幻想文学研究の第一人者である井村君江先生にお送りさせていただいたところ、井村先生から「とても興味深い御本ですね。本当は、こういうものを自分の弟子に作ってほしかったのですけれど・・・」と直筆で書かれたお手紙を頂戴しました。とても良い思い出となりました。
「令和」への改元まで、あと11日です。


2019年4月20日 一条真也

敬天愛人(西郷隆盛) 

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一条真也です。
言葉には、人生を変える力があります。
今回の名言は、幕末の英雄・西郷隆盛の言葉です。
彼は、幕末を代表する儒者である佐藤一斎の影響を受けていました。ブログ「毀誉褒貶は人生の雲霧なり(佐藤一斎)」で紹介したように、一斎はつねに「天」を意識していました。その思想は西郷隆盛に受け継がれ、西郷は「敬天愛人」を座右の銘としました。さらに、その思想は鹿児島出身の名経営者である稲盛和夫氏に受け継がれました。


鹿児島市内にある西郷隆盛

 

ある日、陸軍大将であった西郷が、坂道で苦しむ車夫の荷車の後ろから押してやったところ、これを見た若い士官が西郷に「陸軍大将ともあろう方が、車の後押しなどなさるものではありません。人に見られたらどうされます」と言いました。すると、西郷は、憤然として次のように言い放ったといいます。「馬鹿者、何を言うか。俺はいつも人を相手にして仕事をしているのではない。天を相手に仕事をしているのだ。人が見ていようが、笑おうが、俺の知ったことではない。天に対して恥じるところがなければ、それでよい」

 

西郷南洲遺訓―附・手抄言志録及遺文 (岩波文庫)

西郷南洲遺訓―附・手抄言志録及遺文 (岩波文庫)

 

他人の目を気にして生きる人生とは、相手が主役で自分は脇役です。正々堂々の人生とは、真理と一体になって生きる作為のない生き方です。天とともに歩む人生であれば、誰に見られようとも、恥をかくことはありません。  
東洋思想を象徴する言葉に「天人合一」があります。
天、つまり宇宙と人生とは別のものではなく一貫しているという意味です。宇宙には「道」という根本的な法則性があって、宇宙の一員である人間も、そこを外れては正しい人生も幸せな人生も歩むことができません。


西郷の座右の銘であった「敬天愛人

 

それに対して、西洋では「天」つまり自然と人間とを対立するものととらえてきました。人間は自然の一部というより、自然は人間が征服すべきものという考え方です。その成れの果てが、地球の環境破壊ではないでしょうか。


天を相手に正々堂々と生きたい!

 

西郷隆盛は明治以後の日本人で最も人徳、人望のあった人物と言われています。わたしも天を相手に正々堂々と仕事し、生きたいものだと願っています。なお、今回の西郷隆盛の名言は、『孔子とドラッカー新装版』(三五館)にも登場します。
「令和」への改元まで、あと12日です。

 

 

 2019年4月19日 一条真也